65.ローズ・イン・タイドランド
少女の世界そのままのような、美しく彩られた毒々しい幻想ワールド。
エグイのにピュアな、少女でありながら大人の色っぽさを感じさせる、ジョデル・フェルランドの、魅力溢れるこの作品。
おぞましい描写をしているのに、奇妙に鮮やかな美しさ。
相反する言葉で表現されるのがピッタリマッチして感じられる、反転のファンタシー世界。
チョコバーを食べすぎのママ(ジェニファー・ティリー)が死んで、パパ(ジェフ・ブリッギス)とユトランドへの冒険の旅に出る。ユトランドは、トーマス・モアの“ユートピア”ー理想郷、と同義語。ユートピアもラテン語の二つの言葉を掛け合わせた、トーマス・モアの同著作名の彼の造語であるので、このユトランドもどこにもない“理想郷”。
それをパパはずっと信じているが、ママはハナから信じてはいなかった。もちろんジェライザ=ローズ(以降、ローズ。ジョデル・フェルランド)はパパを信じている。
しかし辿り着いた先は草原の中の死んだおばあちゃんの家だ。
パパは結局、家に居た頃と同じ、“小旅行”と称して、ドラッグでトリップしてばかり。どうやらパパの理想郷は、そのことらしいんだけど、いつもローザはその間置いてけぼりだ。
パパのドラッグのお手伝いの、注射器を用意するのも手馴れたもの。
で、その間、大概、友達のいない彼女は、人形の頭を指人形がわりに、話かけたり、幻想の世界で遊ぶ。
トリップしている間に、パパはいつの間にかオーバードーズで死んでしまうが、ローザにとって、別に、いつもこの状態のパパであるし、死の概念がないので、そのまま彼女自身の世界が揺らいだりすることはない。
ギリアムの『フィッシャー・キング』なんかが好きな人には、この映画の毒々しいファンタジー世界に、難なく入っていけるかな?と思う。
少女の世界は、幻想と現実が錯綜していて、“こっちの世界”と“あっちの世界”、それら二つが自由に自然のうちに行ったり来たりする。
も少女は、幻想のうちに現実を生きているとも言え、現実のうちに幻想を見ているとも言え・・・。
この少女の世界そのままを表したミッチ・カリン原作の、このギリアムワールド・・・私は、夢中になった。
きっと、理屈のないヘンテコ妄想世界。
友達がいなかったら人形としゃべるし、「ここが海底で、海の魔物が襲ってくる!」・・・と思えば、すぐにそう思うことができる、子供の頃。・・・
少女だけじゃなくて、男の子もそうだったんじゃないか、と思うけど。
少なくとも私は・・・そうでした。
なので、指人形に話しかけるローザの姿は・・・自分もヌイグルミに喋らせて遊んでいた自分、そのままを見ているかの様だった・・・。と、言われると、これを読んでくださった方は、ドン引きかな?・・・(汗)
でも私、中には、私と同じような人もいると思うんだ。子供の頃、その“王国”に住んでいた人には、うん、分かる、分かる・・・そうなのよねぇ。なんて思ってワクワク見入ってしまうんじゃないかな。
この変な妄想ワールドに、入って行けない人には入っていけないし、入って行ける人にはすんなり入って行ける・・・なんて思うんだけど。
みなさんも、子供の頃はそうだったでしょ?
