145.盲獣vs一寸法師
これまた異種格闘技戦の今回は、石井輝夫監督’01年作品、『盲獣vs一寸法師』。
江戸川乱歩の『盲獣』(←感想コチラ)と、『一寸法師』、それぞれ別個に存在する作品を、石井監督的に二ついっぺんにまとめちゃったっていう作品。
最初に原作『盲獣』(創元推理文庫)に書かれている、竹中英太郎画伯の素敵にイカレたイラストがオープニングに映っている辺りは最高に嬉しかったが。・・・
ストーリー・・・
ある日、三文小説家の小林紋三(リリー・フランキー)は、浅草レビュー団、“ムーランルージュ”のスター水木蘭子(藤田むつみ)の舞台を見に行く。しかし彼は、隣に座った不気味な男が気になって仕方がない。舞台の間、うつむいたまま、一度も顔を上げようとしないのだ。
その帰り道、今度は、頭は大人で身体は子供の“一寸法師”が、切り落とされた女の生腕を運んでいるのを目撃する。小説家という職業柄、その一寸法師に興味をそそられた紋三は、独自に調査を進める。
その一方で、彼は友人の私立探偵、明智小五郎(塚本晋也)から、水木蘭子失踪を知った。・・・
エログロ・カルト・ナンセンスを目指した石井監督が、乱歩のエログロ2作品、
片や視力障害者のシリアルキラーと、片や小児障害者のサイコキラー、この二人を同時進行形にして織り交ぜた作品、とのことですが。
私はこないだ増村保造監督作品の、『盲獣』’69年(←こちらは、映画の方の感想)を先に見てしまったので、ちょっと物足りなく感じてしまったところが否めない。
こちらでは、原作を上手に料理して、ドロドロと濃ゆ〜い異常性愛を、理知的にも、ハンパなく究極に描いた珠玉の作品だったため・・・
この、「サクッとチープに、エログロモンドに理屈ナシっ!」という描き方の今作は、ちょいと今ひとつ駆け足気味な感じがしてしまったのでした。
原作を知っている人には内容は分かっている感じで進むのでしょうけど、これ一作のみしか知らない人には、あまりにもミステリの醍醐味を欠いた、見せ方の下手な作品にしか見えないかも。
盲獣の方が、比べてみれば、シリアルキラーであることだし、画になるところ多々アリという事で、こちらの映像描写の方が気合が感じられるのも仕方がないとは言えるけど。
何より、迫力を欠いたのが一寸法師の描写でして。
一寸法師は、ある種悪魔のような存在として原作では描かれていて、だんだんとその恐ろしさが分かってくる。本では差別用語満載で描かれているのだけれども、それを取り払って考えて、この一寸法師の性質のゾゾっとする恐ろしさ、というのを感じられないと、“対戦ーVS”という感じがしてこないのだ。
とかく、盲獣にばっかり比重が置かれてしまうと、この作品のVS振りが成り立たなくなってしまうのが残念なのです。
二人の異常殺人鬼が、お互いがお互いの殺人ぶりに相互に影響し合って、殺し合いが繰り広げられた、というこの映画のセリフにあるように(そしてその目論見は、なかなか面白いものと言えると思うのだけれど)、盲獣に負けないように、一寸法師パートももっと頑張ってもらいたかった。
10年以上前に読んだので、ウロ覚えで語って悪いのだけど、
一寸法師を追いかけた時の、町並みが迷路のようになっていて、石畳のある坂の、江戸情緒の残る道など、どこまでも続いて目が回るような、そんな心理描写と、生彩に溢れた映像美があれば、もう少しこの乱歩世界を汲み取れたのではないか、と私は思うわけだ。
でも、乱歩作品は、ストーリーそのものでいうと、割とシンプルな構成になっているものが多いので、それをあえて色んなもの詰め込みたくなる気持ちは分かるのだけれど、工夫がもう少し必要だ!
と、乱歩好きの私は思ってしまうのでした。
ちなみに、この人間椅子のアルバム『踊る一寸法師』。ついでにこれもオススメです♪
2006/12/23 | 映画, :カルト・アバンギャルド, :サスペンス・ミステリ
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
コメント(7件)
前の記事: 144.プレスリーvsミイラ男
次の記事: ★Merry Christmas★
『エコール』にコメント貰いましたが、また書くことがなかったのでこちらに(笑)。
この映画は確か石井輝男監督が映画制作を志す若者のために作った映画じゃなかたかな。石井監督自らが慣れないデジカメを使い、映画製作は決して難しいものではないから、作りたいものをどんどん作れば良い。そういったメッセージを込めて製作されたはずです。
ですから映画の出来は兎も角、今考えれば遺言状みたいな映画だったのかもしれませんね。合掌。
それと『一寸法師』とは別に乱歩の短編小説で『踊る一寸法師』ってなかったっけ?
