『地獄変』
作者/日野日出志
’82年書き下ろしの、自伝的怪奇漫画。
・・・と聞いて、「おや!?」と思いませんか?
そうです。
“自伝”と“怪奇”が一緒くたにされちゃっているのが、何とも恐ろしい・・・
冒頭からして、もろ、読む者に訴えかけてくる。
「ぼくは絵師だ・・・血の色とその美しさにとりつかれた地獄絵師だ」
「ほら見てください。ぼくの体中は無数の切り傷でいっぱいだ」
「ぼくは自らの肉を切り刻んで、流れ出るその血を容器に貯めて、血の色として使っているのだ」
この強烈な自己紹介・・・。
病んでるレベルが半端じゃない。
マリリン・マンソンと似たような傷だらけの上半身に、プラスα、血のアート的利用法まで語っちゃっている。
そして、今、“終末地獄変”のために、朝起きたら日課として塩酸を飲み、来たるべき大傑作のために大量の血を吐く、という。大量の血を必要としているが為に。・・・
どーですか、この病みぶり。
文字通り身体を賭して、何もかも表現し尽くしてしまおう、という心構え。
この心構えがね、芥川龍之介の『地獄変』の絵師良秀に共通する、“芸術至上主義”だったりします。(私は15の時に読んで、以来一番好きな芥川作品。『河童』なんて、メじゃないです。)
しかし日野日出志のこちらの『地獄変』には、内容的にはあくまでも文学の香りはせず、カルト★ド真ん中なホラー漫画(この時代には“怪奇漫画”と言ったらしいが)。
だが、これがかなり完成度が高い。
日野日出志ご本人の血族を題材にした“刺青三代”の話を始めとして、絵師の両親、家族、一人ひとりについての紹介に、章立てを割いてこまごま説明したり。
はたまた今まで書いた地獄絵図について、一つ一つ語りかけてくるのはもう、ゲロ楽し。
なかなかに手を変え品を変え、楽しませてくれる。
ショートストーリーが随所に盛り込まれてくると、何故だか自分は大喜びします。(複雑な時系列なんかも大好物。)
この作品ではそう、どこまでも陰惨で皆狂っていて漫画ちっくなイカレ振りに、狂気乱舞の地獄花。
好きだったのは、挙げた“刺青三代”の箇所でした。
絵師の祖父は“利根の大蛇(おろち)丸”の異名を取り、背中に大蛇の大輪が咲く、喧嘩三昧の博打打ち。
チンピラに大勢囲まれ、“なますみたいに切り刻まれ”ながら、不気味な笑いをし、「チンピラごときに殺られる俺じゃねぇ」、と言うと、自分の最後は自分で決めるとばかりに、腹を真一文字に掻っ切る。
すると、大量のサイコロがぐごぶふわぁ〜〜っと噴出します。
パチンコで言えば大当たり、2連チャン、3連チャン、4連チャン、5連チャン、6連チャン、7連チャン、8連チャン・・・・
そんな感じに、チーンジャラジャラ、出るわ出るわ出るわ、血だらけのサイコロが吹き出し、雪の中で壮絶に生き絶える。
絵師の親父も、喧嘩に明け暮れ、猛り狂ったその姿には、刺青の“紅蝙蝠(ベニコウモリ)”がまるで生きているかのように朱爛漫に燃え盛る。
やはりヤクザ絡みで水死体になって犬死にするんだけど、不思議なことにその死体には紅蝙蝠の姿は無く、どこかに飛んでいなくなってしまう。・・・
ああ。・・・
男だったらこんな風に、生きてみたい、かもしれない・・・。
そしてまた最後も強烈。
ネタバレになるので軽く言うと、読者に呪いをかけて終わるんだよね。凄すぎです。
この作品、こんなテンションで書いていたら、この人この後死んでしまったんじゃないか、と思うのだが、・・・
この時、さすがに漫画家生命を終わすつもりで書いたらしい。
こういう作品、魂が篭っています。
吼えています。
狂った血の世界に、酔いしれた。・・・
2006/09/06 | コミック・コミック関連
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コメント(17件)
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こんばんは!
漫画の紹介も始めたのですね。
でもいきなりコレですか(笑)!『地獄変』、僕も好きですけど・・・最初はとらねこさんがバイブルだと仰る「ガラスの仮面」か何かについて書いた方が良かったのではないでしょうか?
いきなりコレはきっついでしょ!もう後が無いんじゃないですか(笑)?
