92.太陽の傷(舞台挨拶つき)
三池 崇史監督、今年4本目の上映作品となる今作。
哀川翔とは、『ゼブラーマン』以来のタッグとなる。
舞台挨拶つき、三池崇史監督、哀川翔、森本慧、佐藤藍子の4人が来た
三池さんに会えた至上の喜びが、ヘビーな映画の内容にズドーンと粉砕されることになった・・・
舞台挨拶で三池さんに会えたのはこれで3回目。
『殺し屋1』、『インプリント/ぼっけえ、きょうてえ』、そしてこの作品、『太陽の傷』。
我ながらものすごいラインナップだ・・・(大満足)。
司会の塩田時敏(映画評論家)さんは、最初の挨拶一声でまず、
「牛頭です。牛頭です。」
と、嬉しそう(爆)・・・思わず、とある方が「牛頭のパンツに染みがついていた」と言っていたのを思い出す(爆)。(←コノ方を参照アレ)
「『牛頭』初上映、おめでと〜!!!」(渋谷シネマヴェーラにて今月開催される『妄執、異形の人々シリーズ』・・・そう、この映画館の、1F上の階に当たるところで行われているもの。)
と、気の利いたカケ声をかけようか、と思ったが(なんたって『極道恐怖大劇場 牛頭』は、カンヌで上映されたくせに日本の劇場では公開されなかったからね・笑)、今日は友達もいなく、一人で来ていたため、やめてしまった・・・存外、臆病者。
でもって、前から2列目のかぶりつきである。この写真、本当はマスコミ以外は禁止されてます。私が携帯で撮ると、
ピロリロリ〜ン
と、ヘンテコリンな音が、さすがに響く距離。・・・塩田がそれを聞いて、
「あ、マスコミ以外の方は・・・ちょっと・・・あんまり・・・。」
と言う。三池さんは、「“ちょっと、あんまり・・・”って、微妙だなぁおい(笑)」
と、ウケていた(はぁと)
すんませ〜ん私です。
今作で映画初出演となる森本慧は、三池さんとのオーディション(ここ一言ツッコンで欲しかったけど・・・ま、いいか)の中で、私生活の話を聞かれて、困った、等カワイらしい発言。
映画の中での話し方とは全く違って、普通の話し方をしていたので、この映画での話し方は、演出によるものと、納得。
三池さんは、この映画では、社会派の扱いをされているが、自分は本来“ジャンル”というものはあまり意識をしていない。ホラーではない、といった程度の認識、・・・とコメントしていた。
実際、この映画は、確かに社会派のテイストもあるが、ちゃんと三池さん流の“エンターテイメント性”があった。ゴリゴリのメッセージが含まれるものと、勘違いはどうか、なさらぬよう。
発端は社会に向けられた問題提起ではあるが、ではすぐにそれが“メッセージ性”と結びつくかと言えば、それは別、といった具合に。社会派映画であっても、主題に対する監督なりの“答え”=それがメッセージ性の強弱であるとしたら、この映画はそれを“問題提起”と止めている。そこがとても“映画”であり、“エンターテイメント”である、と私は思うのだが皆さんはどうか。
そこにストーリーを楽しむ要素がいくつもあり、ズドーンと重い内容で考えさせられるが、おそらく、三池さんの今までのテイストとは明らかな違いがあった。
ま、これは後ほど・・・。
佐藤藍子はTVで見るのと同じ、とっても綺麗な人で、かわいらしいワンピースが良く似合っていた。
ストーリー・・・
中学生の不良グループが、浮浪者に暴行を働くのを目撃した片山(哀川翔)は、その正義感からつい注意をし、止めに入る。したたかやられたところで、それらのボスと思われる神木(森本慧)は、穴あきのアーミーナイフを取り出し、生命の危機を感じた片山は、逆に神木をボコボコにしてしまう。
神木の恨みを買った片山は、以降、つけ狙われ、娘を殺され、妻は自殺。
だがマスコミの扱いは、片山が以前神木を殴ったことによる私怨を取り上げ、逆に被害者であるはずの片山に社会の風当たりが強くなってしまう。
だが、娘を殺した犯人の神木は、少年法に守られているために、1年8ヶ月で少年院を退院する。・・・
