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好きな映画評論家について

実は自分には、大好きな映画評論家がいます。・・・


こんなことを公言してしまうと、自分にとって、とてつもなくプレッシャーなので、なるべく言いたくなかったんですが(笑)、言って見たい気もずっとしていましたので・・・(笑)


私は11年位前から、ピーター・トラヴァースという、Rolling Stone誌の映画評論家がすっごく好きです。
この人の文は、一つ一つの映画について、全くもって何を言うか予想がつかず、独自の切り口で、映画に対して“ある一つの見方”というものを提案してきます。
そして何より素晴らしいのが、単に文や、“コラム”として見ても、とても面白いものになっているのです。この人の文は、とにかく勢いがあって好き。


高揚感があって、なんだか読み終わった後には、その映画について、すっごく見たくなってしまうのです。
そして、文自体も、きっと、「評論家だから、宣伝しなきゃいけないんだろう」と、素人に思わせるような、何か“信用できない感じ”というものがない。私は特にそう思ってしまうタイプなのですが、「どうせお金もらっているから、褒めなくちゃいけないんでしょ」なんて、実は評論家さんをほとんど信頼していません。
そのため、自分では映画雑誌は買わないし、人に意見を左右されるのも嫌いなのですが、この人の文だけは、ホントに好き。


一つ例を挙げて述べさせていただきますね。
ピーター・トラヴァースが、『レザボア・ドッグズ スペシャル・エディションDVD』の中で、“解説”をしています。自分のブログタイトルも、これをもじったものであるので、ちょうどいいかと。映画紹介文ではなくて、“分析”なので、この映画のネタバレで進みます、ご注意を。


このスペシャル特典付きのDVDが出た時は、監督作品が3作目を数える『ジャッキー・ブラウン』の後だったので、タランティーノに対する手厳しい批評というものも、多く聞かれ始めるようになった頃でした。
トラヴァースはこう言います、「中には頭にくることをいう人もいる。」
タランティーノは、いろいろ古いものを盗んで掘り出してきて、オシャレなダイアローグで繋げているだけじゃないか、と。
この映画以降、’60年代テイストをくっつけた作品や、似たようなテイストのジャンルが出てきたり、数限りなくいろいろな作品が、こぞって古典をモジって加工したが、マネしたり、引用すればそれでいいのか、と。

「だがこれは、本末転倒ではないかと僕は思う」、とトラヴァースは言います。
その後の多くの映画に影響を与え、フォロワーが多く現れたことにより、逆にそう言われるのではないか、と。

だが実際は、確かにタランティーノは色々引用していますし、その意見も正しい見方である、とも思うのですが、そこは、やっぱりファンであるため、そう言われて嬉しいものがあるわけです。
『サンキュー・スモーキング』のニック・ネイラー風に言えば、論点のスリ換えが行われていて、「タランティーノが昔の作品から引用を行っている」という事に対して、実際は否定してはいないんですよね。
だが、鮮やかな切り替えしになっているように感じる。

そして、最初の「頭にくる人もいる」、・・・こういった言葉が冒頭に来ているために、四角四面に堅苦しい言い方をされるより、グッと気持ちは傾いちゃっているわけです。最初の感情を左右される一言で、すっかり気持ちを持っていかれている、とも言えますよね。
こんな風に、“感情を左右するための形容詞”というもの、これを、トラヴァースは鮮やかに使いわけます。そのせいで、読者は気分が非常に高揚してくるわけです。

その上、映画における“感情”、これにも気を配った論評、と言えるのです。
ここで、観客はこう感じるだろうとか、批評家はこう思うとか。
『レザボア・ドッグズ』の冒頭の、“マドンナのチ○コ話”を初めとした、ギャング同士の会話。面白くてド肝を抜く会話のやり取りでしたが、トラヴァースの言い方は、「は?・・・なんだ、コレは?」
ノワール・ムービーと思って観に行ったのに、ギャングの会話とも思えない会話が続き、この前代未聞の出だしに、ア然として口が塞がらない、・・・とこうくるのです。
こんな、勢いを感じる文に、もう嬉しくって、一言一言にバカ犬のように喜んでしまいます。こんな風に、感情を文のうちにこめたものは、そうでないものに比べて、訴えかける力が違う。言語的表現がとても力強いのです。

