99.マーダーボール
アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネートの、車いすラグビー(ウィルチェアー・ラグビー)に関するドキュメンタリー映画。
どんな苦境にあってもパワフルに、セクシーに、自分らしく生きようとする男達の姿が、見ていて誇らしい気持ちにさえなってくる。・・・
このウィルチェア・ラグビーに関する少々の説明が必要かと思う。
このスポーツ、アメフトとラグビーを一緒にして、障害を持つ方ようにアレンジがなされたスポーツなのだが、バスケ用のコートを使用し、1チーム4名で戦う競技。ボールを前に投げたり、転がしたりして、膝に乗せて運ぶことも出来る。
ボールを持ってゴールすると1得点となる。
まず言えることは・・・これがかなり危険度が高く、とてつもなく厳しい肉体的・精神的にハードで過激なスポーツ・・・最骨頂、とすら言えるかもしれない。
車椅子はまるで戦車のようで、ホイールは鋼鉄製、それぞれの選手はその衝撃で首の骨を折ったりするため、首に金属が嵌め込まれていたり。
それにも関わらず、車椅子ごと相手に向かってまるでアメフトのようにぶつかってゆく。見ていて、本当に恐ろしいスポーツで・・・正直、驚嘆の気持ちでいっぱいだった。
アメフトやラグビーと同様のルールとは言え、それらにプラスして、次のようなものがある。それは、下半身障害や手足の障害など、重度こそ異なる、個人の様々な障害には点数がつけられ、その障害の度合いでプラス点がつくようになっている、というものだ。
中には、中心となる手片方全く使えなかったりする人もいる。
しかし、驚くのは、そういったことに関わらず、この一人ひとりの勇敢なこと!
事故で車椅子生活になる前から不良だったズパンは、マーダー<殺人>ボール、という異名を持つウィルチェアー(車椅子)ラグビーのアメリカ代表チームのキャプテンだ。
彼のイカツい顔やアゴ髭、タトゥーは怖く、見た目からして恐ろしい風貌。
そして、彼の率いるこのアメリカのチームは、10年連続、世界大会で優勝している。そして、次の大会は、カナダとの試合だった。このカナダとの試合というのが、実はある複雑な事情が背景にあった。
それは、カナダの監督というのが実は、アメリカで長年活躍し、様々なメダルやMVPを冠したトロフィーを持つ、アメリカ人のジョー・ソアーズなのだ。
彼はそんな実績にも関わらず、年のために戦力外通告をされてしまった。
それを不満に思い、なんと国外へ行き、カナダの監督になってしまったのだった。・・・
この作品、先に述べたようにアカデミーのドキュメンタリー部門でノミネートされたばかりでなく、サンダンスでも同ドキュメンタリー部門で観客賞、特別審査員賞を得ている。
この作品の目を奪うところは、ここに出てくる障害を持つ人々を、決して色眼鏡で見ていないところだ。
常人と同じように、カッコ良く描いていたり、ワルはワルに、そのままの目線で描き出し、決してお涙頂戴の物語にしたくなかった、という監督の意向がひしひしと伝わってくる。
さらには、彼らの性生活までも描き出している。
中には、車椅子になってからの方がモテる、というアンディの証言もある。
そして、筋肉隆々の腕を使って、新しい技法を考えついた、という人もいる。
また、4ヶ月前にバイク事故で下半身不随になった、キースは、靴すら履けない、という状況の中で、打ちひしがれている。
しかし、この競技の面白さが分かるようになってから、表情もいきいきと、四肢健康だった時より、活動的になってゆく。
そんな彼の姿は、否がおうでも胸を突く。
他メンバーの、親子関係、友人との葛藤、恋人関係・・・
それから、勝利の喜びと、敗けた時の悲しみ、悔しさ。・・・
ここに描かれている男たちに関して、こう断言できる。
事故に逢う前と後と、変わらず男らしく生きている、と。
彼らも、事故で四肢に、一生に渡る障害を負ってしまった時に、どれだけの苦悩が在ったかは、ここでは描かれていない。
大変だったに違いない、ショックだったに違いないのだ。
だが、そこを乗り越え、意地でも泣き言を言おうとしない、・・・そんな彼らは、本当にすごい。
