141.武士の一分
実は私は’01年の岡本喜八監督『助太刀屋助六』を見て、面白かったので、以来、近年の時代劇映画はちゃんと映画館で見ていたりします。
山田洋次監督の藤沢周平原作、時代劇3部作。
この前2作、’02年『たそがれ清兵衛』も、’04年『隠し剣鬼の爪』も、映画館で実はコンプっていたりするんですね。
3作目に当たる今作は、キムタク主演ということで、ヅラが似合うかどうかも心配だったりしましたけど、とりあえず見ることに。
三村新之丞(木村拓哉)は、「早めに引退し、子供たちに剣などを教えたい」などと、ささやかな夢を語る、海坂藩(うなさかはん)の下級藩士。
最愛の妻、加世(檀れい)とひっそりと暮らしていた。
毒見役として奉公を務める中、ある日、赤ツブ貝の毒に当たり、昏睡状態の重症に陥ってしまう。命だけは何とか助かり、目覚めるが、新之丞は目が見えなくなってしまうという不幸に。
その上、妻の加世が、自分の直属の上級藩士である、島田によって、その立場を利用して騙され、半ば手篭めにされたことを知ってしまった。・・・
初めはこの現代語そのままの時代モノに、少し慣れることが出来ず、違和感を感じたりもしたが、それが演出なのかな?と。キムタクファンの女性たちが見ることや、今までのシリーズよりさらに広げた客層にアピールすることを想定しての、このシリーズの博打といったところなのかもしれない。
私自身は、歴史物なんかを昔から読んでいたりするので、少し物足りない感触。
ネタバレで進みます:::::::::::
テーマは、一人の武士、男としての、大きな試練。
目が見えなくなってしまうということで、仕事も失うし、生を受けた人間として、これ以上生きていく、その意味すら失ってしまうかと思った。
だけど、ささやかに生きてきた新之丞にとって、加世の愛は、一番辛いことすら乗り越えることが出来るほどの、大きなものだったに違いない。
でも、新之丞の受けた試練は、夫婦二人にとっても、大きな試練でもあって。
この先をどう生きていくか、よるべない運命の二人を、女性の細肩に背負って、加世は、半ば騙された形とは言え、新之丞を結果的に裏切ることになってしまう。この先二人、食べていくようにの算段としても、絶望に追いやられての行動だったにしても、二人を辛うじて繋いでいた、一縷の望みすら失ってしまうことになる。
新之丞にとって、全てを失った地獄のような状態で、最後に残ったのが、武士としての誇り、それらを怒りに転換させての、島田への復讐、それしか残っていなかった。
それが全て終えた時、本来は、もう生きる理由が残っていなかったのではなかったか、と私は考えて見ていた。
新之丞は、そこで、もう一度、自分はそれで正しかったのか、何も知らずに、盲目のまま、過ごしていれば、加世と離縁することはなかったのかと、自問する姿。ここが自分はとても人間らしくて、好きなシーンだった。
男としての誇り、武士としての一分を果たした、そのことよりも、失った愛をもう一度懐かしく思う。
こうした気持ちが、一個人としての誇りより、その後の“許し”、これを納得いく形で浮き彫りにさせることができた。
『たそがれ清兵衛』から、このシリーズでずっと一貫しているのは、封建的な“武士”の姿としてより、人間そのままの素朴な姿、その中に流れている誇り、これらが描かれていることのように思う。
これらは、年末に行われる『忠臣蔵』、赤穂浪士なんかとは全く対極に位置するもので、より現代人に似た生き方をする武士の姿。
だけど、どこかで懐かしく思うような姿でもあるように思える。
では、『武士の一分』。
タイトルとは全くイメージの違うことを、私は言っているわけですけれども。
でも、死を覚悟していながら、簡単に自殺をしなかったのが、主人公の新之丞で、それと全く逆に、簡単に死を選んだのが、“死合い”に負けた方の、島田だったのですよね。
そういったことを含めているのがこのタイトルの“武士の一分”だったように思う私です。
河原での太刀回りなどは、もう少し丁寧に描いて欲しかったり、見せ場があっても良かったように思う。
それから、テーマも、もう少し深く描いて欲しかった。なんとなく、アッサリしているような。
キムタクは、予想よりずっと良かったけど!
とか何とか言いつつ、滂沱してしまいましたね。ボロ泣きでした。
あと、煮物の腕を上達するのが、早急に必要に思えてきました。
煮物なんて、簡単なんだけど、だって、ただ煮るだけだよ、あれ?
・・・それに、どちらかと言えば、私は、パスタとか、メキシコ料理とかの方が、作りたいっていうタイプなんですが・・・焦っ
煮物は、簡単とは言え、見た目を美しく作ろうと思うと、結構難しい!
と、言うわけで、今日から、煮物作りに励まないと、いかーん
・・・ところで、“イモガラの煮物”・・・。“イモガラ”って、何スか、それ?
