97.盲獣
’69年、増村保造監督、江戸川乱歩原作。
ディープな、ディープすぎる変態世界。・・・
原作者本人の乱歩にすら、「とんでもないエログロ作品である。こういうのがあるため、自分はエログロ扱いされ、探偵ものまで悪とされてしまう」と、まで言われた、悪名高きこの作品。
ノーマルな方にはオススメできません。とてもじゃないけど。
だがそれにもかかわらず、江戸川乱歩原作の好きな人にも、きっと納得の行く作品。
SMの行き着く先・・・お、お、恐ろしすぎるぅ(泣)
以下、ネタバレ。・・・
紹介する私がビビってどうする!・・・と、いうわけで、勇気を持って参ります〜!
ストーリー・・・
モデルのアキは、自分の裸体像を出展された展覧会で、その像を一心不乱に撫で回す、視覚障害者を発見する。
その後、按摩を頼んだ時に、いつも来る按摩師とは違う人が来て、「モデルさんの肌に触らせてもらえるなんて、按摩っていうのはいい商売ですなぁ〜」などと嫌なことを言いながら、マッサージというよりまるで、撫で回しているかのような手のいやらしい動き。
と、クロロホルムを嗅がされ、アキはこの見知らぬ男に連れ去られてしまったのだった。
この男の目的は、自分の彫刻のモデルになって欲しいとのこと。
それも、見て美しい芸術ではなく、触って楽しむべき“触角芸術”という、新しい分野を盲人である自分ならでは、という作品を作りたい。・・・というのだ。
この倉庫を改造したアトリエの中で、ひっそりと住む母とこの男。
アトリエを見回してみると、そこは、たくさんの大きな目が寄り集められた箇所があったり、それが鼻の部分、手だけの部分、口があり・・・といった、異常なまでに大きさの壁の彫刻の中に、真ん中にドドーンとひときわ大きく位置する、裸の大きなオブジェ、まるで公園にある遊具のように、太もものスロープを抜けた先にこれまた大きな乳房の山がある、といった具合である。
この部屋の美術が、とてもこだわって作られていて圧巻の、大満足だった。
原作では、ここの部分が強烈で、「おお!これぞまさしく乱歩世界!」というべき、狂乱の舞台。
なので、これをどう映像化してくれるのかな?・・・って、それはそれはもの凄く楽しみな私だったのだ。なので、これを完璧に作り上げ、その手触り感まで再現されているので(触るとブヨブヨする)・・・、すごい意気込みである。
だが、この先、少し原作と様相が変わってくる。
まず、最初に言えば、最初に出てくる女性の名前が違っていて、原作では“水木蘭子”であるところが、この作品ではアキであり、職業も前者はレビュー団の花形ダンサーと、後者はモデル、と違っているのだ。
あれ?なんて思ったが、そこは、この監督の自信の表れ。
乱歩の『盲獣』を原作にしながらも、それをベースに、この監督の描く世界は、もっと突き詰めて、理知的なまでにこの変態世界をセリフでもって説明し、表現しつくしているのだ。
“触覚芸術”。これが、このテーマになってきています。
「ここの辺りは批評家には面白いと言われたが、これをもっと発展させれば良かったと言われた」、と乱歩は引け腰で述懐していて、なんだかかわいいんですけど。
「自分は小説の最後の方で思いついたのであって、・・・」なんて、正直なコメントを読んでいると、読んでいて「そんな事もないよぉ♪これはこれで良かったよぉ〜」なんて、言ってあげたくなっちゃう私。
で、これを緻密に完成度高く作り上げてしまったのが、この監督・増村保造なのです!
