#2.サマリア
静かに胸を裂くストーリーでした。優しい音楽との相乗効果が相まって、心に訴えかけてくる。
簡単に常識・非常識で割り切ることの出来ない物語。
ベルリン国際映画銀熊賞受賞。
監督・キム・ギドク
ストーリー・・・
少女二人、チェヨン(ソ・ミンジョン)と、ヨジン(クァク・チミン)は親友同士。いつも一緒に行動を共にしていたが、ある時、二人でヨーロッパ旅行をめざし、お金を稼ぐためにと、チェヨンは売春を、ヨジンはその付き合いで見張り役を務めるようになる。
インドの娼婦“バスミルダ”という、寝た男を改悛させたという話を交わしながら、チェヨンはいともた易く売春行為を行ってゆく。
ヨジンの心配をヨソに、チェヨンはそれを軽々とこなし、相手の男を「こんな職業で、いい人で・・・」などと語るチェヨン。処女であるヨジンは、なんだか置いてけぼりを食らわされたような、寂しい気持ちと、そうした行為に対する嫌悪感に挟まれ、さらに、親友チェヨンを心配に思う気持ちで、思いは千々に乱れる。
ある日、チェヨンが売春を行うそのラブホテルに警察の取り締まりの手が入る。
チェヨンは、階上からふわりと飛ぶように落ちてしまう、その現場を下で待っていたヨジンは目の当たりにしてしまうのだった。・・・
普通に考えたら、この少女が売春をあまりにも簡単に行う姿というものに、ショックを受けるのかもしれない。
でも、私は、この描き方というものが、とてもリアリティのあるものだったように思う。
“お金を簡単に稼ぐために”という理由で、自分の今まで知らなかった世界に、感単に足を踏み入れてしまう少女の姿というものが、とても自然に、あっさりと描かれている。理由の一つは好奇心でもあるし、変身願望というものもある。
この話は3部に分かれていて、ここまで話したあらすじは、一章に過ぎない。
章立ては次のようになっていて、
第一章 バスミルダ
第二章 サマリア
第三章 ソナタ
一章が、少女二人の揺れ動く様を見つめるストーリーであるとすれば、二章のサマリアはヨジンが罪の意識をあがなう中で、生き方を変えてゆく物語。
以下ネタバレで進むと、このようになる::::::::
※強烈にネタバレしていますので、興味のある方は、読まないで下さい。
二章で、親友の死に衝撃を受けたヨジンは、自分の出来なかった、下でかつて見張り役として待っていたに過ぎなかったその行為、売春を、チェヨンが会った人と行い、お金を返してゆく、という、とても奇妙な罪の贖いを繰り返してゆく。
“自分の親友のために”という大義で、同じことを自分に課すヨジン。
それが女の子にとって、とても大事で、周りから理解されなくても、道義に外れていても、なぜか少女の世界では、とても大事なことで、それが親友の弔いの行為になりうるのだ。
なぜだか、私はこの話で、吉本ばななの『つぐみ』を思い出した。
つぐみは、なくしてしまった友達の生を代わりに引き受けてゆくかのように、生きてゆくのだ。自分の半身を探すかのように。
なぜ、少女がこのような行動を取るのか、きっと、本人以外の誰にも分からないかもしれない。
だが、本人にとっては、かけがえのない失ったものを取り返す方法として、こうして自分を同化させてしまうことがある。
だが、こうした行動が、第三章での悲劇に繋がってゆく。
第三章のソナタでは、ヨジンの父親、ヨンギ(イ・オル)から見た視線で語られている。
父親ヨンギは、娘ヨジンのそうした行動を知ってしまう。そうした行為の意味の全てを、この父親が一人で一身に引き受けるかのようにも見える。
まるで、かつて、ヨジンがラブホテルの下で見張り役をやっていた時と、その同じ場所で、父ヨンギは彼女の行動を逐一観察しているのだった。
チェヨンと、ヨジン、二人の少女が、犯した罪の意味の分からぬまま、その行為を繰り返したこと。そのことを、父親ヨンギがその意味を一身に引き受けるかのように。
だが、ヨンギには、そのような少女の心の内は、分からない。
問いただすこともない。だが、相手の男に復讐してゆく。
たった一人で、そうしたことを行い、自分自身が罪に汚されてゆく父・ヨンギの姿は、とても強烈に心に残る。
父ヨンギは、娘に、そうした行動を問いただしたり、それを叱ることが一度もなかったのは、深い愛からに違いない。