【本音】私は(自分の見た中では)岡本喜八の『助太刀屋助六』が一番好き・・・。軽妙で、楽しくて、キャラクターの描き方も魅力的。この3部作シリーズの最後、としても、前2作より、少し落ちるかな。
2006/12/14 | 映画, :文芸・歴史・時代物
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コメント(79件)
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「武士の一分」映画館レビュー 一分への距離
山田洋次監督は、今もなお進化し続ける巨匠。僕が武士の一分を語れるには、あと何年かかるだろう。
はじめまして。ミホさんのコメントを読んだら 私も書き込みたくなりました。前2作とどうしても比較してしまいますよネ。鶴岡出身で 叔父とも周平さんと親交があったためか‥藤沢作品が大好きです。監督は違いますが 〈蝉しぐれ〉もよかったですね。〜やはり武一のキムタクには正直がっかりしました。そして 皆さん絶賛の檀さんは ミホさんがおっしゃる通り“宝塚的”演技が少し気になりました。武一のヒットは やはりベテラン共演者のおかげだと思います。◎ちなみに イモガラいりのお雑煮もおいしいですよ。毎年送ってくるので…ふるさとの味はなつかしいなぁ。
ふうこさんへ
こんばんは!コメントありがとうございます♪
そうですね、前2作とは比べてしまいますよね。
私的には、この最後の作品は、3部作の最後をどうしても“大ヒット御礼”で終わらせるために、人気俳優を持ってきた、という気がするんですよね。
でも、そのせいで、観客層が広がったなら、この閉鎖的な時代劇というジャンルにしては、とても頑張った方なのかな、と。
監督としては商業的な成功と、芸術的な成功を考えるのだから、大変なんですけどね。
で、藤沢周平本人と、ふうこさんの叔父さまは、親交があったのですか!それは凄いですね。
ふうこさんにとって、とても身近に感じる作家なのですね☆羨ましいです。
で、『蝉しぐれ』も良かったですか。この作品は、まだ観てないんです。すみません・・。
檀れいは確かに、演技が私にも馴染みのない舞台劇喋りでした。だから正直言うと、あまり「うまい演技」とは言えないと思います。所作は綺麗でしたけどね。
イモガラは一度食べてみたい煮物になりました(笑)
コチラにもこんにちは♪
確かに河原での立ち廻りは、
もう少し見せてくれてもよかったかもですね。
だけどそれは多分、黒澤の 『椿三十郎』 や、
小林正樹の 『切腹』 を目指したんだと思います。
『切腹』 はいいですよ!(小林正樹だったかな?)
秋頃からのお付き合いになりますが、
たくさんのTBやコメントをいただきまして、
本当にありがとやした。感謝しとります。
いつも申し訳ないなぁ・・・と思いつつ(苦笑)。
出不精なんで手数じゃなければ、
いつでも呼び鈴、鳴らしてください。
ではでは、素敵な年を迎えてくださいネ!♪
時代劇の復権を高らかに告げる大傑作! 『武士の一分〈いちぶん〉』!
木村拓哉と同い歳(’72年生まれ)。そう考えただけで、
「俺に生きてる意味なんてないんじゃないか?」と嫌になるくらい、
多角的に見てそれはもう完璧な男なんじゃないかと思う―。
しかし、TVをつければ目にしない日はないというほど多くのCMに出演しているキム兄だけ…
栗本東樹さんへ
こちらにもありがとうございます!
>だけどそれは多分、黒澤の 『椿三十郎』 や、小林正樹の 『切腹』 を目指したんだと思います
そうなんですか!なるほど。
と、言いつつ知らなくてすみません。『切腹』はタイトルだけ聞いたことがありますが、なかなかの作品と聞いたことがありますー。
こちらこそ、栗さまのトコに、足取りも軽く、しょっちゅうお邪魔してしまい、なんだか申し訳なく思っています。
出不精なのに悪いなあと・・・。
>いつでも呼び鈴鳴らしてください
とおっしゃられると、とても嬉しいです♪
ではでは、遠慮なくイカせてもらいまっせ
武士の一分
遅ればせながら、昨日、市川のTOHOシネマで観てきました。
2046で痛い目にあったので、若干心配しましたが、キムタクはやはりキムタク。
役になりきるというより、何をやってもキムタク!なんですが、キムタクの三村新之丞を楽しませていただきました
いや、山田監督が、….
コメント&TBありがとうございました。
死を覚悟してこそ、生きるのを選んだのかなと思いました。
最後は私も泣かされました。
警告おやじ。さんへ
初めまして!コメントありがとうございます。
>死を覚悟してこそ、生きるのを望む
本当にその通りですよね!
警告おやじ。さんのおっしゃっていた、
>必死すなわち生くるなり
これも、とても深くていい言葉ですね。
上の言葉と同意語ですね。シンプルで強い言葉で、響きます。
武士の一分-(映画:2007年1本目)-
監督:山田洋次
出演:木村拓哉、檀れい、笹野高史、小林稔侍、緒形拳、桃井かおり、坂東三津五郎
評価:77点
公式サイト
(ネタバレあります)
「木村拓哉」はいつまでたっても「木村拓哉」であって、どこで何をしていても「木村拓哉」なんだよ….