乱歩作品との違いは、まず、前半部分のみこの作品を描くのに従事していること。
原作の方は大まかに言うと、二つに構造が分かれると言えるかと思う。
で、この映画では前半部分を、徹底して描くことに費やして終わっているのだ。そしてその代わりに、原作では若干納得がいかなかった部分を継ぎ足す。
(原作の後半に関しては後で章立てして、別記事に。江戸川乱歩『盲獣』)
・・・例えば、視覚障害者から逃げるのに、なぜ目の見える女性が捕まっていったのだ?という箇所に、母親を登場させ、・・・さらにはこの母親との孤独な二人だけの隔絶した世界や、母子間の愛情の葛藤。
それから母親対、女の醜い争いなど、人間関係まで描ききってこれまたディープで、この辺り原作には全く無い部分だった。
盲獣が憧れの対象であった体と肌を持つ女をストーカーして、いつの間にかさらってしまう。そしてこの、世にも珍しい建築物の中で、倒錯のセ○クスに明けても暮れても従事する二人。
それが、女も初めは嫌で嫌でたまらなかった盲獣が、この暗い世界の中で、セ○クス三昧の日々を送ってゆく。
危険な世界へと少しづつ少しづつ入り込んでゆき、ついにはやめられないほど加速してよりハードなSMへと足を踏み入れていくのです。
灯りもなしに生活するうちにいつしか、この盲獣がいないと駄目なほどになってしまい、“触覚”の世界に目覚めてゆく過程で、目などいらなくなってしまう。
「目あきさんは可哀想、この触覚の素晴らしい世界を知らないなんて。
目で見て感じる世界と、見えなくて感じる触覚の世界は、全然違うのに。」
などと言っているアキを見ると、なんだか見えない世界の触覚の素晴らしさが、少しだけ羨ましくなってしまうと思いませんか?
そして、次第に噛みついたり、果ては、お互いに傷を負わせたりしてゆく。
だけど、噛んだり、痣を作ったり、というのは、・・・割と普通に皆がやったりするのでは?ソフトなSFの手始め、として考えたら、うーん、確かにそこら辺かも、なんて、納得する人も多いかと思う(?)。そう、ここら辺ならみんなやると思います。誰だって興味あるしね。
それっくらい、みんな、やるでしょぉ?エ、どーなのさ!
(あっれ〜、マッズイことまた言っちまったかなぁ〜)
官能の世界が一転して狂気へと落ちてゆく有様。ここら辺を、上手に描いていました。
そもそも、官能の世界は、我を忘れてどこか違うところへ、向かってゆくような気がするものですよね。
なので、こうした世界を、誰もが全くわからないもの、自分はそれとは別だから、なんて言えないのでは。
そこら辺を、どこまで突き詰めてゆくか、それは個人の差なだけと私は思うのです。
だが、こうした二人のハードSMは、留まることを知らず、刺激はより強い刺激を欲して、二人は異常な世界にのめり込んでゆく。
命の危険すら伴う事態にまで突き進む・・・。終いには、ナイフを使うようにすらなってしまう。体がボロボロになるまで。
うう、グロい。
ラスト、とても正視に耐えません。・・・
よくぞこれを映画化しちゃったなあと、私ビックリしてしまいます。
このたった3人しかいない登場人物で、見事なまでにドロドロした人間の闇の部分を、否応無く描いてしまっている。
乱歩作品の耽美世界から比べると、こちらは、理知的なまでに変態世界を描ききって、妄想レベルでない、リアリティに満ちたものにしています。
セリフで説明表現し尽くしてしまっている。
正直に言えば、少し自分には、セリフが多すぎるように感じたのは否めません。だがやはり、トンでもない怪作には違いない。
恐ろしい、ああ恐ろしい・・・
2006/09/28 | 映画, :カルト・アバンギャルド, :文芸・歴史・時代物
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コメント(8件)
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盲獣
原作:江戸川乱歩で監督は増村保造。69年。これは想像以上に素晴らしくて傑作必見映画。思春期あたりに見たらトラウマになるよw タイトルだけだと怪獣映画かと思わせるけど、盲人が女を拉致して監禁するSM映画なのだ。なんと登場人物3人だけ。それでもまったく飽きさせな…
コンニチハ。
増村版盲獣はなんつっても母親を出したところが素晴らしい。
原作の盲獣はタダの快楽殺人者でほとんど人間味を感じないですが、よくぞここまで血の通ったキャラにしたもんです。
近親相姦一歩手前、ドロドロの母子関係を描いた映画としては、これと「青春の殺人者」(市原悦子&水谷豊)が双璧かなぁと思います。
bambiさんへ
こんばんは!