だが、そうしたコミュニケーションのいびつな姿は、雪だるま式に更なる悲劇を迎えてゆく。
(『人間・失格』という野島伸司のドラマを思い出してしまった。)
自らの娘を殺す夢を見る父ヨンギが、起きてすぐに、河原の石に色を塗るシーンが格別にいい。
車の運転を教え、人の道に外れない生き方を教え諭しているかのように思える。
本当であれば、自らの手で娘を葬ってしまいたい気持ちというのが心の奥に存在しつつも(夢)、その真逆に、彼女にとって最後に必要なことを教える父ヨンギ。
この逆のモチーフがなんだか胸に響いて余計に切ない。
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コメント(33件)
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サマリア
なぜだかドラえもんのキーホルダーが印象に残ってしまった。そして鑑賞後、無性に太巻きが食べたくなったのは言うまでもない・・・
俺もそろそろ「人間失格」のレッテルを貼られそうなのですが、誰にも迷惑かけません!許してください。
サマリア@恵比寿ガーデンシネマ
キム・ギドクは韓国映画界で最も評価の高い監督であろう。韓国は日本以上の学歴社会らしい。小卒の彼はそのハンディ・キャップを諸共せず、見事ここまで登りつめた。日本人に例えるなら安藤忠雄か。イマジネーションとクリエーション、そのアウトプットのバランスが現在の映…
>それが女の子にとって、とても大事で、周りから理解されなくても、道義に外れていても、なぜか少女の世界では、とても大事なことで、それが親友の弔いの行為になりうるのだ。
なるほどねえ。
この辺は僕にはなかった見地です。
女性ならではの視点ではないでしょうか。
勉強になりました。
チョヨンとヨジン、ヨジンとヨンギの、
2組もしくはそれぞれのコントラストが何かこうグッときました。
kossyさんへ(いいのか?)
こんばんは!コメントありがとうございました。
ウッ・・kossyさんが“人間失格”ですか。
私もです・・・でも、kossyさんと一緒なら、いいや
現象さんへオヤジ変身願望強いけど・・・
こんばんはー☆
>女性ならではの視点
そうですか。ま、“永遠の少女”と言えば私ですからねーがっはっはっ
>それぞれのコントラスト
そうですね、この対照性と、あと最後の、父ヨンギが見た、娘ヨジンを殺す夢。
にもかかわらず、ヨジンに生きる“道”を示すという、その対照性もとても際立っていたような気がしますね☆
コメ&TBありがとう。
切ない映画でしたね。
>なぜか少女の世界では、とても大事なことで、それが親友の弔いの行為になりうるのだ
なるほど。少年の世界とはまた異なりますね。そういうことだと思います。
NO.117「サマリア」(韓国/キム・ギドク監督)
私たちは遠からずみんな狂ってしまうかもしれない。
韓国の「北野たけし」などと呼ばれることもあるキム・ギドク監督。いつも、「加虐と被虐そして自虐」と自ら述べているように、荒々しい問題提起の作風で物議を醸してきた。その、ギドク監督が前作「春夏秋冬そして春」で…
映画『サマリア』
原題:Samaritan Girl
この映画、公開されたとき、二人とも可愛くて、特にチェヨン役の子が魅力的でいい、観たいと思いつつ見逃して、・・思い出したようにやっと観た・・・。
相手の家さえ知らないのに、いつも二人で時には抱き合いキスさえしちゃうほど仲のいい…
kimion2000さんへ
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします。
>少女の世界
そうですね、この罪の償い、サマリア的行動は、友達への弔い行動だった、と私は思っています★
あるいは、自己への同化、と。
『サマリア』
いつも仲良しのヨジンとチェヨン。
チェヨンはネットで知り合った男性と援助交際を続けている。そんな行動を不潔だと思いながらも見張り役として彼女の援助交際をサポートしているヨジン。
ある日チェヨンが利用しているホテルに警官が取り締まりに入る。警官に捕ま….
