149.リバティーン
これを見て自分を好きになれるか?とカメラ目線で語りかけるジョニー・デップ。大ヒットシリーズの『パイレーツ・オブ・カリビアン〜』のシリーズの1と2の間の公開作品がこれっていうのが、なんだかとってもジョニー・デップらしいというか、何と言うか。
“役者ジョニー・デップ”が戻って来た!、という気がして、なんだかとっても気分がいい。ジョニー・デップはこうしてバランスを取っているのかなあ、と・・・。
ストーリー・・・
17世紀のイギリス。時は王政復古の時代、国王チャールズ二世(ジョン・マルコビッチ)の治世である。
過激な性描写で王政を、王の面前にて痛烈に批判した、ジョン・ウィルモット、別名、ロチェスター伯爵(ジョニー・デップ)は、3ヶ月ぶりにロンドンに戻って来た。
ある日ジョンは、訪れた芝居小屋で、観客のブーイングを浴びていたリジー・バリー(:エリザベス、サマンサ・モートン)に目をつける。・・・
素晴らしい才能を持ちながらも、挑発的な発言を繰り返し、酒とセックス三昧の奔放な人生の果てに33歳の若さでこの世を去った、放蕩詩人の、反抗精神いっぱいで駆け抜けた人生。
この時代だからこそ、伯爵の身分で“放蕩詩人”だけど、今の時代だったらほとんどパンク・ロッカーだ。セックス・ピストルズとか、そういうものの方が似通っている。
その反抗的精神や、持っている哲学も無茶苦茶で、せっかく持って生まれた才能を持て余し、かつ、せっかく名を残すチャンスすら、台無しにする有様は、「あり!」と言いたくても、決して言うことは出来ず、凡人の私達からしてみれば、もったいなくて心が痛むのみ。
だけど、ジョン・ウィルモット、ロチェスター卿が一番好きだったのは芝居小屋で、現実そのものではなく、夢の世界に浸ることは本当に好きだったようで、その演技を見る眼も確かなのだった。
ジョンが目をつけた、目が出る前の女優、リジー・バリー(サマンサ・モートン)と、本気で、演技や彼女の心構えについて、火花を散らし話す、その瞬間は、死んだように生きるロチェスター伯爵にとって、おそらく本当に楽しみを見出した瞬間だったように思う。
私が一番楽しかったのも、ここで、虚飾を全く持ち合わせず、自分の鼻っ柱の強さで演技について語るリジーに、きっとジョンは共感を抱き、魂を一瞬でも触れ合わせることの出来る、そんな瞬間だったのではないかと思う。
まるで『ガラスの仮面』の月影先生のように、演技の稽古をつけるシーンは、最も楽しいものだった。
素晴らしいのは、サマンサ・モートンのオフィーリア!
「おお!・・・あの気高いお心をお持ちのあの方が、あのようになって・・・」
このセリフは、気が狂う直前のオフィーリアの、少ないセリフの中でも最も難しいものとされる、このセリフを、何度も何度も繰り返させる。
舞台上でこの台詞を言い、それだけで「この女優は、本当に素晴らしい・・・」
と、誰もに納得させなければならない、そんな、女優として最高に難しい役柄を、
さすがサマンサ・モートンだなあ!
私は、ここだけで、とても感動してしまいました。
おそらく英国で女優を目指す人が全員、稽古やなんかで言ったことのある台詞だと思うのだけれども、それをあえてこうして、こんなに難しいシチェーション。繰り返しますが、この台詞一つで、この“大根女優”と思われていた女優の“真の女優誕生”と思わせるシーンなのだ。
サマンサ・モートンは演技が好きで、いつも凄いと思っていたけど、改めて「やっぱ、すっげえや・・・」と思ってしまいました。
ロチェスター伯爵にしてみれば、自分の詩や、王やフランス王室の眼前で行われる、自分の戯作なんかよりも、この一人の女優、それが一番の彼の“作品”だったのかも。
にしても、やはり才能を無駄使いするのはもったいないとしか言いようがないし、もう少し、酒と女に狂うばっかりでなく、死後の名声まで頭に入れて、本当に才能をスパークさせて欲しかったように思うのだけれど。・・・
でもそこがパンク・ロッカー、放蕩詩人であるが故なのでしょうかね。
反抗の美学に生き、その代償が目に見える形で自分に降りかかって来てしまった、そんな“生きた悪い見本”のような人でした。
反抗しすぎたり、女や酒に人生を浪費することなく、適度に遊ぶ一方で、才能を開花させる人もいれば、横道に反れたまま、反抗と放蕩、それのみで一生を費やしてしまう人もいる。・・・
何より、こういった人物が面白くて仕方がないのだけれど、そしておそらく気持ちはすごく分かるのだけれど、こうはなってはいけません!という、自戒のような作品。
人気が出すぎたジョニー・デップがこの“ジョン”の役を熱を入れて取り掛かった、というのが分かる感じ。とほほん。
でも、舞台劇では、国王役のジョン・マルコビッチがロチェスター卿を演じた。この人もまた“オールド・パンク”の言葉の似合う“ジョン”さんでした。
ついでながら、娼婦役のケリー・ライリー。この方は、『スパニッシュ・アパートメント』とその続編の『ロシアン・ドールズ』に“ウェンディ”役で登場していた女優さん。
この方、どうやら、『スパニッシュ・アパートメント』これ1作で、オファーが殺到したとか。・・・
この先も、ケリー・ライリーの活躍が見れそうで楽しみ♪あまり美人ではないのだけれども(失礼)、脇役として、なかなか存在感のある人なんですよ。
ボロボロになってからのロチェスターを演じたジョニー・デップも迫真の演技。
もっと醜くてもっと汚くても私は良かったな。
最後の語りかけも、一番汚い顔になってしまったロチェスターの顔メイクで言ってくれたら良かったのに。なんて思ってしまった。
2006/12/28 | 映画, :文芸・歴史・時代物
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コメント(54件)
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ホーギーさんへ
おはようございます!早速また戻って来て下さり、どうもありがとうございます☆
ホーギーさんは、シザーハンズからのファンでいらっしゃるのですね!
私は『エド・ウッド』を映画館で見て以来、『パイレーツ〜』まで彼のファンでした。
彼の出演作で見ていないのは、『〜ワールド・エンド』と『ロンドン・コーリング』だけなんですよ☆
ブログ見やすいとお褒めくださり、どうもありがとうございます。
ご丁寧な挨拶、ありがとうございました。
こちらこそ、これからも末永くどうぞよろしくお願いします!
<リバティーン>
2004年 イギリス 115分
原題 The Libertine
監督 ローレンス・ダンモア
原作戯曲 スティーヴン・ジェフリーズ
脚本 スティーヴン・ジェフリーズ
撮影 アレクサンダー・メルマン
音楽 マイケル・ナイマン
出演 ジョン・ウィルモット(ロチェスター伯爵):ジ…
こんにちは!
miyuさん経由で来てしまいました。 とらねこさんの記事を読んだらもう一度観たくなってしまいました。
みのりさんへ
こちらにもコメントありがとうございます〜^^*
ありがとうございます、もう一度見たくなった、と書いていただいて・・。
好きな映画とは言えないんですが、テーマは嫌いじゃなかったです♪