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※8.『サロメ/ウィンダミア夫人の扇』

本サロメ


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原作/オスカー・ワイルド。


『サロメ』の方は映画と一緒に観賞のため、今回は『ウィンダミア夫人の扇』のみ。
映画『理想の女』に関するネタバレを含みます。


『理想の女』の観賞時に、どうしても気になった事がありまして、確認のために本を読みました。
やはり、ワイルドの機知溢れる素敵な文であっても、戯作を本で読むというのは、本来ならば、きっと、なんとも魅力半減なのでしょうね。・・・
とは思いつつも、さすがはワイルド。皮肉たっぷりではありますが、決して人を突き放すような風刺の仕方ではありません。
どうも、彼の性質として、正論と逆の理論を交互に述べるというか、そんな風なスタンスが彼を、腕を組んでこの世を眺める、気取った紳士に感じさせざるを得ないのですが・・・(笑)


とは言えこの作品『ウィンダミア夫人の扇』、なんとまだ彼が36歳の時の作品。
それでこの成熟ぶりは、やはりすごいものがあります。
当時の舞台の上映でも、大入り満員御礼の大ヒットになったらしいです。
ワイルド自体はアイルランド人なのですが、イギリスとアイルランドで活躍した人です。さすがは演劇の伝統のある国、新しい演劇が出てくる際も古いものを壊すばかりではない、古典と伝統の良さをきちんと踏まえた上での作風になっていると思いますが。

やはりこの構成の見事さは本当に素晴らしいと思う。この点、映画でもそれらを感じたと思います。

で。私が映画で気になった点がいくつかあったので、それを述べてみたいと思う。
まずアーサー(ウィンダミア卿)がアーリン夫人に誘惑されるシーンから映画は始まる。割と長めのシーンで、いかにもアーサーがこの、不倫ばかりする夫人と、関係を持ったかのような誤解を与えるつくりになっていて、その後、社交界のもちきりの噂になってしまう。


その後、いつの間にかアーサーは、アーリン夫人がマーガレット(ウィンダミア夫人)の母親だということを知っている。いつ知ったのか、アーサーが調べて分かったことなのか、それともアーリン夫人が自分から言ったのか、映画では全く説明がなくストーリーはそのまま進む。
そして、アーリン夫人と関係を持っていないのだとすれば、なぜアーサーが度々アーリン夫人にお金をやったのか、それが分からないのであるが、その説明も映画では一切なく、最後まで分からないまま終わる。


ここの部分、なぜ映画ではわざわざ誤解を与えるつくりになっているのに、説明がないのか?それが正直分からなかった。


原作では、アーリン夫人は、自分が以前に捨てた娘が、富豪と結婚したのを、いいチャンスと見て、自分のような、社交界にも悪い評判の立つような、そんな女性が本当の母親と知ったら、娘の評判まで悪くなる。
そんな、ちょっと恐喝まがいとも言える理由で、お金をせびりに来たわけなのである。そこを、戯作では一言あるため、判明するが、映画では一切一言も出てこないんだよね。
ま、しかし、アーリン夫人も、実は、この時代にあって、娘と夫を捨て駆け落ちまでして、その愛人ともうまくいかなかった。そんな過去があり、生きていくために大変苦労をしたのだ。だから、人の道からは反れるかもしれないが、富豪と結婚した娘の夫から、少し位お金をもらおうという目論見も、ある程度気持ちが分かるのである。
映画ではアーリン夫人を、ことさら遊び好きの中年女性(40歳前後)として描いていて、逆に“人生を楽しむ女性”として強調している。
だから、原作における“苦労した過去”や、娘を捨てた時の彼女の気持ちなんかは、すっかりカットしてしまったわけだ。


また、アーリン夫人が母親であるということを、本当は始めからアーサーは知っていたのだが、なぜここを映画では描かなかったんだろう。
戯作でも、最後になってようやく、見ている観客には分かるのだが、映画はそのたった一言がないんだよね。

おそらくではあるが、もともとすごく有名な演劇の作品である、ということによる、演出不足であったと思う。
最後の扇のシークエンスも、ひとひねり加えていて、そこは確かに良くなっているといえるのであるが。
こうして原作と比べてみると、映画はあまりにも稚拙であり、映像の美しさを見せることにばかり気が行ってしまい、セリフで加えるべき適切な説明を、正直手を抜いてしまったといえる、及第点の作品である、ということが分かった。ま、おそらく本国では、有名すぎる作品であるがゆえの甘えだったかもしれない。


それから、この本にはあと一作、『まじめが肝心』も収録されている。この作品はコメディで、本当に笑える。風刺もあるが、ちゃんと普通にブブッ!!と笑える作品で、楽しかった。ワイルドは凄いね。笑いのセンスがない人って私、苦手なんです。なので笑える文の書ける文豪は、ヤラレてしまう。


ところで、ワイルドは、同性愛で投獄され、名誉の全てを晩年には全て失墜している。『獄中記』なんかも書いているので、面白そうだ。
同性愛で牢獄行きになる時代・・・恐ろしいような。

 

2006/07/30 |

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コメント(2件)

  1.  とらねこさん、こんばんは! TBありがとうございました♪ こちらの記事を拝読してやっと、映画を観たときの「???」がすっかり解消できました★ 感謝でございます!
     本当、おっしゃる通り、こうして見ると、映画は説明不足でしたね……。おかげさまですごくすっきりしました! ありがとうございました(*^^*)

  2. 香ん乃さんへ
    こんばんは☆コメントありがとうございました!
    そうなんですよね〜。説明が少々不足気味の映画だったようなんです。
    この当時見た人は、一体その辺りを、どうやって考えたのかなあ、なんて思います。
    私と香ん乃さんが疑問を持ったその点なんですが、私には、それがとても大事なことだったように思うんですけど・・。
    おかげで原作を読みましたが、すっごく面白い作品で、さすがはワイルドだなあ、と感心しました!
    すっかり好きな作家になりましたよ♪




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