映画「サマリア」を観て
「ここからは一人で運転しなさい。パパはついていかないよ。」
車の運転を教える父が、娘に言う。
彼は、愛する人を自由にすることで、自分も自由になったのだと、私は感じた。
ヨジンとチェヨンは女子高生。チェヨンは援助交際をしている。ヨジンは、見張り…
とらねこさん、TB&コメント、どうもありがとうございました。
私、現象さんトコに、「サマリア」を「ソマリア」と書いた事があり、恥ずかしかったです。
殴られる男が、だんだん、ただの赤い肉塊と化すシーンが強烈でした。飛び降りた男の臓物が、静かにゆっくりと地を滑るシーンも。
少女達を観て、複雑な気持ちになりました。
とみさんへ
こんにちは★
うはは♪「ソマリア」かあ〜。とみさん、私はね、「ソマリア」を、「ンマリア」だと思っていましたよ。
中3の時、初恋の人(世界史が得意)に向かって、
「“ン”から始まる国があるんだけど、知ってる〜?」
と、偉そうに言った記憶があります。で、案の定、相手は知らなくって、
「ふふふ、知らないでしょう。答えは、“ンマリア”だよっ!」
と、間違ったことを教えてしまいました。
そのことを考えると、今でも、恥ずかしくなります。
そう言えば、この映画の血の出るシーンは、結構エグかったかもしれませんね。
サマリア
オフィシャルサイト
2004年 韓国
監督:キム・ギドク
出演者:クァク・チミン/ハン・ヨルム/イ・オル
ストーリー:父親と二人暮らしをしている女子高生ヨジン(クァク・チミン)。彼女の親友は同級生のチェヨン(ハン・ヨルム)だったが、チェヨンはいつからか、…
「サマリア」
ふふ、見ましたDVD。よいですねー、ギドクワールド。もうその世界が好きなんで私的にはもう感想もいらないんですがwやはり語りたい(どっちなんだ) 予想を大きく裏切ったのはセリフが多かったwキム・ギドクとしてはってことですが。中文解読に不安があったのですが、途….
若葉マークの車がヨロヨロ走り出す引きのカットには泣けました…
言葉数が非常に少ないにもかかわらず奇想としか言いようのない物語を語りきってしまい観るものに絶大なインパクトを残す…
ギドク監督は稀有な才能を持った凄い映像作家だと思います。ベルリンとヴェネチアで監督賞二冠制してますしね…でも興行的には苦戦してるんだな〜
ちょい先の話になりますが最新作『絶対の愛』(今度のテーマは整形!)の公開にあわせてスーパーギドクマンダラと称してレトロスペクティブやるみたいですよ(2/24〜3/16@ユーロスペース)
ラインナップは
『魚と寝る女』『悪い男』『春夏秋冬そして春』『サマリア』『うつせみ』『弓』『受取人不明』『コーストガード』
そして劇場未公開、日本初公開の『悪い女-青い門』『ワイルド・アニマル』『リアル・フィクション』
お時間があればぜひ!
みさま
こんばんは〜☆
コメントありがとうございます!
へえ、ギドク新作公開ですか♪それは、見なければいけませんね。で、今度のテーマは整形なんですね。
韓国の整形業界は、やたらと発達しているし、韓国女性のほんとうに多くが(何%とか忘れましたが)整形しているというし、このことが映画になったのて、あんま聞かないですよね。楽しみだ〜♪
そして、2月終わりから、ユーロで特集ですか!
それは、是非とも、DVDになっていないのを優先的に、見に行かなければいけませんね!
教えてくれてありがとうございます。
でも、みさまもギドク好きだったのですね!ほええ。
劇場未公開のものまでやるなんて、それぁ見ものだい♪るん。
きっと見に行きますよぉ〜。そろそろ、ユーロ、会員にならなきゃいけませんね・・・。
「サマリア」
サマリア
「サマリア」 ★★★★
SAMARIA (2004年韓国)
監督:キム・ギドク
キャスト:クァク・チミン、ソ・ミンジョン、イ・オル、クォン・ヒョンミン、オ・ヨン、イム・ギュノ、イ・ジョンギル
⇒
「サマリア」
サマリア
「サマリア」 ★★★★
SAMARIA (2004年韓国)
監督:キム・ギドク
キャスト:クァク・チミン、ソ・ミンジョン、イ・オル、クォン・ヒョンミン、オ・ヨン、イム・ギュノ、イ・ジョンギル
⇒
ギドク作品は深いですね、援交や売春という行為を表層的に見るだけではこの作品は理解できないと思います。と言いつつ自分なんかには到底辿り着けない深遠という印象ですがw
「魚と寝る女」とこの「サマリア」が一番好きです。
linさんへ
こんにちは★
コメントありがとうございます。
linさんはさすがですよね!こういった作品の良さをきちんと分かるひと、という気がします
>自分なんかには到底辿り着けない深遠という印象
いやいや、私もですよー。
なんだか、この対象への断絶感がたまらなく不安に思えてきますよね。
linさんオススメの『魚と寝る男』は是非とも見てみたいです!