大人になると忘れちゃう人が多いかもしれないけど・・・
:::::::::この先、ネタバレ:::::::::::
パパの世話やママの世話ばかりしていたローザは、この世界で、他の人間に出会う。魔法使いかと初めは思った、浮浪者のデルと、脳手術をして、知能が小児程度のディケンズと“友達”になる。
始めにしゃべるリスに会って、どっぷり一人だけの幻想世界から、一緒に幻想の世界で遊ぶ仲間が出来ると、・・・自分で話しかけなくても、指人形が喋りだすように感じるあの辺りから、どんどん深くへ移行してゆく・・・。
ローズの世界を美しく描き出す、映像と、音楽の使い方がとても見事だ。死体に加工を施す後始末とは言え、掃除をしただけの廃墟は白亜塗りのお城のようにローズには感じられる。掃除も、おそらくローズには初めての事だったのか、楽しげな音楽で行われ、ディケンズと愛を交わすシーンでは、小鳥の鳴き声がずっと聞き取れたりする。そのシーンは、イケナイことに、なんだかドキドキしてしまう。
どんどん深くなる世界は、曲がった木の根元より、いつのまにか反転する。
“地球のまん中まで行くと、向こう側に出る”。
列車の脱線事故が“世界の終わり”なら、少女の幻想が終わる時がこの世界の終わるときでもある。
なんだかよく分からない少女の幻想世界を、現実と幻想の境界線ナシに描いた、素敵に奇妙な世界。
よく分からなくても・・・それが少女の世界だ
美しいだけじゃない、醜いものも同時に、普通に存在する。
ローズのように感じたら本当に楽しそうで、ジョデル・フェルランドの演技が見事でキュートであるから、余計・・・。この子の世界に埋没してしまいたくなった。
2006/07/28 | 映画, :とらねこ’s favorite, :SF・ファンタジー
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コメント(86件)
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>美しいだけじゃない、醜いものも同時に、普通に存在する。
それが分かっていて見ているので、“で、それで?”と思ってしまったんではないかと。
テリー・ギリアムなら、もっと凄い世界が・・・と期待し過ぎちゃったようです(^^ゞ
>子供の頃、その“王国”に住んでいた人
今哀生龍は、映画の世界に入り込んで登場人物と一体化してしまう傾向にあるのですが、昔は本の世界に入り込んでその登場人物になっていました。
なので、“自分の王国”を作ることがなかったような気が・・・
そんな経験の違いも、少女の行動を冷めた目で見てしまった要因だと思ってます。
哀生龍の好みには合わなかったけど、映像的にはとても素敵な作品でした!
哀生龍さんへ
こんばんは!コメントありがとうございます。
経験の違いで、冷めた目で見てしまう・・・なるほど、そうだったのですか。
私も今、映像の世界で自分と一体化してしまっているようです。
好みに合わないとなかなかどうしても・・・辛いものがありますね(苦)
でも哀生龍さんは素直にそう話してくださり好感が持てます!
私はそう言うとき、どう言っていおうか言葉が見つからない時がありますもの。
TIDELAND
ローズ・イン・タイドランド
監督:テリー・ギリアム
出演:ジョデル・フェルランド、ジェフ・ブリッジス、ジェニファー・ティリー、ジャネット・マクティア、ブレンダン・フレッチャー
2005年 イギリス・カナダ
ウサギの穴に落ちて行く、
頭だけのバービーと、
ジ…
この手の雰囲気はやり過ぎるともう訳が分からなくなって小生はついて行けなく成るのですが、そのラインの手前を走ってくれたので、楽しんで観る事が出来ました。
ジョデル・フェルランドは強烈でしたね〜。
sheknowsさんへ
TB&コメント、ありがとうございます!
そうですね、私も、やりすぎる手前でとっても楽しく見てしまいました!
ジョデルちゃんすごくかわいかったですよね!
彼女がいなかったら、成立しない映画でしたね!
sheknowsさん、今後もよろしくお願いしますね。
ローズ・イン・タイドランド
子供の頃は夜が怖くて、障子に揺れる読書灯の影が、奇妙に蠢いて見え、そこにお化けか何かがいるんじゃないか?と感じていた。夜の裏側にはあきらかに僕の知らない何者かがいた。そんな不気味な何かと戦うために、小さな兵隊の人形や、プラモデルの戦車を仲間に引き連れ…
ローズ・イン・タイドランド
「不思議の国のアリス」を底本としているのはわかりますが、ギリアムってここまで悪趣味だったの? といわしめてくれる作品でした。 たしかに序
ローズ・イン・タイドランド
自分勝手なママがいきなり死んで、元ロックスターのパパ(ジェフ・ブリッジス)を街を出て、おばあちゃんの家にやってきたジェライザ=ローズ(ジョデル・フェルランド)。
おばあちゃんの死後、そのままのボロ家に着いてすぐ・・・パパはクスリでバケ….
ウサギの穴に落ちてから見た物語
168「ローズ・イン・タイドランド」(イギリス・カナダ)
ジェライザ=ローズという女の子。学校にも行かず、パパとママの世話に追われた生活を送っている。ある日ママが急死。パパと一緒にテキサスのおばあちゃんの家へ行く。そこへ住むことになったのだが、パパもま…
ローズ・イン・タイドランド
Tideland
金色の草原に広がる、グロテスクなブラック・アリスワールド。
贋作な妄想職人、テリー・ギリアムの新作が早くも届きました。絵になる映像の連続なのに・・・う??ん、イマイチついていけなかったのはナゼ?
