109.クラッシュ
第78回アカデミー賞作品賞と、脚本賞を受賞。
監督は、『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本を書いたポール・ハギス。
LAに住む人々の群像劇。
それぞれの人生で、決して交差しないと思われる人々が、思いもよらないところで、ぶつかり合う。
人の思いと思いはぶつかり合いもするし、そこから不調和も、あるいは不思議な縁が生まれたりもする、と。・・・
物語の冒頭、ただひたすらに、様々な種類のレイシズムが描かれ、ウンザリするし、哀しい気持ちにもなる。
白人・アングロサクソン系は黒人が逆差別を受けて優遇されていると、そこへ新たに差別感を強く出す人もいれば、
“白人街”を歩く黒人の若者たちは、目立つのではないかと恐れを抱いてそこへ差別意識を見つけようとし、
黒人刑事は同僚であるヒスパニック系の恋人に向かって、蔑称をこともなげに口にする。・・・
単なる差別意識がストレートに描かれるのではなく、そこにあるのは、逆差別が産む意識であったり、差別が差別を産むことであったり、差別意識を逆に利用したり。・・・
ありとあらゆるものをえぐり出そうとしていて・・・正直に言えば、ウンザリしてくる。
悲しくなってくる。なぜ“人種の坩堝”、“サラダボウル”と呼ばれるアメリカはNYで、不理解ばかりが描かれるのだろう、人々の意識が融合することなく、ぶつかり合うのみなのだろう。と・・・
詳細に描けば描くほど、人の世は、善意に満ちたものでは決してないと言うかのよう。
何も見過ごさずに描けばおそらく人々の差別意識というものは、あらゆる場面において存在せずにはいないかのようで、正直に言うと、だんだんと嫌な気分にならざるを得なかった。
だが、そんな人びとが少しづつ繋がりを見せてゆき、それらの伏線が形に成り出した辺りから、物語の受ける印象は違ってくる。
たった2日間の出来事の中で、それぞれの人々の意識に大きく変革を促されるような出来事が訪れる。
人々の差別感情がどこから来るかというと、それは、何の確信もない妄信からであったり、偏狭な考え方であったりする。
これが、物の見方が変わることによって、そこが全く違う意味を持ってくることもありえる。
何か人々の気持ちを大きく変えるような出来事、というのは、何も、大きな衝突事故のようなものばかりとも限らない。
それぞれのことがそれぞれに連環して、次の物事を作り出してゆくかのようでもあり、
人の勘違いや誤解や、その他様々なことが、別の人の人生も変えうるし、自分にもハネ返ってくる。
自分の価値判断をどこに置くかで、物事が全て一新するのだ。
逆に言えば、そういった物事全てが、大きな事故にも匹敵する。
長すぎるように思われる前半で描かれたたくさんのシーンで見られるレイシズム。アメリカの人から見れば、おそらく、何がしかのシーンで自分や知り合いや、会社の同僚などを、投影することが出来るのではないか、と思われるような。
そんなあらゆる種類のものだったと思う。
ここでは、それぞれの人に、とても大きな、深い傷を残すような様々なことが起きる。
そんな大きな事故があって初めて、人は価値観を覆されるものかもしれないが、この映画を見た人は、そうなる前に、考え方を少し変えることも出来る。
そう、言っているような気がして。
このレビューを探していたら、「弟と、2時間話し合った」、というものがあった。
この映画は、一つ一つのエピソードがいろいろと繋がり連環していて、一人で見て理解しているよりは、そうやって誰かと分かちあうのが、とっても似合う物語だ。
それだけの長い時間の議論を促すような題材であるとも言えるし、あるいは、そうやって、いろいろな人と分かち合ってゆくことで、余計に人々との思いの違いや、共通性、そういうのを再確認できるような、素材と言えるのかもしれない。