三池さんが言っていたが、前半で主人公が地獄に落とされ、更に後半で地獄になる・・・という内容。
「だが、悪魔な存在しない。悪魔がいない、ということがさらに苦しい内容だ。」と。・・・
:::::::::::以下、ネタバレを含む感想::::::::::::
凶悪化する少年犯罪と、それに対応出来ていない少年法。
ネットで手に入れられてしまう海外流出された武器。
顔も見たことのない、見知らぬ人からのメールでコミュニケーションを取る若者達。
この作品が扱う内容は、確かに時代の最先端を取り上げている。
徹底的なまでに現代性を取り上げたことにより、フィクション性が耐え切れなくなる程に、この映画が持つ意味が重くのしかかってくるようだった。・・・
『シティ・オブ・ゴッド』と、『殺し屋1』、『隣人13号』・・・これらと似たテーマを持った部分がある。通りすがりの若者に無意味に命を狙われたり、少年という年代の若者が、凶器を得ていることの恐ろしさ。
だが、この作品が上に挙げた作品より本当に怖い、と言えるのは、この作品が圧倒的なリアリティを持っていることだ。
どこか別次元で行われた、物語での話、というものでなく、現実に行われている、ありえる恐怖であるところの、社会の持つ暗い部分。
毎日のニュースで取り上げられる、凶悪化する少年犯罪がその裏づけとなって、リアルな恐怖を提供するのが、・・・本当に恐ろしい。
被害者が加害者になりうる、怨恨が怨恨を呼ぶ。
警察が守ってくれるか、法律が守ってくれるか、と言えば、それらはどこまで補償されている、と言えるのだろう。
法律が解決してくれない部分を、人間の感情と言う部分を、やるせない怒りを、悲しみを、恨みを、・・・全て覆いつくすかのように、表現された、この作品。
感情がほとばしるところを、逆に静謐に抑えたトーンで表現しているところが凄い。色を失い、モノクロで表わされる画像処理、抑えられた音楽も、ギリギリに恐怖感を煽ってくる。
部屋の向こうに光が当たって、ガラス越しに漏れる光が、床を映し出す部分、このシーンは『シティ・オブ・ゴッド』を思い出した。
それから、外に漏れる灯りを感じさせながら、こちらの部屋は暗くて、その中に佇む主人公、・・・このシーンがすごく私は気に入った。
最後に光が明けて映し出される、一瞬の太陽の描写。
ヘミングウェイの『陽はまた昇る』を思い出した。
2006/09/17 | 映画, :ヒューマンドラマ, :三池崇史(今月の三池さん)
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『太陽の傷』
※映画の核に触れる部分もあります。
鑑賞ご予定の方は、素通りしてください。
逆にアンチ三池崇史監督の方たちにお読みいただきたいです。
もしかしたら観に行きたくなるかもです。
—-これまたスゴい前置きだね。
確か、三池崇史の映画はあまり好きではなかったのでは?…
太陽の傷(舞台挨拶付き)
【映画的カリスマ指数】★★★★☆
癒えない痛み、広がり続ける傷
こんばんわ!やっとコメントできます。
一応、ゆれるにもTBしておきました。あ!LOFTにも。(ちゃんと付いてるよね?)
たぶん、この舞台挨拶で一番目立っていたのは、ピピロピロリーンではなかったでしょうか(爆笑)?塩田ジイにしっかり注意されていたところはかなり面白かったです。
思うんですが。
三池監督って、舞台挨拶のとき、いつも同じ格好してませんか?あれ?気のせい?
グラサンの奥の素顔も拝見したことがありません・・・。
ブログの書き込みがあったので遊びに来ました。
舞台挨拶、ともて充実した感じだったんですね?
カメラの音が響いても笑いで終わった、素敵な空気だったと感じます。
映画自体、俺はまだ観てないのですがタイミングみて観に行こうかなぁと思ったほどのコメント。
って行かないとね、やっぱり。。。
ところで、とらねこさんは舞台とかはあんまり見ないのですか???