『ローズ・イン・タイドランド』
7年ぶりの新作『ブラザーズ・グリム』が公開されたばかりのテリー・ギリアム。早くも次の作品が待機中。原作はアメリカの人気作家ミッチ・カリン著『タイドランド』で、ギリアム版”不思議の国のアリス”とも呼べる、少女の幻想世界を映像化したファンタジーだ。
ママ…
ローズ・イン・タイドランド
お腹を押せばオナラが出るんです。しかし、ミは出なかったんでしょうか?名前がジェフ・ブジッジスというくらいですから・・・
ローズ・イン・タイドランド/ジョデル・フェルランド、ジェフ・ブリッジス
テリー・ギリアム監督の名誉挽回作。そもそもこの人の映画は一般ウケしなくていいんですッ(笑)「不思議な国のアリス」を下敷きにしたようなブラックファンタジー。またしてもお伽噺?って思ったりもしましたけど、別にアリスの実写版とか現代版ってわけじゃないんですよね。….
ローズ・イン・タイドランド
『サイレントヒル』で確かな存在感を見せた期待の天才子役ジョデル・フェルランドちゃん。
彼女の初主演作がこの『ローズ・イン・タイドランド』です。監督が鬼才テリー・ギリアムということもあり、かなり期待して観に行きました。
両親に先立たれ、一人ぼっちになって…
こんにちは。TB&コメントありがとうございました。
この映画、前半はいいんですが、後半から監督の趣味と妄想の世界に没頭しちゃうからキツイですね。その妄想に共感できればいいんですが、これはさすがに・・・。
ローズ・イン・タイドランド☆独り言
もう、言い切ってしまおう!絶対これ 浜松での通常公開はないでしょう(爆)何がって・・・シネコンの思惑と合わない!と思うから(ぼそっ)名古屋まで『ローズ・イン・タイドランド』観に出かけました。(笑)この後で観た『ゆれる』に比べても・・・集客率こんなものかな…
おはよーございます^o^
TB&コメントありがとうございました。
この映画ってやっぱり観客によって好みが分かれちゃうんでしょうね
誰もが・・・って感じの内容でもなかったし(笑)
猫は、どちらかといえば、はまり!な感覚だったので
名古屋まで行った甲斐はありましたよ。
やっぱりジョデルちゃんのオーラにやられちゃったかな〜^o^
またよろしくお願いします!
映画「ローズ・イン・タイドランド」
映画館にて「ローズ・イン・タイドランド」
悲惨な現実を生きる少女ジェライザ=ローズが、少女ならではのイマジネーションで不可思議な冒険を繰り広げるファンタジー。
鬼才テリー・ギリアムがギリアム版「不思議の国のアリス」に仕上げた。テリーギリアムといえば「未来世…
こんにちは♪
TB&コメントありがとうございました。
子供の頃はお人形相手にいろんな空想妄想を繰り広げたものですが、いまではそんなことすっかり忘却のかなたです(汗)
現実と妄想の境界線があやふやで、しかもローズにとっては現実世界のほうがなんだか危なっかしくって、とても居心地の悪い思いをしました。
嫌いな世界ではありませんが、どっぷり浸るというよりは覗き見したい世界という感じです。
えめきんさんへ
こんばんは!
そうですね、後半少し分かりずらさの残る感じのお話で、好き嫌いが分かれちゃうのかもしれませんね。
ローズがめちゃかわいくって・・・目が離せませんでした♪
にゃんこさんへ
こんばんは!こちらでは初めまして。
猫仲間ですね♪どちらかで、お見かけしたことがあったかと思います。
わざわざ浜松から・・一体、どのくらいかかったのでしょう!
でも、満足できたみたいで良かったですね★
自分もこの作品はめちゃくちゃ好きな作品でした。
親父がヒッピーでも、この子らしく素直に生きてると思いましたよね
ミチさんへ
こんばんは!
