30.RENT
「ビバ、ラ・ヴィ、ボエム!!」
魂の叫び!!だった。
全編、“あるムード”がこの映画を包んでいる。
ミュージカル特有の熱気と熱狂・・・それは、もちろんある。
全体を通して、歌が満載で、覚えやすく、人の心になじみやすい、フレーズの数々。
ポップス・ロック・タンゴ・バラード・エレクトリカル、豊富な種類の楽曲で、好みが片寄る事なく、全ての人を楽しませよう!という、意気込みが感じられる。
だけど、それだけじゃない。払拭しようとしても、どうにも拭いされない、・・・これは、90年代特有の、重苦しい空気感・・・。これは、おそらく、90年代その時に見ていたら、おそらく真摯なメッセージとして、響いたであろう。
そうでないと、ただの青春映画に感じてしまうのかな・・・。
そうだ、これは紛れもなく、90年代の虚無感、絶望感。
エイズへの、死への恐怖・・・。 この時代のアメリカ(都市部)の、この空気圧。
ドラッグ、エイズ、同性愛・・・。
この映画で描かれているのは、底辺の貧乏の中、自分の友にまで手を伸ばしてきたエイズ・・・エイズに関連して、同性愛に対する偏見(この時代には、まごうかたなく、それらがあった)、それからもちろん、いつ訪れるか分からない死の恐怖・・・。
映画ではこれらが主に表されている。
だけど、もっと言うと、90年代のあの空気は、もっともっといろんなモノを内包していたハズだ。
この、オフ・ブロードウェイ・ミュージカルが最初に上演された’96年は、まさに世紀末へと進んでいくその時であり、この時代性を捉えないことには、この表現力の圧倒性を感じきれないだろう・・・。
ジェネレーション・Xと呼ばれ、明日への希望を見出だせず、空虚で冷めた、虚無感を抱く若者達・・・。
ラブ&ピースを掲げたロックの理想が、90年代MTVの台頭で音楽が商業主義に押しやられ、ベトナムの悲劇はアメリカの自由主義の理念を打ち砕いてしまっていた。
そして横行するドラッグ、どんどん過激で陰鬱な内容になるTVのニュース・・、HIV陽性患者ばかりでなく、ドラッグ中毒による死者の数も増え続ける一方の毎日。
フリーセックスが痛々しい代償を払って、いつ訪れるか分からない死の蔓延にとって変わったのだ・・・あの頃のアメリカの若者は、何に希望を見出だせただろうか?
・・・90年代のアメリカはまるで、パンドラの箱のようじゃないか? そんな濃厚な虚無感と、死と恐怖が隣り合わせのこのギリギリ感。
その上でのメッセージ「何をもって一年を測るか?」なのである。
この最初のテーマ設定と言うか、問い掛けというべきか‥が、ずっと映画の間中、私達の中で駆けめぐる、この感じが良かった。
恐らくブロードウェイ・ミュージカルまんま、と思われる、最初の1シーン、登場人物一人一人に当たる、上からのスポット。
これにはヤられてしまったね。
ありとあらゆる全ての絶望、病や死への恐怖を通してもなお、・・・パンドラの箱を開けて、最後に見出だしたいのは、・・・希望だ。
これら全てが、歌とダンスで力強く表現されているのだから、ミュージカルに与えられるトニー賞ばかりでなく、“ピューリッツァー賞”が与えられることになったんだと思う。
ちなみに、私がハマったのは、ドラッグクイーンのエンジェル(ウィルソン・ジェレマイン・ヘレディア)でした♪
彼女のダンスは、超かっわいかったなあ〜。
彼女は・・・じゃなくて、彼は、このミュージカルの初期メンバーでもある。
ウィルソン・ジェレマイン・ヘレディアばかりでなく、ロジャー役のアダム・パスカル、マーク役のアンソニー・ラップ、モーリーン役のイディナ・メンゼルが、オリジナルキャスト、ってのがうれしい。
ベニー役ティ・ディグスと、トム役ジェシー・L・マーティンは二人ともアリーマイラブに出てたよね。
ロザリオ・ドーソンは、次のハルベリかっちゅ〜感じで輝きまくってる。
キャット・ウーマンぽい動きのセクシー・ダンス、本当素敵だった!