『一寸法師』はこの映画で描かれていたような話で、『踊る〜』はサーカスでいじめられ続けた一寸法師がテントを燃やす話だったと思います。
僕は『踊る〜』の方が幻想的で好きな小説だな。『一寸法師』はバカ小説だし・・・竹馬って無理があるだろ(笑)
踊らない一寸法師に捧ぐ
下の『盲獣VS一寸法師』のログで、この作品は江戸川乱歩作品の『盲獣』と『踊る一寸法師』を掛け合わせたものと書いてしまったけど、正確には『一寸法師』だったんですね。私この作品はかな〜り昔に読んだ話だったのでもう内容は忘却の果てに消えておりました。まぁ自分にと…
初めまして!コメント及びTB有難うございました。
すみません!私の記事のTBをクリックミスで2つ貼り付けちゃいました。後で修正よろしくお願いします。
今日一寸法師について書いてたのですが、とらねこ様にほとんど言われちゃってました。映画の中での一寸法師は実にさえないというか、それほど悪魔的には描かれていませんでしたね。なんか可哀想な感じでした。でもあの役者の演じる悲哀感が結構印象深くもありました。贅沢を言うともっとドロドロ〜ネチネチ〜とした屈折した執着心みたいなのを表現してほしかったかなと。
まぁモノ足りなかった分は人間椅子のアルバムを聴いて陰に浸ることにいたしましょう。
蔵六さんへ
こんばんは★
>作りたいものをどんどん作れば良い。そういったメッセージの含まれた遺言状
そうでしたか、とっても石井監督に対しての愛情溢れる見方で◎ですネ
私、この作品は随分と今oneだなとの感想だったのですが、蔵六さんのように考えると、納得いっちゃいました★教えてくださり、ありがとうございました。
さすがカルトの帝王ですね!今後もいろいろ教えてくださいまし☆
で、『踊る一寸法師』ですが、自分その短編の方はまだ読んだことなかったですよ
どうりで人間椅子の歌詞と違うなってずっと思ってました。和嶋さんいつもピッタリのグレイトな歌詞を書くのに、なんでこの作品は違うんだろうって。
・・・・・・
記事訂正しました。
ところで、竹馬ですが、前『クロックタワー』で、オチがびっくり、って話したの覚えてます?
あれね、よく考えたら、この乱歩の作品から取ったアイディアだったんですね〜。今気づいてしまいました。
amashinさんへ
こんばんは★コメントありがとうございます!
amashinさんは、この映画とっても気に入ってくださったのですね♪
割とめちゃくちゃな展開でしたけど、そのエログロの凄さに開眼しちゃったamashinさんの没頭ぶり、とっても好感が持てます♪
私はもうちょっと一寸法師が頑張ってくれてたら、もっと良かったのになーって思ってしまいましたが。
そして、人間椅子の『踊る一寸法師』についても詳しく記事を書いてくださったなんて言うのが、何より嬉しいですね〜!
椅子ファンなんてなかなかいないのに・・・
すっごく嬉しいです
私は、『踊る〜』の方をなんとまだ読んでなかったんですね(+_+)
今度読んでみますね♪
どうぞ今後もよろしくお願いします〜。
「盲獣VS一寸法師 」
レビューの女王が忽然と姿を消し、同じ頃小説家の小林は女の片腕を抱えた小さな男を見つけ後を追う・・・これを皮切りに不可思議な事件が次々と起こる
江戸川乱歩の原作「盲獣」「一寸法師」を題材にしたオリジナルストーリーだが、そこはキング・オブ・カルト石井輝男だけ…
「黒蜥蜴 」
これは勿論、江戸川乱歩の原作の映画化作品ですが、他の作品とはまったくもって雰囲気が違う・・・
冒頭まるで古畑任三郎風に暗転の中スポットライトに浮かび上がる明智小五郎(大木実)「世の中は・・・」と画面に向かって話しだす(三谷幸喜はここから取ったのかな?)オー…