でも登場人物全員が狂っている漫画ですが、花火の上がるギロチン台などグチョグチョ血みどろな漫画の割りに意外と綺麗な印象の方が強いです。
それでいて戦争が影を落としていることを地味に匂わせている辺り、ちょっと文学的かななんて思ったり。オチもステキですしね。
因みに日野先生はまだ生きていたと思いますよ。
蔵六さんへ
こんばんは!コメントありがとうございます。
蔵六さん、日野日出志オススメ有難うございました。文中リンクしようか考えましたが、それは彼の作品まで取っておこうと。
さすがに蔵六先生のオススメだけあって、何というか、猛り狂った感じにキレまくっていましたね(笑)あー、恐ろしい(笑)
本当ですね、記念すべき?最初のコミック紹介がこれになってしまいました(=_=)
確かにもう次がないかもしれません(笑)このカテ、これだけだったりして。
『ガラかめ』は、夏休みの課題図書にするつもりだったんですが、大好き過ぎて筆が進みませんでした。
でも蔵六さんが書いてくれたら私も書くかもです♪
黒い海に大きく開いた口でしたね。あそこら辺確かに何か戦争とか象徴してるかもしれませんね。
ひばり書房や秋田書店の怪奇漫画で義務教育を過ごした自分には懐かしいタイトルです。
日野日出志は長編も面白いのですが短編も切れ味がよく、自分の好きなのは…タイトルは失念しましたが夏の暑い日に床屋に惨殺される話とか花の肥料に美女を使う話とかですね。
森由紀子や古賀新一、さがみゆき、いばらみき…
全て傾向の違う恐怖と笑いを持った作者だったと思います。
arudentな米さまへ
こんばんは!コメントありがとうございます。
ぎ・・・義務教育時代を怪奇漫画で・・・(泣)
お、恐ろしい。恐ろしすぎる・・・(笑)
うーん、私は『エコエコアザラク』読んで眠れなくなったり、1ヶ月位暗闇が怖くてトラウマになっていましたが、忘れた頃にまた読みたくなったりしていました。はは^^;
教えて下さった日野短編作品もすごく面白そうですね♪
森由紀子にさがみゆき、いばらみき・・・
うーん古賀新一くらいしか読んだことないです。むむむ・・・つのだじろうとか楳図かずおなんかは全部読んだんですが。
恐怖と笑いというのが凄いですネ!?
その二つが同時に描かれているなんて必見ですね☆
持論ですが笑いが上手い人は恐怖も上手いと思ってます。
笑いと恐怖は合わせ鏡みたいなものだと思ってます。
発想がfunny(おかしい)部分が似ているんだと思います。
お名前があがった、つのだじろうも梅図かずお、最近だと伊藤 潤二、映画監督のサム・ライミや清水崇なんかも。
うっひゃあ〜!?
すごいイラストですね。
一瞬、楳図かずおの漫画かと思いました(笑)
魂を込めたものスゴイ作品みたいですね(ゴク
ッ…)
こ、恐そう…。
見たい様な見たくない様な…ドキドキ
ぷぷぷっ!日出志とは、なんともとらねこ3らしい・・・(笑)
これ、名作ですよねー。
気合いブリブリ入ってて、マジ凄ぇや!オッチャン☆って感じです。
白髭も、怪奇漫画乱読で多感な時期を過ごしましたが、
このオチにはちょっと、ブッ!ってなりました。
言われてみりゃ、マリマンもど真ん中コレ系ですね。
どうりで面白いはずだ・・・
arudentな米さまへ
そうですね!笑いと恐怖って、なんだかセットになっているような気がします、私も。
怖い映画を見ていて時に笑ってしまったりしますしね(笑)
あと、ジェットコースターに乗っていると私、一緒にいる人に嫌がられるくらい大爆笑してしまうんですよ。
本当に恐怖に遭遇して生命の危険を感じた時は違うのかもしれませんが、一歩引いてフィクションである場合には特にそこら辺の境界線て、紙一重になっているかもしれませんね。
あと私、伊藤順二結構読みました。うちのおばあちゃんの名前は「富江」です(笑)「うずまき」はコミックしか読んでませんが。
あと話は変わりますが、『怪猫トルコ風呂』見て来ました♪やっぱりfunnyでしたよ(笑)
Pamyさんへ
こんばんは!そうなんですよー。
この絵ではタイトルの文字で見えずらくなっているんですが、『地獄変』の部分に、頭の中から魑魅魍魎のようなものが出ていて、それも面白怖いんですっ・・・!
