2008年01月26日
10●ヒトラーの贋札
ストーリー・・・
第二次世界大戦中のドイツ。ユダヤ人強制収容所の一画に、各地から集められた職人たちが働く秘密工場があった。パスポートや紙幣の偽造で逮捕されたサリー(カール・マルコヴィクス)は、そこでかつて自分を逮捕したヘルツォーク(デーヴィト・シュトリーゾフ)が、大量の贋ポンド紙幣をばら撒き、イギリス経済を混乱させる目的の「ベルンハイト作戦」の指揮を執っていることを知る。作戦が成功すれば家族や同胞への裏切りになる。しかし完成できなければ、死が彼らを待っているのだった。・・・
'07年、ドイツ、オーストリア。
監督:脚本、ステファン・ルツォヴィッキー
原作:アドルフ・ブルガー 『ヒトラーの贋札 悪魔の仕事場(仮題)』
(↑印刷技師のブルガー、ここではアウグスト・ディールが役を演じている)
ベルンハルト作戦。贋札でもって、世界の各国の経済を脅かそうという、経済テロをナチスは計画していたのだ。
もともと贋札造りのプロだった、サリーこと、サロモン・ソロヴィッテ、この主人公がこの計画に入れられるところから始まる。
手始めにポンド紙幣、そしてそれが成功すれば、ドル。ザクセンハウゼン強制収容所の一画にこの贋札製造工場があった。つまり、隣では、ユダヤ人が、日々収容され、殺されている、その隣で。
’44年から始まったこのベルンハルト作戦、その144人のうちほとんどがユダヤ人だったという。同胞が隣で人間性を剥奪され、生命さえ奪われている最中に、自分たちだけがシーツを敷いたベッドで眠ることが出来る・・・そんなの、喜べるはずがなかっただろう。
だが、主人公サリーは、もともとコワモテの贋札造りのプロ。アウシュヴィッツに収容された経歴もあるが、SSの似顔絵を描き、その腕で生きながらえている。
どこか人間離れしたほどに冷たい、生命力のあるユダヤ人。
世事に長け、絵の才能も秀でている。だが、その才能を使うのはもっぱら、自分一人が生きるためだ。
この冷徹なサリーが、感情を押し殺し、賢く生きようとする中で、次第に責任感が芽生えてくる。
その一本芯の通った考え方は、人の上に立つに相応しい人物に自らなってゆく有り様が描かれる。
サリーが、感情を押し殺す中、その表情の裏で、無言で語る。押し黙ったその表情で訴えかけてくる、ここが素晴らしかった。
本来は、主役、というような顔つきの人でないのかもしれない?
だがここでは、カール・マルコヴィクスの無骨な表情、これがたまらなくイイ。
これだけのヘヴィーなドラマでありながら、少しも観客の気持ちを逸らすことなく描ききって、全く退屈しないドラマだった。
96分という短い尺の中、凝縮されていて無駄がない。
そして、これだけの物語なのに、けして重苦しいばかりでない、見所十分な見事な出来だった。面白かった。
ちなみに、ナチスSSのヘルツォークを演じたのは、『厨房で逢いましょう』で憎々しげなエデンのダンナを演じた、デーヴィト・シュトリーゾフ。この人のこの存在感、凄いものがあるなあと思ったら、'07年の、ドイツ・アカデミー助演男優賞を取った人だそうだ。ふむふむ。
クライマックス、強制収容所が爆破され、ユダヤ人による襲撃がなされると、
この作戦に参加していたユダヤ人たちの存在は、まるで敵としか同胞には思われない。
だが、それを証明する、あのおぞましい番号。アウシュヴィッツのあの忌まわしき過去が、同胞であることを証明する。悲しい皮肉なのだ。
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この記事へのコメント
訪問ありがとうございました。
>96分という短い尺の中、凝縮されていて無駄がない。
本当に完璧でしたね。
私は、1度の鑑賞よりも、2〜3度見ると更に深く入り込みそうな印象でした。まだまだ拾えていない描写がありそうで・・・
ところで、思ったんだけど。
カール・マルコヴィクスの髭の濃いぃぃ顎のラインと渋い声、ジェイソン・ステイサムを思い出しませんか?私だけかなぁ・・・、ジェイソンより細身ではあるけれど、私的には似たようなフェロモンをキャッチして見ておりました。
サリーを演じたカール・マルコヴィクスはオーストリアでは有名な俳優のようで、「厨房〜」の彼はドイツでは有名な俳優さんだそうです。
二人とも適役でしたね。
そう、短い上映時間ながら物語は深く描かれていたと思います。
素晴らしい作品でしたね。
先程この映画観て来ましたよ〜。
地味ながら見応えのある作品でしたね。
何気に面倒見のいいサリーが素敵でした☆
彼らにとっては本当酷い時代でした…。ラスト前では思わず泣いてしまいました。
なんとなく『善人のためのソナタ』の主人公とサリーがかぶりました。


こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
となひょうさんとしてはこの作品、何度か見たい感じでしたのね。うん、それはきっと気に入られたこと・・・ということで良かったでしょうか♪
私も、気に入りました!サリーはかわいいオジサンに入れてくれませんか?w
かわいくないか・・・
ジェイソン・ステイサムはちょっと良いものに喩えすぎかなーと思うんですが

ハゲっぷり(失礼)かな・・・?
確かにアゴヒゲ辺りは似ているかもしれませんが♪
こんばんは☆コメントありがとうございました。
>サリーを演じたカール・マルコヴィクスはオーストリアでは有名な俳優のようで、「厨房〜」の彼はドイツでは有名な俳優さんだそうです
そうなんですよね、私も後から調べて知りました。
見所のたくさんあるなかなか面白いドイツ映画でしたね!

こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ヨゥ。さんもこれ、ご覧になったのですね!
私もこれ、すごく好きでした。なかなかにズシっと来る割に、まとまってて好印象ですよね!
>なんとなく『善人のためのソナタ』の主人公とサリーがかぶりました
うん、なるほど!同じドイツ映画ですしね。
主人公の下した選択が、流れ行く運命と共に、正しさ・間違いの基準が変遷してゆく、という意味でもカブるものがありますね。
この映画は興味深く見ましたが、ラストの美談仕立てのまとめ方にやや違和感を感じ、???が脳をかけめぐった状態で劇場をあとにしました。
ただ、この手の作品にしては見易くて、すんあり作品の世界に入っていけるつくりでしたね。

こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
おっしゃる通り、最後はうまくまとまりすぎていたかもしれませんね。
収容所の襲撃もちょうど起きますし・・。
この映画はおっしゃる通り見やすいですし、上手に展開していったと思います。
変な趣味の持ち主ならば喜んでしまいそうな・・・
それよりもカードが馬鹿ツキだったようですが、配られた瞬間にカードを贋作したのかと思ったよ。
そんなことができるなら俺も知りたい!
デーヴィト・シュトリーゾフって'07年の、ドイツ・アカデミー助演男優賞を取っていたのですか・・・本作で、でしょうか。
結構私の見るドイツ映画でお見かけする俳優さんです。売れっ子なんですかね〜。
私はタンゴシーンが印象的でした。
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ハハハ!カードの馬鹿ヅキぶりは、確かに贋作だったりして^^
さすが人の言わない辺りにいつも気づくkossyさん!ですね♪
小便は、ウッ・・
おはようございます!コメントありがとうございました♪
これ、取りましたね〜、アカデミー外国語映画賞。日本ではそんなに人気ないような気がするんですが^々^
でもって、そうです、デーウ゛ィト・シュトリーゾフ。本作でドイツ・アカデミー助演男優取っていたんですね♪
一度見ると忘れられない顔ですよね。よく見ますか!
タンゴのシーン、そういう箇所に目が行くのが、シャーロットさんらしくて素敵です。
私もサリーの男前っぷりに釘付けでした。ええ男や・・・(顔じゃなくて)。
ベルンハルト作戦っていう贋札偽造事件があったなんて全く知らなかったです。
だから、何度も作られている強制収容所が舞台の映画であっても、新鮮に観られましたね。
オスカー受賞も納得の秀作だったと思います!
ではでは、また来ますね〜。
取りましたねえ!これ、外国語映画賞。
本当、サリーには惚れますよね!武骨で寡黙だけど、イイ男だと思います♪
ベルンハルト作戦て、ヒトラーについて書かれた本には、よく出てくる単語ですが、私もよく分かってなかったです。
おっしゃる通り、この事件を中心にしたために新鮮に感じましたよね。
アカデミー賞外国映画賞受賞ということで
鑑賞しましたが、作品賞をとった
「ノーカントリー」は理解できず苦しんだのですが、
こちらは、極限状態の生きる人間の苦しみを
感じました。実話を基にしていますが、もし、
彼らがドル紙幣を完成させていたら戦局は
どうなったのでしょうか?ぞっとしますね。
こんにちは〜♪こちらこそ、コメントありがとうございました。
そうですね、『ノーカントリー』は、なかなか理解できない、という人がいても仕方のない作品でしたが、こちらは分かりやすい作品ですもんね。
ドル紙幣を完成していたら、と考えると、確かに怖ろしいもんがありますね。
完全に経済はパニックに陥ってただろうなんて・・。おそろしい。

いやぁ、重いっすね。
直接、セリフや映像でこれでもかって見せられている分けじゃないけど
「憎いナチの為に世界を混乱させる作戦に加担され生かされている」という思いが
ズンズン伝わります
サリーも時には感情の暴発が抑えきれなかったけど
だからこそ「仲間を裏切るなよ。裏切れば殺す」というセリフに集約されているような気がします
このような映画を見て必ず思います
なぜ、日本人による日本の恥部(戦争で隣国にしてきた酷い行為)を
描いた映画ができないのかと
国の為に散っていた尊い命の物語はたくさんあれども
自責と反省の念をこめて作られた日本の暗部を描く映画って無いっすよね
(あったらゴメンナサイ。認識不足ということで)



さんへこちらにもコメントありがとうございます〜♪
そうですね、これ、なかなかに重くて良かったですね。
何よりあの収容所で、彼らの仲間が隣で殺されている時に、
自分たちが生かされている、さらには憎いナチのために働いているということも、考えれば考えるほど、辛かったでしょうね。
サリーも、きっと本当は元々、自分が良ければ他のことはどうでもいい、というタイプだったと思うんですよ、でも
合理的な考えから動くことができ、だからこそあの状況で冷静に判断する事が出来たのでしょうね。
きっと、次第に利己的な考えから彼自身が変わっていき、リーダーシップを取るようになっていったのかな、なんて思います。
>日本人による日本人の恥部を描いた作品
うん、なるほど。私も実は、韓国や中国で帝国時代の日本軍が行った残酷な行いを読んで、反省してしまったことがあります。
教科書にもちゃんとは載ってないんですよね。
ただ、自分は今の日本人て、民族意識そのものも低いなあ、と思うことがあります。
自戒をこめつつ、反省すべきところは反省して、だけど日本人のそうした特殊な民族性、心性を描くことって、難しいのではないか?と感じたりもするんですよ。
この相反する日本人の持つ葛藤、ここをきちんと描く作品が出来たら、私はすごく見たいですね。