コメントありがとうございます!
本当、血の通った一人の人間として描かれていて、感情移入できるキャラになってましたよね。
ヒロインの方も、自分から「切って!」って言ってましたが、あれ原作にはない部分でしたね。
お母さんを交えたドロドロの関係・・リアリティありました。
市原悦子の作品にもそんなのがあるんですかー。
私彼女好きなので、それも要チェックですね!教えてくださり、ありがとうございます!
『盲獣』
今回紹介する映画も『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』に引き続きシネマヴェーラ渋谷で行なわれている「妄執、異形の人々 Mondo Cinemaverique!」で上映されていた一本です。実はこの特集上映は二本立て興行でして、木戸銭はたったの1400円!
これは安い!一本ごとに正規の…
どもー、エロ岡グロ男でーす♪
近所のツタヤに何気にありまして・・・
「とらねこさんのブログにあったよな」と思って『マタンゴ』と合わせて借りました
いやー、まさにエログロですね
とらねこさんのブログは読まずに見たので、物語の着地点はどーなんかな?と見ていましたが
後半30分からス、ス、スゴイです。
しかも、あんなラストで・・・
見終えてブログを拝見しましたが原作とは違うご様子で
映画の方がより突っ込んだ内容なんですね
でも、よく製作されましたね〜。今ではちょっと無理すかね?
仮にリメイクするとなると監督は三池さんや塚本(晋也)さんくらいでしょう
ね♪
サイさんへ)
こんばんは〜♪コメントありがとうございます。
年末の時間が取れたときに、ゆっくり映画をご覧なのですね♪
『マタンゴ』はいかがでしたか?^^
私のブログにこれが載っていたことを覚えていてくださり、嬉しいです(読まなかったとしても・・
そうですね、今考えても、なかなかの傑作だと思いませんか?この監督さんのツッコんだ目線が面白いんですよ。原作の面白い部分を、より上手に料理したような作品になってて、すごくこの監督の作家性を感じます。好きですね、この監督は。
確かに、三池さんがこれをリメイクしたら面白そう♪
ね
今度、増村保造監督の特集上映が、「増村保造 性と愛」というタイトルで、角川シネマ新宿でやります。1/17〜2/6まで。
この作品『盲獣』もリストアップされてますよ。
私は見てないものを片っ端から、出来るだけ見たいな、と思ってます。
んちゃッス♪
>>(読まなかったとしても・・)
自分で「これは絶対に見ないな」と思う作品はとらねこさんのブログを読むけど
見そうなモノに関してはさわりを読むだけでスルーしちゃうんです
で、見てからどーなのかなと改めて確認すると・・・
とらねこさんってケッコーするどく見てますからね
自分としては予備知識を入れずに見て自分なりに感じてからブログを見ているんですよ。
逆にブログを見て「とらねこさんの評価が高いのなら・・・」って見ることもありますし
頼りにしてるんですゼ、姉さん!
サイさんへ
んちゃッス♪
うんうん、私のブログ、ネタバレはそれほどしてないところと、完全にネタバレなところと、ありますし。
正直、申し訳ないな、と思っています。
でもね、映画の宣伝記事じゃないんだから、さわりだけサラッと書くのもなんだかなあ、なんて。
結局少々ネタバレ気味になってしまうんですね。
ネタバレはせず、だけど一面的に映画を見るわけではなく、突っ込んで書く、
という離れ技をやってのけたいな、それが理想だゾと。
自分はまだまだ過ぎて、それがなかなか出来ないんですよね・・・。
ま、年齢的にはサイさんの“姉さん”かどうかは分かりませんが、まあ私って、基本生意気気味ですし・・。姉さんでもいいか、ブツブツ・・・。
頼りにしてくれて、ありがとうッス〜♪