150.リトル・ミス・サンシャイン
嫌味のない笑いと、無理のない展開、これに心からの感動まである、本当に3拍子揃った傑作のように思う。
一人ひとりのエピソードも、すごく良く描けていて、すんなりとした呼吸を感じる様は、見事の一言。
お正月一番オススメの映画!なんて声高に言いたいです。
まるで自分がそこに居るかのように感じてしまうのって、凄いよね。・・・
ストーリー・・・
アリゾナに住むフーヴァー一家の一番下の娘、オリーブ(アビゲイル・ブレスリン)は、ビューティー・コンテストの地区大会の結果、2位の予選敗退だった。
ところが、繰上げ当選で、なんと決勝に進出できることが決まった。
そこで、デコボコの家族と、プラス、失恋の痛手から自殺未遂を図った、叔父のフランク(スティーブ・カレル)を乗せて、一路決戦のロサンゼルスへと、オンボロビートルで旅をすることになった。みんなは、イヤイヤながら・・・
この家族の描写がとても上手!パパのリチャード(グレッグ・キニア)は、自己流の「勝者になるための9レベル説」を自分の本と共にこれから売り出そうとしている。
だけど、このパパのプレゼンテーションも、『マグノリア』でトム・クルーズがやったような、自信満々の勝者のオーラなんて、全然なく、ましてや、自分が何かに成功した、有名人じゃないのだから、なんだか説得力がない。
それどころか、これを聞かされる家族のみんなは、人間を勝者と負け犬に分けるなら、どれもこれも負け犬の部類に入る人なのに。
自殺騒動を起こしたばかりの叔父フランクには、痛すぎるパパの強引な理論。
ニーチェを愛読している哲学好きのお兄ちゃん、ドウェーン(ポール・ダノ)にも、俗っぽい考え方に思えただろうなと思う。ドウェーンは、すっかり家族とも、他の誰とも喋らない、“無声の誓い”を立てている。
ノー天気なおじいちゃん(アラン・アーキン)は、ドラッグ愛好家で、そんなドウェーンに向かって「若いうちはヤリまくれ」とか、無駄な説教を聞かせてみたりと、全くカブらない家族像。
でもこの辺りが、すごく気持ちが分かるし、個性バラバラでコミュニケーションも全然成立してない家族の有様が、なんだか身近に感じてしまった。
こんな家族でロードムービー。
さぞかし、居心地が悪いだろうな、なんて、何だか可笑しみが湧いてくるのが、全然嫌味がない。
ロードムービーは、大体言いたいことが画一化した感じがあって、当たりもあれば、ハズレも多くて、どっかで聞いたようなテーマが繰り返し語られることが多いのだけれど。
これは、本当に面白かった!
サラッと描いているようで、きちんと効果が狙ってあって、計算が全て演出されている。
とても上手に描かれていることに舌を巻いてしまう。
とにかく、ここに出てくる俳優の一人ひとりが、本当に魅力的で、最高に素晴らしい!グレッグ・キニア、トニ・コレット、スティーブ・カレル、ポール・ダノ、アラン・アーキン、そしてアビゲイル・ブレスリン!
オリーブ役のアビゲイル・ブレスリンは、本当に生き生きとしていて、・・・おなかの辺りが、そこだけ何か巻いてて、太った女の子の役をやっていても、・・・とってもかわいい!
バラバラだったみんなが、何となく一つになっていく呼吸に、全く無理を感じさせないのが本当に素晴らしくって!!
まず、おじいちゃんの選んだ決勝のテーマ曲、イントロがかかった時点で、思いっきり噴出してしまいました。
その後も、ずっと笑いっぱなし、・・・
だけど、感動して、笑いながら泣いてしまいました。
笑いながら泣けるのって、なんっっって高度な技なんでしょう!!
以下、ネタバレです::::::::::::::::::
オリーブがコンテストで、派手な子や凄い技持った子ばっかりいる中で、お兄ちゃんのドウェーンと叔父のフランクが、「こんなコンテストに出したら、オリーブがかわいそうだ!」と、反対するでしょう。
私もそこで、「そーだ、そーだ」と思ったんですね。
そしたら、その後、ノンキなママが、それでもオリーブのために出すことにして。
人生って、勝ち負けじゃないけど、勝負しなくちゃいけない時って、やっぱりあるんですよね。そういう時の経験として、「自分はやるだけやったんだ」っていう、達成感、それもまた大事と考えたママの、最終決断も良かったし。
ここで、再び、気持ちは動いて。
出ることになったら、今度は、フランクは真っ先に、舞台へと飛び込んだ。
次に、ドウェーンが行った。一番反対していた二人が、率先して行ったのが、本当に私は嬉しかった。
この二人こそ、一番、このコンテスト自体のバカバカしさを感じていたはずだったのにも関わらず、ですよ。
そして、もちろん家族全員が応援するのも最高!
つまり、演出の狙ったとおりに、気持ちが寄り添って、そうやって見てしまったのよね。これは本当に凄いな、と。
とにかくこんなに良く出来た笑いのある感動作は、本当に久しぶり。
2006/12/29 | 映画, :とらねこ’s favorite, :ヒューマンドラマ
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映画「リトル・ミス・サンシャイン」
監督:ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ヴァリス
出演:アビゲイル・ブレスリン(キュート)グレッグ・キニア トニ・コレット
出演:ポール・ダノ スティーヴ・カレル(◎)アラン・アーキン(アカデミー助演男優賞)
美少女コンテストの最終審査に通過し…