それがもし、ここ日本でなく、人種の異なるアメリカにおいて、そうやって人々の“共通意識のアイコン”と成りうるものだとしたら。
それこそ、この映画の目指したものだったと思うし、そうあって欲しいな、と海の向こうから思う私だ。
これぞ善人、という人もいない代わりに、根っからの悪人も、描かれてはいない。
だが、一人だけ天使が描かれている。
Los Angels,天使の街。・・・
うまいまとめ方だったように思う。
・クラッシュ@映画生活
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コメント(33件)
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クラッシュ / CRASH
“サンドラブロック主演”ではありません。
クローネンバーグのでもありません☆
豪華キャストたちが織り成す、人間ドラマ{/hikari_blue/}{/hikari_blue/}
「ミリオンダラー・ベイビー」の脚本/製作でアカデミーノミネートされた、
ポール・ハギスが脚本&初監督したこの作品、…
とらねこさん、こんばんは。
いつもありがとうございます☆
『クラッシュ』
—-この映画って、ものすごくたくさんのスターが出ている割には
なぜか地味な感じがするよね。
「内容が内容だからね。
プレスに載っている解説を引用すれば
『ハイウェイで起こった1件の自動車事故が、
思いもよらない“衝突”の連鎖を生み出し、
さまざまな人々の運命を導…
TBありがとう。
アメリカは特に、「自己主張」の国ですからね。いつ、主張と主張がぶつかるのか、心が休まる暇もないと思います。
特に、銃の問題はおおきいですね。その場の反応で、銃が持ち出されれば、ちょっとしたきっかけで、発射されることになります。
この映画でも、悲劇の半分ぐらいは、銃がなければ、と思うようなことでしたね。
N0.163「クラッシュ」(アメリカ/ポール・ハギス監督)
真理は単純かもしれないが、
そこにいたる道筋はとてつもなく複雑系だ。
「天使の街」ロサンゼルスのクリスマス。
車の衝突(クラッシュ)事故が、ひとつの起点となり、連鎖反応のように、人種・性別・階層・年齢を超えて、ドラマが波紋をおこしていく。
登場人物の誰もが、…
「クラッシュ」
脚本が、うまい。
思わず2回ほど泣かされた。嗚咽しそうになるほど。しかも、ラストではなく途中でだ。
涙腺が弱いのは折り紙つきの私だが、他の観客からも鼻をすするような音が聞こえていたので、あながち自分だけ????Y
映画館で見たのが、ずいぶん前なので、記憶が薄れてきてますが、じつに巧く泣かされたのは覚えてます。
これが泣かずにおられようか、って感じ。
そういう意味では、あざといんですが、ロス(アメリカ))の暗部の一部をしっかり見せてくれてたみたいです。
migさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございます。
こちらこそいつもお世話になっております!
いつも読ませていただきありがとうございます!
kimion2000さんへ
こんばんは☆コメントありがとうございます!
そうですね、銃社会ですとどうしても、人を殺す目的ではないにしろ、防護のためにしろ、銃を手に入れるわけですもんね。
手にしてしまうと、それをどう使うのかは、自分次第になるわけで・・・
そういったことを、あの透明マントの子供を通して、考えざるをえませんでしたね。
ボーBJジングルズさんへ)
こんばんは☆コメントありがとうございます。
ボーさん、丁寧にご訂正ありがとうございました!
