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※16.『パプリカ』

パプリカ 作者/筒井康隆

映画『パプリカ』は私はとってもお気に入りの作品だったので、原作にチャレンジ。自分にとっては初の筒井康隆作品。

断筆宣言直前、最後の作品、ということなので、約’93年に発表の、女性誌『マリ・クレール』に掲載された娯楽長編SF。
映画『パプリカ』のネタバレを含みます::::::

ストーリーに関しては、コチラ(『パプリカ』)と一緒なので、簡単に。
精神医学研究所に勤める千葉敦子は、ノーベル賞ノミネートされた、研究者であり、サイコセラピスト。だが、彼女には、もう一つの顔があった。
他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢探偵パプリカ。
人格の破壊も可能なほど強力な最新型精神治療テクノロジー“DCミニ”をめぐる陰謀のある中、その最新PT機器“DCミニ”の争奪戦が始まった。・・・

映画とまず違うのが、すんごいエロいところ!なんて言ったらミもフタもないのですが、エロがいっぱい描かれているところに本当にビックリしてしまいました。
だって何より、夢で治療するPT機器を使用して、パプリカが行うのは、セッ○スを用いた治療だ、なんて言うんですね。
それを行うと、とても治療がとても早く進むのだけれど、もちろん、パプリカ(=千葉敦子)自身がソノ気にならなければ、それを行うことはないとか。

そして、出てくる登場人物、ほぼ全員の男性たちが千葉を恋い慕っている。
パプリカが相手にするのは、地位の高いオジサマ達だったり、天才で仕事仲間の、超巨漢で醜い時田が実は好きだったり。
昼は知的で美人で白衣が似合っているエレガントな千葉敦子は、夜パプリカの姿で、自分のマンションに泊めて夢治療をする時は、少女パプリカに変装して・・・とか。
何ソレ、男性の理想像ってことですか??・・・と思わざるを得なかったなぁ。

確かに内容自体、アニメ映画『パプリカ』と背景は一緒だし、PT機器を用いての活躍はワクワクするんだけど、映画はこのエロでドロんドロんした辺りをカットしている。
千葉敦子・パプリカの描き方は、アニメではより二分化して、全く別人かのように振舞い性格も違う、という設定になっているんだけど、小説とは違って分かりやすくて、より面白かったな。
なんだか、敦子=パプリカがあまりにも“男性のご都合主義的”に行動している小説の方には、なんだかあんまり入り込めなかった

ラスト、夢と現実がごちゃごちゃになる有様なんかも、あまりにもグダグダで全然まとまっていない代わり、エロにばっかり走っている感じ。
夢と現実が交錯した辺りから、理論や現実概念なんかが壊れ去ってゆくのは、想像力の肥大化した表現として、自分は嫌いではないんだけど。
夢をモチーフにしたPT機器の効用が、現実に入り混じってくる辺りから、映画でも小説でも、スラップスティックな複雑性を見せ、「わけ分からん」となるのだけれど、アニメではこれをもっと上手に見せていて。

小説より、もっとセラピューティックな繋がりを描いていたところが、アニメは素晴らしかった。そして何より、映像でもってそれを魅せる辺りが、ただただ呆然自失のまま無意識界の複雑さにのめり込んでいくようで、とっても楽しい。
更に、アニメの方では、そこら辺を、きちんと物語として纏め上げていて、カタルシスも増大していて、ウマイ!と唸る一言。

小説の方では、シメの辺りで作者の理性が外れて、よりくんずほぐれつの世界になってしまっていました。うわw
まず、せっかく出てきたPT機器もDCミニも、途中からその機能性が関係なくなってしまうのが、もったいないし。
大体、“アナフィラキシー”という概念を導入すると、どうも物語が破綻してしまう。
SFの決まりごとの理論の世界ではなく、「考えたらそれだけで、DCミニがなくても共有する夢」や、次第に、夢だけではなくて、現実に夢が雪崩こんでくるのであるから、理論というものがなくなってしまう。
自分はここら辺は、理論の世界のみで描くのではなく、想像力がそれらを超えて描かれているということで、大変素晴らしいと思う。
つまり、理論が科学的に破綻して、想像力と悪夢がそれら現実世界に雪崩のように現れ、暴走を続けてゆく世界。
それは、ある種『はてしない物語』のようになっていて、とても面白い。

だけど、この最後の物語のしめくくりが、小説ではどうもボロボロになってしまっているのに対して、映画では“ゴーストバスターズ的終焉”余分なものを吸い込んで無くしてしまうことで、現実世界に悪夢のかけらが残らずに済むのだ(小説では残って終わってしまう)。
と、言うわけで、私は、革新的に映像としてもストーリーとしても纏め上げた、映画・アニメの方がずっと好きー。
原作をアニメ製作者が超えている!と思う。
ただ・・・男性には、“男の夢”的理想像を体現していた大人ワールドな千葉=パプリカの方が楽しいのかなー?
でも、これ、前述したように、女性誌に載っていたとのことで、・・・なぜそこまでエロ?という思いが
そして、編者あとがきにあるように、女性からは、あんまり支持されていないらしい。
他の作品よりずっと、娯楽的、とのことなので、気軽にパッパと読めるには読めるのですけどね。

それから、まあ実を言いますと、科学の世界がより進行してしまい、人間心理が置いていかれる、ということに関して言えば、この小説で否定されているところの“ユング心理学的考え方”・・・自分は、こっち側の考え方の持ち主だったりします。
この小説の書かれた当初の10余年以上前とは違い、現在の心理学はより、人間のこころそのものにより焦点を当て、個人に、内面に、重点を置かれるようになってきていると言える。
もちろん、副理事長・乾に関してはそれだけではなくて、自分がノーベル賞を取り損ねた過去のしがらみもあってのことではあるのだけれど、少々この時代に描かれた心理学と科学の発展、これに関して言えば、ズレが生じてきているのは確か。

人間心理というのは、科学で究明されない深遠さを持っている・・・現在の心理学は、こちらの方の考えに傾いてきていたりします。

 

2006/12/16 |

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コメント(52件)

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  2. パプリカ

    筒井康隆氏の作品の大ファンです。
    でもどちらかというと、短編が好きなので
    この作品の印象が薄い。
    でもファンとしては観ておかないと!
    と思い、DVDを何度か借りてきたけれど、
    何故だかいつも見ずに返してしまう運命に。。。(T^T)
    今度こそはと思い、また借りてき…




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