それから、ご存知のように、タランティーノにとって、音楽が重要なファクターに位置づけられているので、Rolling Stone誌の記者であるピーター・トラヴァースは、当然ながら、音楽についての関連、ということで述べることが、この時は主でした。
それがまた、目からウロコの論評、と言えるものでした。

あの有名なタイトルロールの『Little Green Bag』、これが、北欧はスカンジナビアの曲で、アメリカ人にとっても縁の薄いものであり、この“バッグ”というものが後に一つの重要なファクターとして使われる、とか。

歌の一つ一つに対して、音楽誌の記者だけに当然詳しい情報を交えていて、歌詞の意味から、映画における意味について語っています、これ本当に面白かった。興味のある方は是非見て欲しいですね。
もう一つだけ言いますが、エンドロールの曲、ハリー・ニルソンの『ココナッツ』という曲。この曲、あまり印象に残っている方は、いないと思いますが。

この映画は最後に登場人物が全員、一人を除いて死んでしまいます。
ティム・ロス演じるMr.Orangeは、この映画の間ずっと、“腹”を打たれて苦しみ抜いている。
で、この『ココナッツ』という歌。
「お医者さん、お医者さん、おなかが痛いの、〜」という歌だそうです。
まるでギャグのよう。


今まで、Mr.Orengeが耐え続けた苦悩を、つまりはこの映画の流れていた時間すべてを、ギャグのようにして、幕閉じをするタランティーノの姿である、と、トラヴァースは述べるのです。
(だがタランティーノは映画そのものをギャグにしているのではない、と続きますが)

いやしかし、こう言われて、この映画に関する見方がなんだか変わるような、・・・目からウロコ、の爽快感がありませんか?私には少なくとも、もう1度すぐに見たくなるような論評でした。


この解説は、DVDの解説なので、映画雑誌にネタバレなしで書く“映画紹介文”とは違います。だけど、この人の文は、何を書かせても、切り口が鋭くて、鮮やかだったなぁ。
何より、文として面白いのがいいですしね。“解釈”や“分析”文は、読む方に疲れを催させてしまうのですよね(とはいえ、ときどき自分も、生意気にもそんな感じになってしまうことがあるのですけど)。

この映画を見るときに、こんな一言を知っていると、見るのが二倍楽しくなる。そんな、“解釈”“分析”ではない、楽しげな視点を見つけてくるところが、この人の好きな理由です。

 

2006/10/25 | :映画特集

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コメント(3件)

  1.  こんにちは^^僕もピーター・トラヴァースの批評はたまにCUTに掲載されてると立ち読みしてしまいます。ちょっと前に「ヒストリー・オブ・バイオレンス」を大絶賛してたりしてこいつセンスいいな、と←偉そう
     日本だと映画評論家が映画を批判するのはタブーみたいなとこがありますけどアメリカはそのへん自由で映画選びがラクそうですよね。

  2. nappaさんへ
    こんばんは★コメントありがとうございます。
    おお♪nappaさんもCUT立ち読み(笑)しますか!
    そうですよね、生意気そうに
    「こいつセンスいいな」という、
    ソレ、アリですアリ^^v
    自分の思ってることをちゃんと言う、それってお金もらってると難しいのですが、
    そういう人こそ信用できる、て思いますよネー★
    ところで、昨日言い忘れたのですが、『夜叉が池』では、松田龍平が「菜っぱが好きだ、味噌汁に菜っぱを入れてくれ」
    と、いうと、「菜っぱさん」と、呼ばれてしまうのですよ(笑)
    それで速攻、nappaさんを思い出したのでした(笑)

  3. お邪魔します、古典映画と素人自作映画応援しています

    自作映画の撮影法。ビデオ撮影を素人の目で語り、自作映画の面白さを知ってもらいたい




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