次の日見に行った映画、『ハザード』と一緒になってしまいました・・・明日のお楽しみをドウゾw(なんつって・・・とほほ
そうですね、とっても上手な脚本で、すっごく良かったと思います。
触れ合いたい 「クラッシュ」
評価:85点{/fuki_love/}
クラッシュ
こういう映画大好きです。
群像劇で、キャラクターが多いのですが、それぞれのキャラクターが十分にわかり、また数々の伏線が張られています。
さすがアカデミー賞にノミネートされるだけのことはあるといった感じでした。
大本命…
たまには真面目なたおです♪
どうにも最近気が付いたんですが、ポール・ハギスの脚本って好きじゃないかも^^;
手際が良すぎるというか。。。
好みの問題ですけどね。
クラッシュ (Crash)
監督 ポール・ハギス 主演 ドン・チードル 2004年 アメリカ映画 112分 ドラマ 採点★★★ 「差別は恐怖からくる」とマリリン・マンソンが言っていた。その恐怖は、無理解から来るもの。理解出来なければ出来ないほど恐怖を感じ、差別し排斥することで身の安全を図ろうとする…
やはり最初はいや〜な気分にさせられるんですよね。なんでこの作品がオスカーなんだ?と思ってたわけです。
全部見終わってやっと。それも2回見てやっと、良さがわかったおばかちゃんですー。ぷぷぷ
すごく音楽と映像のミスマッチさも感じて、そこがまた幻想的にも見えてもきたり…。
天使が皆のそばにもいるよって信じたくなっちゃった。んで、早速US盤DVDを買って???な台詞を聞きながらまたお家で見たとさ…。笑
これ、字幕ないと私にはやはりむつかしい〜爆
クラッシュ
連鎖する衝突。そこから繋がっていく人の運命。
ロサンゼルスは孤独な街。人種によって居住区が分かれているこの街で、偶然の事故が人種を絡ませる。そして差別偏見を浮き彫りにさせる。
監督はミリオンダラーベイビーの製作脚本でアカデミー賞ノミネートされたポール・ハギ…
クラッシュ その2
なんとなくあとからじわじわくる作品「クラッシュ」
先日公開後まもなく見てきたのですが、なんとも又見たい気持ちに押されて見てきてしまった。ネタばれなしではありませんからご注意を・・・
先日見たときの感想はこちら
群像劇だとどうしても印象の薄いものもあると思う…
たおさんへ
こんばんは〜♪
ハハハ、ポール・ハギスは『父親たちの星条旗』で苦手と気づいてしまわえたのですか。
確かに手堅い感じがあって、遊び心とかのない、シリアスな映画ファン向け、という感じがありますね。
真面目な顔して観る映画もたまにはいいのですが、『父親たちの星条旗』は、私は、「エエー、行かないといけないのですか?」って友達に言ってしまいました。ぶっちゃけ、面倒です。観るの。
charlotteさんへ
こんばんは〜☆
2度も、しかも翌日に見るなんて、よっぽど気にいられたのですね。
この作品には、それだけの吸引力があると思いますし、いろいろな伏線が、それぞれ繋がっていて、とてもすごい意欲作だと思います。
英語字幕なしを買ったのですね(笑)
でも、英語の勉強にもなりますよね。ですがところどころこれ難しそうですね(笑)
「クラッシュ」奇跡的なハートウォーミング
ストーリー: クリスマス間近のロサンゼルス。黒人刑事のグラハム(ドン・チードル)は、相棒であり恋人でもあるスペイン系のリア(ジェニファー・エスポジト)と追突事故に巻き込まれる。彼は偶然事故現場近くで発見された黒人男性の死体に引き付けられる……。
こんばんは!コメントありがとうございました^^いやスイマセン実は最近スパムが多すぎるので参照リンクの無いTBを受け付けない設定にしてたのです。スパムの削除めんどくさがるなんて管理人失格だと思いつつ現実が忙しすぎまして^^;こちらからだけTBうつのも失礼かなぁ〜と思ってましたがTBさせてもらいますね〜。
nappaさんへ
こんばんは♪
そうだったんですね、nappaさんは大学生ですもんね。
忙しい時は、仕方がないんじゃないでしょうか?
また、暇が出来たら、TBできるようにすればいいと思います。
就活かな?