「武士の一分」木村拓哉
下級武士を細かく描く作家は、藤沢周平と山本周五郎の2人と思っています。
最近の
武士の一分(2006年12月1日公開)
人には,命がけで守るべきものがある.
守るべき愛がある.
人はそれを,一分(いちぶん)と呼んでいる.
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おんにちは!
少し落ちる、よね。
武士の一分 07019
武士の一分
2006年 山田洋次 監督 藤沢周平 原作木村拓哉 檀れい 笹野高史 小林稔侍 緒方拳 桃井かおり 板東三津五郎
キムタクって、童顔すぎるよねぇ、、、
山田監督の、時代劇三部作最終章。 なんだケド、微妙だなぁ、、、
ま、勝手に、もっと….
猫姫さんへ
こんにちは★
猫姫さんも、見に行きましたか!
そうですね、少しだけ、客足伸ばそう作戦を感じてしまいましたね。
『武士の一分(いちぶん)』
原作:藤沢周平 監督:山田洋次
CAST:木村拓哉、檀れい、笹野高史 他
STORY:近習組に勤める下級武士の三村新之丞(木村拓哉)の仕事は毒味役。新之丞はそんな仕事に嫌気が差しながらも、美しい妻、加世(檀れ)と中間の徳平(笹野高史)と平穏な日々を過ごしてい…
武士の一分 (2006) 121分
この映画で本当の「武士の一分」を私たちに感じさせてくれたのは・・・「あの人」でした(笑)
身の丈時代劇
山田洋次監督『武士の一分』。
深谷シネマ怒涛の三週間興行。
最後の一週間。
赤塚真人は山田時代劇には欠かせない。
緒形拳演じる剣術の師匠役は、やっぱり田中泯に演じて欲しかった。
木村拓哉は…やっぱり木村拓哉。
男が刀を握る瞬間。
『たそ…
武士の一分
「武士の一分」です。 毒見役の下級武士、三村新之丞は、美しい妻・加世と中間の徳平と平和な毎日を送っていた。ある日、毒見
mini review 07067「武士の一分」★★★★★☆☆☆☆☆
カテゴリ
アクション
製作年
2006年
製作国
日本
時間
121分
公開日
2006-12-01〜2007-02-16
監督
山田洋次
ストーリー
毒見役の下級武士、三村新之丞は、美しい妻・加世と中間の徳平と平和な毎日を送っていた。ある日、毒見の後、新之丞は視力を失うほどの…
TBありがとう。
芋がらの煮物は、ずいきですね。
母が、よく作ってくれたことを思い出します。
いまでも、素朴な、山間の民宿なんかで、出てきますね。
kimion2000さんへ
こんばんは★こちらこそ、TBありがとうございます。
芋がらの煮物は、“ずいき”っていう名前なんですね!
私も、食べたことがあるのかもしれないですね☆
今度、和食屋さんで、探してみます。
映画『武士の一分』
これは最後に泣ける映画・・物語の中核を成すはずの貞節を奪われるシーンとか離縁された後に何処で何をしていたのかとか、気になるが・・感動的な映画・・
山形は庄内地方の三村新之丞(木村拓哉)は、三十石の下級武士で毒見役ながらも妻の加世(檀れい)と共につ…
≪武士の一分≫
武士の一分
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(WOWOW@2007/11/17)
製作年度2006年
製作国日本
上映時間121分
監督山田洋次
出演木村拓哉(三村新之丞)、檀れい(三村加世)、笹野高史(徳平)、岡本信人(波多野東吾)、左時枝(滝川つね)、綾田俊樹(滝川勘…
武士の一分&医龍2
医龍2は鬼頭チームの心臓移植が出来ず朝田チームの心臓移植がOKも
患者は生体肝移植の手術中で心臓の移植は不可能も次のチャンス厳しく
朝田が医師免許の剥奪を覚悟で生体肝&心臓を同時移植の手術を決行も
伊集院の乗った救急車は事故に遭遇して心臓4時間に間に合う…
2006年12月公開映画レビューその??♪
映画レビューシリーズ
2006年12月版
まずは武士の一分
武士の一分
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Amazon.co.jp
言わずとしれたキムタクのヒット映画
キムタクの男としての小ささが
少し悲しかった映画でした
別に奥さんが…されたとしても
それは奥さんには罪はないこ…
『武士の一分』’06・日
あらすじ下級武士の三村新之丞(木村拓哉)は、妻の加世(檀れい)とともに幸せに暮らしていた。しかし、藩主の毒見役を務め、失明してしまったことから人生の歯車が狂い始める・・・。感想直ぐにTVでやると思って、待ってたけど予想以上に早かったな〜『たそがれ清兵衛…
武士の一分
『人には命をかけても守らねばならない一分がある。』
コチラの「武士の一分」は、藤沢周平原作作品を山田洋次監督が描く三部作の3作目となる時代劇ムービーです。2006年12月に公開されたのですが、早々と年末にTVで放送してましたねぇ〜。
「たそがれ清兵衛」、「…