#1.ダーウィンの悪夢
恐ろしい話だった。悪夢のよう、まさに・・・。
真実がどこにあるか、こういった恐るべきドキュメンタリーには、必ずといっていいほど、それを覆すような意見も出てくるだろう。だが、それほどに、ここで描かれている物語は、残酷で、・・・だが、非情である世界全体を俯瞰した図が描かれているように思えるのだ。
少なくても、これは、必見と言える価値のあるドキュメンタリーであることに間違いはない。
以下、ネタバレで進みます::::::::::::
アフリカ、タンザニアの、ヴィクトリア湖。そこで生存する生物の多種多様性から、“ダーウィンの箱庭”と呼ばれていた。その湖に、今から半世紀ほど前、“ナイルパーチ”という大食で肉食の外来魚が、実験的に放たれた。
ナイルパーチは、もともと生息していた魚の多くを駆逐しながら、どんどん増え、状況は一変する。一大漁業が誕生し、周辺地域の経済は潤う。
だが同時に、その新たな経済がもたらしたものがあった。
一部の富裕層が肥える一方で、貧富の差が歴然として湖畔の経済に降りかかってくる。それまでは、どんなに貧しくても、餓死する人はいなかったという。
だが、この経済のおかげで、貧困・売春、それに伴った、エイズの蔓延。・・・
エイズにより、親を亡くす子供たちがストリートチルドレンになる。
ナイルパーチの梱包財から作った、劣悪なドラッグを吸う彼ら。
ナイルパーチの切り身は高すぎ、捨てられた頭と骨の魚の残骸がうず高く積み上げられるその有様。
高温で焼いた焼却の煙により、目をなくす人も居る。・・・
さらには、恐ろしいことに、ヨーロッパからアフリカに運んでくる飛行機に、武器が積まれているという疑惑が。もしこれが本当なら、そのためにアフリカの内紛が止まないということになる。・・・
EUが協議の際に、この水産業がこの国にもたらした経済的効果ということを訴える。だが、その隣では内紛と、消えることのない飢餓が拡がってもいるのだ。
まさに悪夢の連鎖である。
チャールズ・ダーウィン『種の起源』で言えば、適者生存、弱者が消え去って強者が生き残っていく。このヴィクトリア湖の中でナイルパーチが他の魚を食い尽くすように、この世界でも、ヨーロッパ、日本を始めとした富裕の国、北半球に輸出する魚のために、こうしてアフリカが終わらない悪夢を迎えている。・・・
こうしたことは、なんとなくとは言え、考えなくもないことではあったが、こうして辛い映像を目の当たりにして、一体どう結論づけていいかが分からない自分がいる。
もちろん、この映画の公開当時のヨーロッパのように、魚だけをボイコットして終わるものでは決してないのだ。
この痛々しい悲劇を見て、富裕の国に住むことに罪悪感を覚える。
だが、どうすればいいのか、その答えが見つからない。
日本でも、給食、お弁当で、白身魚のフライとして、日々口に入る魚だ。
他人ごとでは決してないのに。
その身を全部食べ尽くされ、骨だけになった魚は、まるでアフリカそのものを象徴しているかのようだ。
その身を食べているのが肥え太る国、我々なのだと考えると、気持ちが暗くなる。
この映画は嘘だ!と主張出来るなら、どれだけ安堵感を覚えるだろう。
・ダーウィンの悪夢@映画生活
2007/01/04 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物
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<ダーウィンの悪夢>
2004年 オーストリア・ベルギー・フランス 112分
原題 Darwin’s Nightmare
監督 フーベルト・ザウパー
脚本 フーベルト・ザウパー
撮影 フーベルト・ザウパー
映画『ダーウィンの悪夢』
原題:Darwin’s Nightmare
かつて"ダーウィンの箱庭"といわれたアフリカ最大の湖"ヴィクトリア湖"、いまや肉食魚ナイルパーチが異常繁殖、もはやナイルパーチさえ滅びる悪夢が・・・
ヴィクトリア湖は多種多様な生物の宝庫だったという、そこ…