※10.『盲獣』
作者/江戸川乱歩
江戸川乱歩作品をまだ読んだことのない人には、あるいはまだ何作かしか読んだことのない人には・・・敢えてオススメ出来ないほどディープな、ディープすぎるこの作品。
ただ、キッチュなこの作品の持つイメージは、現代の映画など、時代を先取りしていた感もある。
先日の投稿、増村保造監督作品『盲獣』の投稿と平行して読んでいただけると嬉しいです。こちらの方に、大分、前半部分の見所を書いてしまったので。
::::::::::映画、本ともにネタバレしています::::::::
先日の記事でも言ったので重複することになるが、この作品は、構成として2部に分かれる、と言えることが出来ると思う。
前半部分は、ストーキングし連れ去った最初の女である水木蘭子とセ○クス三昧の日々。
闇の世界にこもる二人がずっと過ごすことになる、この館の造形が、ものすごいのです。顔の一部一部の部品やら、手やら足やらの壁一面の変テコアート。それから部屋の真ん中に構える女体の大きな造形物。観ている者に異常をきたすような美術、とあるのですから。この辺り、本当に乱歩ならではで、楽しい。
そんなおかしな世界で、灯りもなく過ごす二人は、ジワジワと暗闇の世界にどっぷり浸かっていく、そして危険な世界へ、少しづつ少しづつ行為がエスカレートしてゆくのです。
挙句に、次第次第に傷つけあうというハードSMに二人は行き着く。官能世界が恐ろしい狂気へと突き進んでゆき、ついには破滅の道へと歩んでゆく。
そして、盲獣は、蘭子に飽きて、ついにはバラバラ殺人を行ってしまう。
ここまでが一部と言えるかと思うのですが、増村保造の映画では、ここまでを描いていました。
官能の世界が一転して狂気へとゆくくだり。
これは、ある時点で紙一重とも言えなくはない、常人にもある程度までなら理解可能であるのがこの官能の世界だ、と私は思う・・・と、昨日書きました。
それは、危険な魅力を伴うもので、この辺り本当に乱歩の魅力でありました。
で、その先のバラバラ殺人。
第二部に入ると、この殺人の後始末から入るのです。
顔部分、手の部分、足の部分・・・バラバラにされた部分が別々の場所で発見されます。恐ろしいでしょ。
手の込んだイタズラのような、世間を欺く形で、あっと驚くやり方で、それが届けられます。
足の一部が銀座のど真ん中の雪だるまの中に入れられていたり、浅草の空の下、たくさんの風船を飛ばした先に、もう片方の足がくくりつけられていたり。人の手と思って引いてみたらそれが、死体の手だった、と思わせるよう、仕組んでみたり、まるで怪盗20面相のように神出鬼没に、警察の手を逃れて、堂々と死体遺棄劇場を作り出します。
まるで暗い見世物小屋の中で、人知れぬ興奮を秘密に味わうかのような乱歩のこの描き方、まさにこれぞ!
ファンハウスの惨劇館!!乱歩の真骨頂です。
で、この後は、次々に何人かの犠牲者に同じように近づいては殺す、シリアルキラー・モノ!
今でもアメリカの映画やら何かでよく聞くような感じではあります。
だけど、これをこの時代にやっちゃった、っていうのが、トンでもなく凄すぎるように感じませんか?