イディナ・メンゼルの、ストリート・パフォーマンスも、妙な熱気があって、ヤバイ雰囲気醸し出してて良かった。
今までずっとやってきた、っていう叩き上げ感があった。
別の役者さん使ってたら、この空間は出せなかったよね。
2006/05/29 | 映画, :音楽・ミュージカル・ダンス
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
コメント(31件)
前の記事: 29.マーサ・ミーツ・ボーイズ
次の記事: 31.隣人13号
RENT/レント
RENT 公開中なので控えめに 1989年のクリスマス・イヴ。 NYの古いロフトで一緒に暮らしている元ロックバンドのミュージシャンのロジャー(アダム・パスカル)とドキュメンタリー映像作家を目指しているマーク(アンソニー・ラップ)はろくに収入もなく、家賃を長い事…
>メッセージ「何をもって一年を測るか?」
まずは単純に、“好き”と思える作品でした。
そして、後で色々考えたり・共感したり、余韻に浸りながら自分の生き方を振り返ってみたり…
「No day but today」が哀生龍の座右の銘に通じるものがあって、実は、見る前から好きになっていました♪
哀生龍さんへ☆
>No day but today
‥底辺からの叫びだったので、余計このメッセージが心に響きました。
>見る前から好き
(笑)私は『ヘドウィグ‥』でエピソードが出て来ていたのを観て、絶対観なきゃ、と思ってました。
その頃は映画にまだなっていなかったので、萌えましたよ〜。
歌がすごく良くて、座って観てるのが惜しい位でしたね。
私もモーリーンのキャラがいまいちでした。
ミュージカルいいですね。オイラも1年に何回か見に行ってます。といっても日本の少人数でやる舞台とかが中心ですが、だからどちらかというと映画よりも舞台の方に行く回数が多いです。
ジュンさんへ☆
コメントありがとうございます。
お〜!
ジュンさん、舞台でミュージカルを観に行かれるのですね。
俳優さん一人一人の熱気が伝わって、すごく感動しそうですね!
でも、小さいところでやるのってあるんですね。
この映画も、11月にミュージカルが来るんですよ。
ミュージカル映画の良さは、安く、いい舞台を見た気になれるとこです☆
音響も、映画館はいいですしね♪
ミュージカルといえば、ここ最近
みてないなぁ〜最後がたしか、
美女と野獣。今見たいのは、ライオンキングです。
ケーコさんへ☆
再度ご訪問ありがとうございます!!
ケーコさん、私ね、実は全然ミュージカル詳しくないのです‥(汗)
劇団四季も見た事ないんですよ(恥)
ミュージカルは今まで一度しか見た事ないんです‥。
この映画はわりとあっさりした感想の人が多かったので、私は文化論を述べてみたのですが、
この映画の音楽はすごく良くて、歌のうまさも感激モノでしたよ!
良かったら見て下さいね〜☆
こんばんわああ!!
おお!とらねこさんとこ、
盛り上がってるねえ!!
RENTの舞台、来日するのよね。
睦月ね、ちょっと見てみたいと
思っているの。
でもミュージカルって一度も見たこと
ないし、もともとミュージカルは
苦手。でもこの作品については
ホントに素晴らしくて体に染みた。
とらねこさんとの初交流は、ヘドウィックのRENTがらみだったでしょ。
だから余計にこの映画は
とっても印象深いのよ。
RENT レント
【映画的カリスマ指数】★★★★☆
心揺さぶる、歌と人生のハーモニー
睦月さんへ☆
そうですよね〜!
睦月さんに米参りしたのが、HEDWIG&RENT絡みでした。
睦月さんはすごく忙しいのに、一人一人の事を、きちんと覚えてて下さるんですね!
偉いなあ睦月さんは。
私はこの映画、ル・シネマで見たんですが、相変わらず混んでましたよ。上映1時間前で、整理券が、後ろから10番以内でした。
すごい人気ですよね。
二度、満席で、ようやく三度目の正直で見れたの。
おぉ、睦月さんは舞台行こうかと考えてるんですね♪
日本に来るキャストは、どこまでオリジナルと一緒なんでしょうね?
気になりますよね。
『RENT レント』・試写会
今日は某映画関連サイトで当選した 『RENT レント』の試写会に行ってきた。 《私のお気に入り度:
RENT/レント
1996年、ニューヨークの小劇場で上演され、3ヶ月後にブロードウェイへ進出し、ト
RENT/レント
歌うように、愛したかった。
踊るように、生きたかった。
― 燃え尽きる、その瞬間まで。
ブロードウェイの大ヒットミュージカルを映画化!
80年代末のニューヨークを舞台に、
家賃(RENT)さえも払えない貧しい生活の中、
ドラッグやHIVといった様々な問題に直面し….
レント(RENT)見てきました
映画の予告を見て「すてきな曲だ。絶対見るぞ」と思っていたレントを見てきました。
初めまして!
ご親切にTB返し&コメント、ありがとうございました!
冒頭シーンから、グイグイ惹き込まれてしまいましたね。
音楽の持つパワーって、ホント素晴らしい!!
舞台のオリジナルキャストが出ているという点も、良かったと思います。
実際の舞台もぜひ観てみたいな〜♪
映画「RENT/レント」
■感想:
2006年24本目の劇場鑑賞です。劇場で観ました。「ハリー・ポッターと秘密の部屋」のクリス・コロンバス監督作品。ピュリッツァー賞も獲得したブロードウェイの大ヒットミュージカルを映画化。80年代末のニューヨークを舞台に、家賃(RENT)さえも払えない貧しい…
伽羅さんへ
こちらでは初めまして。
こちらこそご丁寧に、コメントありがとうございます!
この映画って、ベタな青春物ではありますが、その中に言いたいことや重み、というものあって、私も大好きな映画なんです!
歌が何より素晴らしい、というのもありますしね!
実際の舞台は伽羅さまは観に行かれるんでしょうか?11月だから、もうあと少しになりましたね!
