2007年12月16日

#191.チャプター27

チャプター27サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』が大好きな私にとっては、元々ショックな話だった。ジョン・レノンを暗殺したマーク・デイヴィッド・チャップマンが、レノン殺害時にポッケにこの本があった、この逸話は、その後もしばしばジョン・レノンの死と一緒によく語られる話だった。
PEACE BED アメリカVSジョン・レノン』と一緒にこれを見ると、余計悲しくなる。・・・


ストーリー・・・
ニューヨークにやってきた青年、マーク・デイヴィッド・チャップマン(J.P,シェファー)は空港に降り立つと、ジョン・レノンが居を構えるダコタ・ハウスに直行した。目的は彼を殺害する事。レノンのファンでもあるチャップマンは、LPを手に待ち続ける間、彼は二人の人物と知り合う。一人は熱烈なレノン・ファンのジュード(リンジー・ローハン)、もう一人はパパラッチのポール(ジュダ・フリードランダー)。彼らの前では、ちょっと入れ込み過ぎのファンを装いながら、決行のタイミングを窺っていた。・・・

'07年 カナダ。監督・脚本、J.P.シェファー

前述した、サリンジャーの『ライ麦〜』のファンでもあり、ジョン・レノンのファンでもあるこの男が、ジョン・レノンを殺したという事実は、リアルタイムで知ったことではないが、
残念だ、なんていうには及ばない、悲しくて心を引き裂かれるような出来事だ。
忘れたいのに、忘れられない事でもある。
サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』のファンの人であれば、もしかすると誰もがそうかもしれない。私にとっては決して忘れられない出来事であると同時に、大好きで影響を受けた、『ライ麦畑〜』の魅力も半減しかねない。それくらい、落胆させられたことだた。嫌悪感でいっぱいになる。

「今、明かされる、ジョン・レノン殺害までの3日間。
マーク・デイヴィッド・チャップマンは、なぜジョン・レノンを殺したのか?」

とのふれこみだったが、特にサリンジャーファンの私にとって、聞きかじった知識以上の新しい発見は特になかった。

この先は、完全にネタバレで進みます。これから見る予定の方は、読まないでください::::

M.D.チャップマンは、ホールデン・コールフィールドを装って、タクシーの中で、運転手に話しかける。
「ストロベリーフィールドのアヒルたちは、冬になると、湖が凍ってしまうのだから、一体何をしているのだろう?」
最初の1シーンからしてもう、「いかにもだ、ヤレヤレ」、という感じ。
このまま、ずっとこの男が、ホールデンを装って話が続くのかと思うと、ウンザリだ。しかもこの男、本で「セントラル・パークの南にある」というところを、ストロベリーフィールドなんて、暗示的に言っている。本当は、レノンの殺害のことは、もうこの時点で頭にあったのだ。
全ては計画的だったのだと分かる冒頭になっている。

眉根をぎゅっと寄せて、怪訝な面持ちになり、我知らず身構えてしまう。
こんな男、ホールデンじゃない!

それなのにこいつはずっとホールデンを装い、ホテルの一室に売春婦を呼ぶ。だが、ホールデンと違って、チャップマンは、「外国人だとか、ほとんど口を聞かない売春婦を」と言って売春婦を呼んだ。
ホールデンには、年の行き過ぎた、中年の売春婦が来て、何もコトは済まさずに、金だけ踏んだくられ、しかもエレベーターの中でブン殴られるが、
M.D.チャップマンは、普通にコトを済ませたようだ。

1ファンを装い、ダコダハウスで出待ち・入り待ちを続けるチャップマン。
そして、決定的瞬間。
その日に、ジョンにサインをもらっていたこと、その時は普通に喜んでいたこと。
それから、後姿のジョンを、背中から撃ったこと。
特に、聞いていた事実通りのことがそのまま羅列される。

ただ、私には、一つだけ知らないことがあり、それは、殺害の当日に、ショーンとその乳母に会い、握手さえ交わしていたことだ。

チャップマンの抱く、「ジョンは、もしかしたら偽善者なのかもしれない」という疑念。
それと、ホールデン・コールフィールドの、世の中の偽善、嘘、それら全てを、嫌う思い。
これらが狂信的に結びついて、それが最悪の結果を生んだ。

ジョン・レノンのファンの狂信的な行動、と思われていたそれは実は、『ライ麦畑〜』の主人公、ホールデン・コールフィールドと自分を思い込んでの凶行だった。
本当にはジョンのファンでは決してなく、ホールデンに「なりたかった」男。
歪んだ自己実現、自分のファンタジーをリアルにしたかっただけだ。

最後の銃弾を手にして、悩む時間の長さは、ジョンを愛する気持ちと、ホールデンのように自分がなりたい気持ちとの葛藤の長さ。

警備員に向かって、『ライ麦畑でつかまえて』がどうやって終わるのか、説明するくだりがある。
ここでは、もはや本当の小説の中の話をしてはいない。チャップマンは、自分自身の話、自分が将来予想される姿を語っていたのだった。(「精神病院の中でこう話をする〜」というくだり。)

正直、サリンジャー好きの人には、世の中の全ての偽善を憎む、という気持ちは、語らずとも嫌というほど分かってしまう類の思いだ。
私も、昔そうだったし・・・。
生きていく上で、自分の居場所のなさ。そうした思いを抱く人には、ホールデンの気持ちに同化するのはよく分かるだろう。

だが、青年時代に、ホールデンに、そして『ライ麦〜』に強く傾倒していたということは、一体当時の自分にとって、プラスになったことだったのか、それともマイナスだったのか、それは、今となっては謎だ。
このために、ただでさえ生きずらい世の中が余計生きずらくなり、居心地の悪い場所に思えたのも事実だ。