やっぱり、乱歩って凄いなぁと、感心してしまう。
この作品を書いたときに、「この作品はとんでもないエログロで、こういうのがあるから自分はエログロと言われてしまうのだ。」と、作者の述懐(独り言?)がある、と言いましたが、私は、それは単なるポーズだと思う。
いろいろな観点でいろいろな物事を極めようと思うときに、とてつもなくそれが悪趣味であろうとなかろうと、そんなものに乱歩が怯んだり、突き詰めるのをやめたりした事はなかっただろう、と私は思うのです。
でも、さすがに自分でも読み直してみたら、少し照れちゃったんじゃないかなぁ。なんて。
シリアルキラーの描写、これがまた漫画チックだったりして、怖いには怖いけど、笑ってしまうんですよ。
そして、これを乱歩が描くからのなのか、不思議と許せてしまうんですよね。
描写を“抜く”というか、耽美妄想的表現であるからか・・・。
リアリティを突き詰めて読者に圧迫感を与える恐怖表現ではなく、そこら辺はこの時代の人の持つ、謙虚さ、つつましさだと思います。“味”のようなもの、というか。
グロを残酷に描くでなく、芸術のある一形態として描かれているため、人間味が加味されて、読めるようになっている、と私は思うわけです。
「こんな思いつきをしてしまった」という、想像力の面白さというか。
いたずらっ子のような目線で、自分の夢、悪夢かもしれませんが、そういったものについて喜々として語っている作者が垣間見れるように感じます。
2006/09/30 | 本
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コメント(7件)
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江戸川乱歩(もエドガー・アラン・ポーも)、文庫で全集をほぼ読みました。
記憶は薄れてきてます…読みなおしてもいいかなと思ったりします。
こういうの、好きですよ。
ボーBJジングルズさんへ
こんばんは!コメントありがとうございます。
ボーさんのような紳士的な方が、私の変態全開な文を読んでくださったと思うと、顔が真っ赤になってしまいます・・・
でも、乱歩もポーも全集で読んだなんて、すっごくお好きだったんですね!へーえ★
ビックリしました!乱歩はともかくポーまで読んだなんて♪
私はポーは文庫で読んだくらいなんですよー。
『盲獣』
今回紹介する映画も『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』に引き続きシネマヴェーラ渋谷で行なわれている「妄執、異形の人々 Mondo Cinemaverique!」で上映されていた一本です。実はこの特集上映は二本立て興行でして、木戸銭はたったの1400円!
これは安い!一本ごとに正規の…
遅くなりましたがTB有難うございます!
怪人二十面相、陰獣(大江春泥)、黄金仮面(アルセーヌ・ルパン)、人間椅子、芋虫、一寸法師と乱歩作品には様々な怪人が登場しますが、とらねこ様はとりわけ盲獣に格別な想いを抱いていらっしゃるようですね。私はこの話だいぶ引きましたが(笑)・・・。彼は明智に邪魔されることもなく怪人の中では一番人生を全うされた犯罪者だったんじゃないかな〜。映画『妖怪大戦争』の黒田義之監督タッチで『怪人大戦争』みたいな映画があったら生き残るのは彼なんじゃないでしょうか?
盲獣と触覚芸術論
アウアウアアア〜〜〜
海女にポーズをとらせて“触覚芸術”の構想に耽る盲獣。変態である。
日曜日に「盲獣VS一寸法師」を見てから3日たちましたが、今度は自分自身の妄想が始まり出しております。あのシーンやら、このシーンやらモワモワ〜〜と浮かんでは消えてゆきます。
…
amashinさんへ
おはようございます!コメントありがとうございます♪
あはは、いやいや、増村監督の『盲獣』が素晴らしくて、ついつい再読してしまいたくなってしまったんですよ(笑)確かにamashinさんの言う通り、他にももっとすばらしい怪人はいます(笑)
>明智から邪魔されることなく・・・
本当にそうですね♪盲獣は、乱歩に愛されていると言えるかも(笑)
私、この盲獣って、現代に一番ありそうな、ゴアキャラなんじゃないかって思うんですよねー。
それこそ、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスに匹敵する日本のキャラかも♪なんて思ったり。
黒田監督の『妖怪大戦争』ですか♪
そうなんですよ、私、三池ファンではあるのですが、正直、黒田監督の方を先に見たのですけど、あっちの方が正直、勝ってました。
本当にそうですね!また誰か別の人が、シリアルキラーとして、盲獣を蘇らせて欲しいですー♪
盲獣
= 『盲獣』 (1969) =
母親とふたり暮らしの盲目の男、蘇父道夫(船越英二)は、女性モデル・島アキ(緑魔子)を拉致し、彼女の彫刻を作ろうとする。
初めは抵抗していたアキも、次第に、彼との奇怪な同居生活にのめり込んでいく・・。
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製作国/…