『クラッシュ』★★★★★97点
愛がすれ違い、悲しみが砕け散る。激しい”衝突”が繰り返されていく―。『クラッシュ』公式サイト制作年度/国;’05/米 ジャンル;ヒューマン 配給;ムービーアイエンタテインメント上映時間;112分 PG-12監督;ポール・ハギス出演;サンドラ・ブロック/ドン・チードル/マ…
とらねこさん、こんにちは☆
これは、一言で”人種差別の映画”ではないとても
良質な作品だったと思います。深かったですよね。
ちょっと、サンドラブロックが浮いてたような
気がしましたが。気にしない気にしない^^
ヘーゼル☆ナッツさんへ
こんばんは〜♪
そうですよね、人種差別もそうですが、本当に人と人の理解しあうことの難しさを説いている映画だと思いました。
でも、本当に悲劇が起きてからでは遅いのですよね。
なんだか、そういう無理解の延長戦上に、戦争などがあるような気がします。
本当に深い映画でした。この映画の良さは、じわじわ来るんですよね。すごくいい映画
でした。
サンドラ・ブロック、確かにちょっと浮いてましたね。
あの役に関して言えば、「常日ごろ、憎しみや、心の落ち着かない環境にある人の、基本的な苛立ち感」を感じました。
隣人を愛せよ、とは言うものの、不安感ばかりが先行する、都会人のようにも見えました。
こんにちわ。
これ、初日に観たんですよね。
ぶっちゃけると、どんな映画だったか
ちょっと忘れています(笑)。
睦月は、この作品と同時期に公開されて、
アカデミーでも一騎打ちになったBBMに
ハマってしまい、そっちのイメージばかり心に
残っているので(苦笑)。
クラッシュ派とBBM派に見事に分かれましたから
ねえ・・・この時期は。
でもどちらも大変いい作品だったと思います。
クラッシュに関しては、ポール・ハギスの
初監督作品なのに、よくこれだけ良質なものを
作ったなあ・・・と感心しました。
クラッシュ
【映画的カリスマ指数】★★★★★
ぶつかって傷ついて・・・そして生まれる人間愛
睦月さんへ
こんばんは♪
あらら、忘れてしまいましたかぁ
これ、すっごくいい作品でしたよ。
で、そうですか、なるほど、確かに、あの頃睦月さんは、ブロークバックの記事を一生懸命書いていましたよね。
私の尊敬するリアル友達の映画ファンでも、BBM(睦月さん風に言えば)が今年最高、と言っている人がいます。
あ、そう言えば、もうすぐ、今年の締めがやってきますね〜♪
まとめをしなければいけませんね
でも・・・人と全然違う、と思われるのもイヤだなあ・・・やらないかもしれませんけどね
映画『クラッシュ』
原題:Crash
前回の第78回アカデミー賞で作品賞に輝いた作品、ありとあらゆる人種が登場、目を背けたくなるような人種差別が痛々しいが基本的には暖かみがある・・
クリスマス前のロサンゼルスが舞台、群像劇だが、特に印象的・・というよりも衝撃的でさえあった…
クラッシュ
『人はぶつかりあう。人は人を傷つける。怒り、哀しみ、憎しみ、孤独。それでも、人は、人を愛していく。』
2/11に公開されて現在も全国で順次公開されていっているコチラの映画。もうすぐ発表のアカデミー賞でも主要6部門にノミネートされている話題作ですね。
満…
『クラッシュ』
[DVDソフト]クラッシュさまざまな人種・立場の人々を登場させ、人種差別や歯車の狂っていくそれぞれの運命を描いたアンサンブルキャストの秀作だと思う。短い各々のエピソードの中に、無理のない程度に登場人物の特徴をにおわす演出。アンサンブルキャストの映画でこん…
クラッシュ
2005 アメリカ 洋画 ドラマ
作品のイメージ:切ない
出演:サンドラ・ブロック、ドン・チードル、マット・ディロン、ブレンダン・フレイザー
盛り上がりはなく、淡々としたストーリー。泣くまでの感動にはいたらないが、観た後から良さがじわっと感じられる作品。
人…
クラッシュ
人はぶつかりあう。人は人を傷つける。怒り、哀しみ、憎しみ、孤独。それでも、人は、人を愛していく。
「クラッシュ」(2004)
クリント・イーストウッド監督作品「ミリオンダラー・ベイビー」で脚本を執筆したポール・ハギスが同じく脚本や初監督を務めたサスペンス風のヒューマンドラマ「クラッシュ」(2004年、米、112分)。この映画はクリスマスを間近に控えた米国ロサンゼルスを舞台に、一…