そうですね、確かにちょっとアブナイ世界でした。
なんだか毒々しさのあるキュートな感じで。
自分は好きなのですが・・・やっぱりちょっとアブナイ系の人の方がこの作品は好きなのかもです
ローズ・イン・タイドランド
ミスティークを落っことしたのがミステイクw
ギリアムのファンタスティックでかわいい感じのサイコなファンタジー。
ローズ・イン・タイドランドposted with amazlet on 07.02.10東北新社 (2007/01/26)売り上げランむ
「ローズ・イン・タイドランド」
ひらりん的にどうも、相性の悪い系監督のテリー・ギリアム監督。
ちょっと、凝り過ぎちゃってて、イマイチつぼにはまらない作品が多いねっ。
やっとこさ、「ローズ〜」にたどり着きました。
だいぶ記事溜めちゃって・・・ヘロヘロ状態。
ところで、ひらりん・・・一年365日・・・
冷蔵庫にチョコが入ってる環境で生きてるので、
あんまり、バレンタインデーには興味ありませんっ・・。
ちょっと強がってみました。
よーーーし、
3/14は反撃のコメント・・・
とらねこちゃんに入れてやるぅぅぅぅ。
忘れたらゴメン・・・という事で。
ギリアム流クレイジー童話「ローズ・イン・タイドランド」
テリー・ギリアム監督「ローズ・イン・タイドランド」をレンタル。
ギリアム監督らしい映像。綺麗でした。主人公の女の子も可愛かったです。
but!お話、よーわからんかったですー。(ミイラとの共同生活のあたりはシュールでおもろかったすけど。)何度か早送りボタンを…
ひらりんさんへそこはツッコまないでおこう・・・
おはようございます^^コメントありがとうございました!
ひらりんさん、バレンタインデーには興味ありませんか(笑)
アレレ、強がりだったのですか
ひらりんさん、3月14日、お返しのコメント(エ?反撃?)、お待ちしてますよぅ。
忘れたら自分から行ってやるぅぅぅぅ(笑)
ローズ・イン・タイドランド
「ローズ・イン・タイドランド」 2006年 英/加
★★★
予告で家が沈んでいくシーンを観て、期待していたのですが今頃になって
DVDでの観賞。
メルヘンの要素を期待するとがっかりします。
10歳のジェライザ・ローズ(フェルランド)は、ジャンキーの…
映画「ローズ・イン・タイドランド」
「ブラザーズ・グリム」のテリー・ギリアム監督作品。『不思議の国のアリス』を下敷きに、一人の少女のグロテスクな空想世界を独特の乾いたタッチで綴ったミッチ・カリンの異色ファンタジー。てっきりローズが不思議な国で体験する不思議なお話だと思っていましたが違って…
『ローズ・イン・タイドランド』’05・英・加
あらすじ10歳の少女ジェライザ=ローズ(ジョデル・フェルランド)は元ロックスターでジャンキーのパパ(ジェフ・ブリッジス)と同じくジャンキーのママ(ジェニファー・ティリー)と共に暮らしいていた。ある日、オーバードーズでママを亡くしたパパとジェライザ=ロー…
映画『ローズ・イン・タイドランド』
原題:Tideland
オーバードーズ(薬物の過剰摂取)に死体遺棄にミイラに列車爆破と、よろしくない題材を、これでもかとばかりに並べている・・それでも可愛いファンタジー・・・
10歳少女のジェライザ=ローズ(ジョデル・フェルランド)は、バービー人形の胴体は…
ローズ・イン・タイドランド:映画
今回紹介する映画は、好きな監督の一人テリー・ギリアム監督の作品で、サン・セバスティアン国際映画祭でFipresci Prizeを受賞した作品の『ローズ・イン・タイドランド』です。
まずは映画のストーリーから・・
10歳の少女ジェライザ・ローズ(ジョデル・フェルランド…
とらねこさん、わたし全然解らなかったの。 でも私にとってはとても変な映画だったので忘れられなくなりそうです。
<ローズ・イン・タイドランド>
2005年 イギリス・カナダ 120分
原題 Tideland
監督 テリー・ギリアム
原作 ミッチ・カリン「タイドランド」
脚本 テリー・ギリアム トニー・グリゾーニ
撮影 ニコラ・ペコリーニ
音楽 マイケル・ダナ ジェフ・ダナ
出演 ジョデル・フェルランド …
みのりさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます。
アハハ、確かに、置いてけぼりをくらってしまいそうな変テコ全開な作品でしたよね。
ギリアムファンは喜びそうかな?と思いますが、それ以外の人はダメかもしれませんね。
ローズ・イン・タイドランド
『ギリアムの“アリス”は、孤独の迷宮をさまよう』
コチラの「ローズ・イン・タイドランド」は、昨日7/8公開になったR-15指定の映画なんですが、公開2日目というのもあってかなりの混雑ぶりでした。
「未来世紀ブラジル」、「ブラザーズ・グリム」のテリー・ギリ….