124.パプリカ
そんなにアニメに詳しい私ではないのだけれども、この作品、『パプリカ』に関しては、頭の先からツメの先まで、完全に魅了されてしまいました。
アニメと言っても、子供向けにターゲットを絞った明るいイメージの絵では全くなく。
大人しか楽しめない、だけどどこか子供心に戻れる作品だと思う。
私にとっては、ピンポイントにツボでした
SFと心理療法が一つになった、限りなく新しい映画だった!
ストーリー・・・
精神医療総合研究所の研究員、千葉敦子は、人間の意識をモニター出来る、サイコセラピー機器の、開発副主任であった。
主任の時田とは、昔からの幼なじみ。人一倍太っており、だが才能豊かな時田は、言わば子供のまま大人になった天才だった・・・
彼らは、この度、DCミニという、頭に装着するだけで、他人の夢を共有できるという、サイコセラピーのモバイル・ユニットを開発。この完成間近に迫った機器の、最終段階のテスト期間として、研究所の所長の大学の同期である、粉川刑事に対し、不安神経症の治療のために、夢セラピーの第一回目を行った。
夢の世界を導くのは、“パプリカ”という名前の、魅惑的でキュートな、変幻自在のキャラクター。
だが、ある時、DCミニが何者かに奪われてしまう。
DCミニは、悪用されると、人格を破壊する可能性があるのだ。誰が一体こんなことを・・・?
今敏監督(『千年女優』、『東京ゴッドファーザーズ』)×原作は筒井康隆(『私のグランパ』、『時をかける少女』、『日本以外全部沈没』)。
制作は『デスノート』TV作品、『TOKYO TRIBE2』、『NANA』の、マッドハウス制作。
(←11月11日よりWOW WOWで放映中の、『TOKYO TRIBE2』・・・これも、すっごく面白そう♪原作は、井上三太(『隣人13号』)
圧倒的なのは、この映像もであるが、この世界観が何より凄い
ストーリーの初めの方から、おかしなカエル達が行列を成してパレードを進んでゆくのだが、あの時点で、千と千尋を思い出す人も、少なくないと思う。
そして、完全に、のめり込んだ。
多くの人に忘れられていた場所である、この夢というもの。
各個人のそれぞれの深層心理の中に、なぜだか懐かしいような、忘れられた空間のような形で、戸棚の奥に、押入れの中に、ヒッソリと存在する者達。
それらが、一気に行進をする様は、もう、この物語が一体どこに行き着くのか、全く分からない不安感と、期待を持たせたまま、疾走を続けるその姿そのままであるかのようだ!
悪夢から想像した生き物が去来する、行進する、飛翔する、ゴジラのようにデカデカとその姿を現す。
そして、昔持っていた夢だとか、挫折だとか、トラウマのような、・・・どうしようもなく何度となく、繰り返し私達を夜毎苦しめたり、わけもなく不安にさせられたり、私達の脳の計り知れない場所にあって、禁忌の領域にある、あの、夢というもの。
キーポイントになる言葉は多くあるが、その一つに、粉川刑事の夢、というのがある。
彼の抱えるトラウマのある夢と、ここで起こる事件が、混入し合い、ストーリーが進行する中で、彼自らが体験し、その意味を知ってゆくプロセスは、さながら映画とセラピーが一体化するのを文字通り観客が見つめることになる。
本当にそれはセラピューティックと言え、圧巻だった
最後にもう一つ、もう一人が解決する夢の体験もある。
それは、ネタバレはもちろん出来ないが、『ゴーストバスターズ』で行われたものと似通ってもいる、さらには、『果てしない物語』で描かれたような、想像が創造を産む解決だ。
子供の頃の気持ちに戻れる、と冒頭で書いたが、夢の世界で何か私達が懐かしく感じるのは、誰もが忘れていた子供の頃の気持ちに戻ってゆくからかもしれない。
夢を忘れかけていた大人たちは、これを見たら、頭の隅っこに仕舞いこまれた夢たちが、枚挙して流れ出すその姿に、なぜだか圧倒されるだろうと思う。
潜在意識の中に去来する、夢の持つ創造性というものが、現実世界に雪崩れ込んで、dreamworkが目の前で展開されるのを見る、この映画。
プロセス指向心理学の創設者、ロバート・ボスナックのような世界で自分には面白く感じた。
ちなみに、原作本のレビューに関してはコチラです。
筒井康隆著 『パプリカ』
声優: パプリカ・・・・・林原めぐみ
乾 理事長・・・江守 徹
島 所長・・・・・土屋 勝之祐
時田主任・・・・古谷 徹
小山内守雄・・山寺 宏一
粉川 刑事・・・大塚 明夫
2006/11/22 | 映画, :とらねこ’s favorite, :アニメ・CG等
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
コメント(102件)
前の記事: 123.マスターズ・オブ・ホラー 『虫おんな』
パプリカ
筒井康隆氏の作品の大ファンです。
でもどちらかというと、短編が好きなので
この作品の印象が薄い。
でもファンとしては観ておかないと!
と思い、DVDを何度か借りてきたけれど、
何故だかいつも見ずに返してしまう運命に。。。(T^T)
今度こそはと思い、また借りてき…
パプリカ
Paprika医療研究所が開発した、他人の夢を共有できる画期的テクノロジー“DCミニ”が盗まれた。それを機に研究員たちが、次々と何者かに支配されるかのように奇怪な夢を見るようになる。謎の解明に挑む美人セラピスト千葉敦子は、極秘のセラピーを行うため、性格も…