“障害を持つ者”としてではなくて、“男”として生きたい、そして死にたい、そんな気持ちがあるのだと思う。
・・・意地でも男らしく生きてやる、という気概が。
ただ生きるだけでは、満足に当たらないのだ。
そんな彼らの姿を見ると、では健常者である自分は、こんな風に男らしく、精一杯生きていると言えるのか?と、考えてしまう。
障害を持つ、前も、後も、変わりなく魅力的に、生きる男達。
男として、人間として、尊敬に値する。
・マーダーボール@映画生活
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
コメント(24件)
前の記事: ギルダーってナンダ
次の記事: 100.ムーランルージュ
『マーダーボール』を観たよ。
シェアブログ1573に投稿
※↑は〔ブログルポ〕へ投稿するために必要な表記です。
彼らとこの競技のその後が気になってたまらない。なんて面白い作品だったのだろう。
『マーダーボール』
原題:”MURDERBALL”
参
とらねこさん、こんにちは! TB&コメント、ありがとうございました(^^)
驚きや感心や感動、興味深さ、たくさんの要素がつまっていて、「観てよかった!」と素直に思えて拍手したくなる作品でした。
ゲームのシーンの迫力とあの危険度の高さには、私もただただびっくりしてしまいました・・・。
香ん乃さんへ
こんばんは、香ん乃さん♪
この作品、単館上映だから、おそらく見る方って限られてくると思うのですが、それでもなかなか見所のある良質のドキュメンタリーで、良かったですよね。
なんだか彼らに勇気をもらった気がしました。
こんばんは。正衛門と申します。
「マーダーボール」についてブログりましたので、
トラバさせて頂こうと思ったのですが、できませんでしたので、URLを下記しておきます。
よろしければ遊びにきてくださいね。
自分も試写会で観ましたが、ステキな作品ですよねぇ。
映画【MURDER BALL(マーダーボール)】の批評@己【おれ】風味
http://d.hatena.ne.jp/thyself2005/20061006/1160120027
正衛門さんへ
初めまして!コメントありがとうございます。
TBが出来なかったということですが、ご迷惑をおけして申し訳ありませんでした。
早速遊びに行かせていただきました。
ありがとうございました。
「 マーダーボール 」
監督 : ヘンリー=アレックス・ルビン /ダナ・アダム・シャピーロ 出演 : マーク・ズパン /ジョー・ソアーズ / キース・キャヴィル 他 原作 : 漫画「 リアル 」(集英社刊/井上雄彦箸) 公式HP : ht
とらちゃん、こんにちは!
あらら今日はとらちゃんとことAQ先生のとこで「マーダーボール」について記事を読めました。
私もバスケは知ってたけど、ラグビーは知らなかったよ。
子猫さんへこんばんは!お元気していました?
子猫さん、お久しぶり〜
検査の結果は出ましたか?心配しておりましたよ。
『マーダーボール』AQさんも書いていたのですか!おお、それは珍しい!
今度伺いに行こうか、来てくれるのを待つか、どっちかにします(笑)
MURDER BALL
2006年10月06日 AQAQ が現在、高校のラグビー部のコーチをしている事を知っている方が、何人かおられますよね (* ̄ρ ̄)コメント欄でのやりとりでも、何度かその話題でお話した事がありますから ・・・。できれば教える側でなくて、自分自身が現役のプレーヤーでいつまでもい…
トラバさせていただきました。
Pet Lovers Only♪ では貴重な映画の記事でございます ww
ホント良かったですね、この映画は (^^)
久々の心からの興奮を覚えました。
マーダーボール
マーダーボールを観た。@九段会館、試写会
※ネタばれ注意!
AQさんへ
こんばんは!わたしのTB貼れていなかったようで、失礼致しました。
履歴のところには残っているのですが・・
昨日のこの時間に送ったTB全てが、送信失敗していたようです。
でももう平気のようですが。
AQさんはあまり普段映画の感想を書いたりしないかと思いますが・・・
いかがでしたでしょうか?