<サマリア>
2004年 韓国 97分
原題 Samaritan Girl
監督 キム・ギドク
脚本 キム・ギドク
撮影 ソン・サンジェ
音楽 パク・ジウン
編集 キム・ギドク
出演 ヨジン:クァク・チミン
チェヨン:ソ・ミンジョン
ヨンギ:イ・オル
ヨーロッパ旅行に行…
『サマリア』みましたぁ!
『サマリア』クァクチミン/ソミンジョン(ハンヨルム)共演
사마리아(Samaria)…..2004年キムギドク監督作品
junsanga的評価 ★★★★☆(4つでいいのか!と思いつつ)
【1】おっとけー…いきなりの女子高生の援○交際がテーマになっていて…
サマリア
女子高生のヨジンは母を亡くし刑事の父と二人暮し。親友のジェヨンは、ヨーロッパ旅行に行くお金のために,ネットで知り合った男たちと援助交際をしている。ジェヨンがモーテルで男たちと会っている間,ヨジンは外で待つ。「インドにパスミルダという娼婦がいたの。…
サマリア
お得意の性と暴力の世界…やっぱりそんな印象の映画でした。
でも1章を「性」、2章を「ファンタジー」、3章を「暴力」に分けるというこういうチャプター形態になっているのもオムニバス映画でもないのに関連性をも??
DVD“サマリア”
サマリア/クァク・チミン
¥3,192
Amazon.co.jp
仲のいい女子高生2人が、援助交際をしている。
ヨジンは男と連絡を取り、お金の管理と見張り役、
そしてチェヨンを送り出し、チェヨンが実際に男と会う。
ある時ホテルに警察…
独断的映画感想文:サマリア
日記:2007年10月某日 映画「サマリア」を見る. 2004年.監督:キム・ギドク. クァク・チミン,ソ・ミンジョン,イ・オル. 「バスミルダ」「サマリア」「ソナタ」の3章からなる映画. チェヨンと
とらねこ様
TB有り難うございました.
ギドク監督はこの作品が初めてですが,韓流にもこういう監督がいたんだと思った次第です.
こういう宗教聖・象徴性を持った作品は昔から好きです.この作品自体は自分の思い入れと微妙なずれがあり,はまるところまでは行きませんでしたが.
監督の他の作品も見てみたいと思います.
ほんやら堂さんへ
初めまして、こんばんは〜♪こちらこそ、TB、コメントありがとうございました!
ほんやら堂さんは、ギドク初体験だったのですね☆
そうですね、この作品は、ちょっと難しいテイストがあったかもしれません。
私にとっては、ギドク作品は、なんとも言えない「割り切れなさ」、分かりやすい物語でないところが、たまらなく心にのしかかってくる感じと言いましょうか・・ちょっと難しいですが・・・
そうですね、もしまたギドクの他の作品をご覧になったら、またTBくださいまし^^
お話くださって、ありがとうございました!
サマリア
『この痛みを抱いて生きる』
コチラの「サマリア」は、第54回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀監督賞)を受賞したR-15指定のラブ・サスペンスです。監督は、「魚と寝る女」のキム・ギドク監督です。援助交際をする女子高生を3部構成で描いています。
ヨジン(ク…
【DVD】サマリア
■動機
キム・ギドク観賞
■感想
うわぁ・・・重っ
■満足度
★★★★★★★ まんぞく
■あらすじ
警察官である父と二人暮らしの女子高生・ヨジン(クァク・チミン)の親友・チェヨン(ソ・ミンジョン)は海外旅行費捻出のために売春をしていて、ヨジンはそれを嫌い…
『サマリア』
一部で注目されている韓国のキム・ギドク監督作品ベルリン映画祭銀熊賞受賞(同監督作品「弓」鑑賞過去日記)-Story-ヨジンは、刑事をしている父のヨンギと2人暮らしの女子高生。親友チェヨンは、卒業旅行の旅費を稼ぐために援助交際をしている。ヨジンはそれを嫌いなが…