それが見えないとは残念なのですが。
顔を剥がして髑髏が見えていますが、この絵が表わすように、もうこの作者の全ての中身を、表現しつくしてやろう、なんていう、血みどろ惨憺たる内容ですよ!うはは・・・
良かったらどう?・・・なんつって(笑)
白髭さんへ
コムバワー★
白髭さんにTB出せないのがオイラ寂しいだ・・・。
ひでしで、ひでぶっっっ!!!!!て、感じデショ♪うはw
白髭さんも、やっぱホラーにハマってた時期あったんですね^^vそうだよね、ハマるよねー。
でも私、そんなに詳しくないですよ。白髭さんはさすがに知ってたのね、このオッサン★
うんうん、マリマンですよね、この系統。でもちょっと異常やね。おトモダチにはなれないよ私。
マリマンね、友達の友達(ニュージーランド人)が言ってたんだけど、「ヤラセてくれなかったら死ぬ」とか言ってクドイて来たんだって。ライブ後の打ち上げで。ファン心が一気に失せたって。
ギャハハッ!
うけるっ!マリマンうけるっ!
さすが、元いじめられっコ、ブライアンっ!
死んでっ!死んで見せてっ!!
そんなブライアンも結婚、映画デビューも決まり順調☆
死ななかったんだ・・・お、お友達の友達は・・・(爆)
白髭さんへ
ねー★ウケルっしょ?だしょだしょ?
でもちょっと気持ち悪いさぁ。
ね、結婚なんて、しちゃって大丈夫なのかな。そんな一般ピーポーみたいなことしちゃって、大丈夫?本当に?ブライアン!?てゆう。
なんか『Mobscene』なんか聞いてると、あれってもしやハッピーオーラが出てたんかな、とは思うけどさ。でも奥さん綺麗だよね。PV見た?
カクテルグラスに入っちゃってるオナゴね。
映画デビューは、もう前にしちゃってるんだけど、『ボーリング・フォー・コロンバイン』で。
白髭っち、まだだったら、見て見て?あれでまた、激烈カマシ、したって、したって★
みたよ!
「ボーリング〜」なんかインタビューで述べてた!
ステージでフェラかましてるくせに、まとも風な口きいてた!
なんかねー、今度はちゃんとした役つきで、
だちょうを食って、女をレイプし地下の穴で暮らす400歳の預言者!だってよ!
もーすげぇ観たいよ!意味わかんねぇよ!(大笑)
っつかブライアン、すっげー日本映画(小津はもちろんマニアックまで)
が好きでものすごい数観てるんだって!観てそうだよね!
もしかして、とらねこ3とそこら辺、話あうかもYO☆
白髭さんへ
アハっ、ステージでフェ○、私もあのビデオ持ってるー♪そうそう、マトモな事言ってましたよね。
あの映画の中で、一番マトモだった(笑)
ぎゃはー★400歳の預言者!!
なんだか凄そう♪観よう!絶っっ対、観ようソレっ!
結構、演技入ってたりして^^;
とりあえず、CGは必要ないし、メークもいらない、っていう自前ブリでしょうね★ぎゃっはー
私そんなに日本映画詳しくないですよー。
日本映画は、伊丹十三と、最近三池さんが好きですね・・・白髭さんにも『殺し屋1』とか観て欲しー。漫画は読んだカナ?・・・
破滅の一途
度を超えたマゾヒストの地獄絵師が自らの住む世界と生い立ちを話す。10ページ前後の短編を主人公の語りによって繋ぎ、その短さゆえ凝縮された地獄は終始テンションが高い。狂っていながらも道理が通っているからなお怖い。
常軌を逸した様子を、自らを省みて客観的な視点…
こちらで知って気になったんで読みました。
いやーすごかったわ。
文字通り血は争えないって感じで。
男だったらこんな風に生きてみたい、ですか。
やめときなさいw
作者の人ってもっとヤバいのかと思ってたら、
巻末見るとそうでもないんですね。
かっちょいい爺さんでそれはそれでビックリです。
現象さんへ
こんばんは〜★
ありがとうございます!読まれたのですね、コレ!
>男だったらこんな風に生きてみたい、ですか。
>やめときなさいw
はーい、やめます(笑)
やっぱ賭け事に首が回らなくなるのって、恐ろしい人生ですよね。
でも女泣かせって、現象さんもなってみたく、ないですか?・・
かっちょいい爺さんですよね。風流なおじいさんというか。意外でしたわんww