睦月さんへ
こんばんは!お疲れ様でした♪
楽しい時間をありがとうございました。
あの携帯の音、本当にうるさくて嫌になりました。
デジカメ持ってる人が羨ましかったです。
しかしこの写真、どう見ても三池さん中心に撮ってます。
そう言えば前回も三池さんしか撮ってなかった私でした。
うん、そうですね、同じ格好してますね(笑)
そう言えば睦月さんは、こないだも『46億年』逝ってましたっけ。やっぱあの時も服一緒でしたか。
でもいいのです。
白のロンTにアーミーカーゴは、好きですv
山彦さんへ
初めまして!コメントありがとうございます。
LOFTの時にコメント書かせていただいたのですよね?
TB出したのに、なぜだか失敗しているようです。
おかげで変な奴だと思いましたよね?すみませんでした。
あれなかなかもう一度辿るのが大変で・・・
今回もURLいただけなかったので、ちょっと寂しいです・・・。
この作品とてもヘビーですが、とても印象に残る作品でしたよ。
もしよろしければ是非是非v
舞台は今まで一度だけ、ミュージカルも一度しか行ったことないです・・・。でも、行ったらハマるのでしょうか?
太陽の傷
哀川翔が三池崇史とタッグを組み、世に謳う衝撃の問題作!幼い娘、妻と共にささやかな幸せをかみしめ生きる片山。ある日少年グループの浮浪者への暴行を止めようとしてリーダー・神木の恨みを買う。不安の中、神木の手によって娘が殺害される。神木は警察に連行され、マスコ…
太陽の傷
「太陽の傷」製作:2006年、日本 117分 R-15指定 監督:三池崇史 出演
殺人のライセンス
204「太陽の傷」(日本)
片山俊樹は会社からの帰り道、浮浪者への暴行を働く少年達を止めようとして、リーダーの神木の恨みを買う。そして娘の彩香が神木によって殺される。
神木は警察に連行されるが、マスコミは神木に暴力を振るった片山にも事件の遠因があると…
とらねこさん、こんばんは。コメントありがとうございました。
ニュースで少年犯罪のことを聞いても、頭では恐ろしいなどと考えてしまいますが、リアル感が欠けるのも確かです。
しかし、本作を観ていると、それがリアルなものとして身に沁みてきます。
問題提起はされました。後はこれをどう受け止めるかは観た人次第でしょう。
CHINECHANさんへ
こんばんは!ご丁寧にコメントありがとうございました!
そうですね、この映画、ニュースでやっていることの最新の内容そのものがそのまま出てきた、という感じが本当に恐ろしかったです。
この不快感ゆえ、この作品を見て素直に「あー面白かった〜」と言える人はいないと思う。
でも、こういった作品が作られる、というのもあっていいことかなと思ったりします。
単に娯楽作ではない、力強い表現力があって自分は好きなんですよ・・・
『太陽の傷』
おもしろかったけど、展開がちょっと・・・。
妻と幼い娘と暮らす片山敏樹は、ある夜少年グループの浮浪者への暴行を止めに入った。哀川翔は声がちょっとね・・・。哀川翔はサラリーマンには見えなくって。サラリーマンだとしてもサービス業とか営業職系風味。図面ひける…
なるほど。
エンタメだと思って見れば、そのリアリティに圧倒されたのかもしれませんね。
現実的な題材を取り扱った映画だと思って観た私は、非現実的なノリにちょっと冷めてしまったのでした。
少年たちの人物造形をもうちっと・・・。
でも、エンタメものとしては見ごたえある面白さでしたわん。
かえるさんへ
こんばんは。
そうですね、こういった系統は、かえるさんが気にいられなくても、仕方ないと思いますー。
だって、こっち系は私の好きな分野ですもん。
で、あちらのコメント欄にいろいろと書かれていらっしゃったことも、理解できます。
そういった、真摯な社会派を想像すると、ちょっと違う、ということになってしまいますもんね。
でね、私が見た後ふと思ったのは、この描き方だったから、“リアリティ”と“ものがたり”との境界線を、途中から感じることができた、ということですかね。・・・
他の監督がきっとやっていたら、もっと全然違うものになっていたような気がするのです。