『レント RENT』
レント デラックス・コレクターズ・エディション
CAST:ロサリオ・ドーソン 他
ブロードウェイで大ヒットした伝説的な同名ミュージカルの映画化。
ニューヨーク、イーストヴィレッジ。家賃(レント)も払えないほど貧しい若者達。芸術家や同性愛者、HIV感染者な…
RENT/レント
この作品、元々は舞台ミュージカルなんですよね。
舞台はかなり評判がいい。
オリジナル・キャストを迎えての映画化だそうで
ミュージカル好きの私としては期待が高まる。
DVDで鑑賞。
1989年12月24日、ニューヨークのイーストヴィレッジ。
元ロックミュージシャンの…
RENT レント
■ 東劇にて鑑賞
RENT レント/RENT
2005年/アメリカ/135分
監督: クリス・コロンバス
出演: ロザリオ・ドーソン/テイ・ディグス/ジェシー・L・マーティン/ウィルソン・ジェレマイン・ヘレディア/イディナ・メンゼル
公式サイト
1989年12月24日。ニューヨ…
映画『RENT/レント』
原題:Rent
題材はゲイにエイズにドラッグ、部屋代は滞納、電気は止められ、嫉妬に失恋に死、明るい話題は極めて少ない、それでも乗れる、ミュージカルだから・・・
エイズを苦に自殺した恋人、その痛手から立ち直れずふさぎ込むロジャー(アダム・パスカル)と快…
こんにちは! お久しぶりです。
>90年代その時に見ていたら、おそらく真摯なメッセージとして、響いたであろう。
ホントにそんな感じがしましたね。 でも、オープニング、ステキでしたね。
<RENT/レント>
2005年 アメリカ 135分
原題 Rent
監督 クリス・コロンバス
原作 ジョナサン・ラーソン
脚本 スティーヴン・チョボスキー
撮影 スティーヴン・ゴールドブラット
音楽 ジョナサン・ラーソン
振付 キース・ヤング
出演 ミミ:ロザリオ・ドーソン
ロ…
みのりさんへ
こんばんは!TBコメントありがとうございます。
そうですね!オープニング。
ステキでしたね〜
この作品は結構好きなものでした。
完成度はともかく・・・
RENT/レント
WOWOWで鑑賞―【story】ミュージシャンのロジャー(アダム・パスカル)は、恋人の死によって打ちひしがれていた。そんな中、階下住むに住むダンサーのミミ(ロザリオ・ドーソン)に心惹かれた彼は、ミミとの新しい恋に踏み出せずにいた― 監督 : クリス・コロンバ…
こんにちは!
『これは紛れもなく、90年代の虚無感、絶望感』―仰る通りですね〜
なかなか訴えるものがある映画でした^^・
私もエンジェルちゃんがお気に入りです。
歌もダンスも素晴らしかったですよね〜
ミュージカル慣れしていなくて、途中で少々飽きましたが(汗)、最後まで観て良かったです♪感動しました〜
由香さんへ
こんばんは☆コメントありがとうございました。
エンジェルの役の俳優さん、かわいかったですね!
キュートでした〜!
>ミュージカル慣れしていなくて、途中で少々飽きましたが(汗)
確かに結構、歌いっぱなしだった印象がありますよね。
でも、なかなかにいい作品だったような気がします。歌が良かったですよね。
これ結構、去年、ベストに入れている人も見かけましたよ。
RENT レント
『歌うように、愛したかった。 踊るように、生きたかった。 ――燃える尽きる、その瞬間まで。』
コチラの「RENT レント」は、ピュリッツァー賞やトニー賞を受賞した伝説のブロードウェイ・ミュージカルを映画化したミュージカル映画です。
監督は、「ハリー・ポ…
こんにちは!
エンジェルは人気キャラですね!
お気に入りだと言う人が何人もいました。
舞台はご覧になられましたか?
私は来日公演を観たのですが、
映画の方が役者の表情が細部まで分かり、好みでした。
SEASONS OF LOVE、本来なら二幕頭で歌われるこの曲をオープニングに持ってきた構成は上手いと思いました。
この曲が取っても耳に馴染みが良いので、取っ付きにくい人が入りやすくなっていると思います。
歌キチLIVE 其の拾四 SEASONS OF LOVE from RENT
RENT この作品の音楽は最高だ!
「RENT」「ANOTHER DAY」「I’LL COVER YOU」「I SHOULD TELL YOU」
好きな曲を挙げれば、きりがない。
その中でも特筆すべきは、やはり二幕冒頭で歌われるこのナンバー、
SEASONS OF LOVE
映画版ではオープニングに変更されてい…
咲太郎さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
そうですね、弊ブログでは何故か、エンジェルが人気なんですよ(笑)
来日公演見たのですね!
この映画の公開終わり頃になって、ミュージカルが来ると知ったんですよ。
オフ・ブロードウェイでずっと人気の作品だったというのも、頷ける内容になっていたのでしょうか?^^
おっしゃる通り、映画ではあの歌がオープニングでかかって、一気に心をこの世界へ持って行かれましたよ。