結構大変でしょ?ちゃんと書くと(笑)
でもAQさんとっても一生懸命書いてありました。
こちらこそありがとうございました。
感想/マーダーボール(試写)
車いすラグビー(ウィルチェアラグビー)のUSA代表をメインに追っかけた戦慄のドキュメンタリー映画登場! 体育会系マインドの持ち主はもちろん、そうでなくてもこいつらのパワーはぜひチャージしておきたいっス。『マーダーボール』10月7日公開。
映画『マーダーボー…
「マーダーボール」
「マーダーボール」よみうりホールで鑑賞
上映前にチームの中心人物であるマーク・スパンさんの舞台挨拶がありました。画面で見るとTATOOだらけでゴツイイメージの方ですが普通の車椅子に座って話をしている姿は華奢な感じの素敵な方でした。花束贈呈は山本美憂サン、私は…
マーダーボール/マーク・ズパン、ジョー・ソアーズ、キース・キャビル
ウィルチェアーラグビー(車椅子ラグビー)/QUAD RUGBYのアメリカ代表チームの選手たちを追ったドキュメンタリー作品です。主人公たちはいわゆる障害者ですが、某局の24時間テレビみたいなお涙頂戴、頑張ってますモノ、感動悲話モノとは全く次元が違います。超ワイルド超クー….
マーダーボール
事故や病気で体の自由を失った男達。だが彼らはそんな絶望したりはしない。彼らには夢も生き甲斐もある。それこそが車いすフットボール。またの名を『マーダー(殺人)ボール』。このマーダーボールに情熱を燃やす男達の戦いを描いたドキュメンタリー映画。
脚が動かない….
とらねこさん、こんばんは。TBが遅れてしまって申し訳ありませんでした(焦)。
ハンディを背負っているはずなのにそれを全く感じさせない彼らの心意気が格好良いです。
あと、映画全体に流れる「殺っちまえ!!」的な気迫もたまりませんでした(笑)。
えめきんさんへ
こんばんは〜♪
イエイエ、えめきんさんがお忙しいのは分かっていますので、大丈夫ですよん。
こちらこそ、おねだりしてしまいましたが、クリスマスなので、いいですよねっ(ごーいん)。
そうですね!“殺っちまえ!”的雰囲気漂う、クールなドキュメンタリーで、監督の愛が感じられて良かったですよね♪
マーダーボール (Murderball)
監督 ヘンリー=アレックス・ルビン/ダナ・アダム・シャピーロ 2005年 アメリカ映画 85分 ドキュメンタリー 採点★★★★ 子供の頃、TVのバラエティ番組でよく見かけたのが、そのコントの流れも何もかも暴力的にまで無視し縦横無尽に舞台を走り回る小人の方々。笑いと恐….
フリーソウル
『マーダーボール』を観た。
圧倒的生命力。
おそらく世界で一番過酷なスポーツかも…
車椅子ラグビーで無敵を誇っていたアメリカを、カナダが下す2002年の世界選手権から始まる。
カスタムされた車椅子はまるで重戦車。
このハードな競技に魅せられた身体の不….
とらねこさん〜こんにちは!
前から見たいな〜と思っていたものの、のびのびになってしまっていて、今更ですが、見ました☆
私みたいなダメ人間が、この映画見たら、みんな凄いし格好いいし、尊敬しちゃいました!
>常人と同じように、カッコ良く描いていたり、ワルはワルに、そのままの目線で描き出し、決してお涙頂戴の物語にしたくなかった、という監督の意向がひしひしと伝わってくる。
その通りですね! 良い映画見せてもらった!という気持ちです。映画館でみたら、さぞ、迫力凄かっただろうなあ・・・・
「マーダーボール」「RIZE」感想
2つとも、アメリカの2005年の、ドキュメンタリー映画。
latifaさんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
>私みたいなダメ人間が、この映画見たら、みんな凄いし格好いいし、尊敬しちゃいました
優しいコメントですね・・・
本当にそうですよね!すごくカッコよく、悪く描いているところが良かったです♪
映画館で見ると、迫力凄かったですよ!
音楽もカッコいいんですよね。じんわりしてしまいました。
マーダーボール
6月13日(土) レンタルDVD マーダーボール [DVD]出版社/メーカー: エイベックス・トラックスメディア: DVD まずは、三沢光晴に合掌。明日から3日ぐらい連続で追悼飲みだな。忌野さんといい今年は・・・。 さて、凶悪犯面のズパン筆頭に個性的なキャラクターが登場する…