この最低ヤロウのマーク・デイヴィッド・チャップマンは、これっぽっちもホールデンなんかじゃ、なかった。
当時、世の中に生きている全ての人の中で、ジョンほど価値のあるやり方で戦争に反対した人はいなかったのに。
それなのに、最低男は、最低な勘違いのために、ジョンを殺してしまった。

こんなチャップマンのような卑劣漢も、こういうホールデンのような思いを抱くのだ。
これはまさに象徴的な出来事で、そんな最悪な奴と自分が同類なのだ、と考えると、正直いたたまれない思いでいっぱいになる。
悲しいし、辛くて、やりきれない思いでいっぱいだ。

途中で、それが間違いだ、と分かったはずなのに、それにもかかわらず・・・。
背中から撃つなんてな・・・

当時、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』は、汚い口語が使われているだとか、不謹慎な内容だとか、様々な理由でよく論争の的になったはずだが、
このチャップマンの話は、さすがのサリンジャーにもショックだったのではないか、と思う。

社会への適応性が低い人間ほど、ホールデンに憧れを抱き、「自分が描かれている!」と感激する。
いまだに自分も、こんな殻が抜けず、まだまだヒヨッコなんだな、というのがすっかり分かって、なんともガッカリ、落胆した、というのが本音だ。
私は、偽善だの純粋だの、そういうことにこだわるのはもういい加減にやめようと思った。でないと、こんなヤツになっちゃうから、と自分に言い聞かせる、そんな映画になった。

30kg増量したジャレッド・レトが、汚い髪で、ハンサムには全然見えない。確かに別人のようだけれど、『モンスター』でシャーリーズ・セロンが演ったような、素晴らしい表現力までは感じなかった、というのが正直なところだ。

ちなみに、'01年に、『ライ麦畑を探して』という映画もあったが、これもあまり面白かった印象はないかな。
原題は、“Chasing Holden”。DJクオールズが主人公を演じているものでした。

チャプター27@映画生活

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この記事へのコメント

1. Posted by 狗山椀太郎    2007年12月16日 21:33
こんばんは。
今回はずいぶん気を悪くされたようですね・・・。
レノンファンが見たら「興味本位で作りやがって!」と怒り出す映画ではないかと思っていましたが、サリンジャーファンのとらねこさんにとってもダメでしたか。というか、私は恥ずかしながら『ライ麦』を読んだことがないので、そのせいか興味深く見ることができました。

私の場合、主人公のチャップマンに嫌悪感を覚えるというよりは、むしろナイーブで大人になりきれていない奴なんだな、と哀れに感じました。そういえば、かつてのオウム事件では『かもめのジョナサン』という短編にひどく感銘を受けた犯人がいたようですが、チャップマンの世界観もその手の安っぽい代物だったようにも思えます。
2. Posted by とらねこ@管理人    2007年12月17日 01:09
椀さま

こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
おお、椀さまが初日に見られるなんて、なかなか珍しいような?
そうなんですよ、自分には、かなりいろいろなことを考えさせられ、そして自分をみつめ直さざるを得ない結果となった作品なのでした。
ジョン・レノンファンがどれだけ痛ましい思いでいっぱいになるかと思うと、こちらまで辛くなってしまいますね・・。

>チャップマンの世界観もその手の安っぽいもの
うん、そうなんですよ、今日ちょうど友達とその話をしていたのですが、
要するに自己実現のためだったその考え方が、変にホールデンと結びついている辺りが、『ライ麦〜』ファンには痛烈な出来事で、自分の歪んだ姿を見ずにはいられないのです。本当に安っぽいですね。
自分を等身大サイズで見つめられなかったのが、ホールデンの、そしてこの男の問題だったと考えると、何ともキツイです。
3. Posted by moviepad    2007年12月17日 01:56
やっぱり、とらねこさんもこの映画観てしまったんですね。

監督はジョンファンでかつサリンジャーファンらしいのですが、この映画からはどちらへの思い入れも感じられませんでした。正直いうと、こういうアプローチで映画にしてほしくなかった題材です。

僕は恥ずかしながら『ライ麦〜』を比較的最近読んだのですが(^^;、もっと若いときに読んでいたらここまで感化されたのかな...とふと考えてしまいました。それにしてもこの話が『チャプター27』なんて冗談は止めてくれ!って感じです(笑)
4. Posted by 香ん乃    2007年12月17日 02:04
 とらねこさん、こんばんは。トラバありがとうございました。

 私はどちらかというと客観的にこの映画を観てしまったのですが、観ているあいだずっと、「自分がジョン・レノンやサリンジャーに深い思い入れをいだいている人間だったら、こんな内容の映画を観て、とてもじゃないけど尋常ではいられないだろう……」と考えていました。ファンの方や造詣の深い方には、こう思うだけでも失礼になってしまうのかもしれませんが……。

 ジャレッド・レト、撮影後は痩せたんですかねぇ。きっと痩せたんでしょうね。本来は格好よい人でしたものね(汗)。
5. Posted by masala    2007年12月17日 11:27
2 こんにちは、TBありがとうございます。
私は「ライ麦畑を捕まえて」を知らずに見たのですが、とらねこさんのブログを呼んでチャップマンの行動が小説の影響を強く受けていた事がわかりました。
私はビートルズファンですので、とても嫌な映画でした。
新しい発見はショーンとの出会い位だけでしたね。
6. Posted by とらねこ@管理人    2007年12月18日 00:35
moviepadさんへ

こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました。
>正直いうと、こういうアプローチで映画にしてほしくなかった題材
おっしゃる通りだと思います。
ただ、ホールデン・コールフィールドとの「偶然の一致」ですが、これは完全にチャップマンがホールデンの後追いをしているくせに、それを認めずに、ホールデンと自分との類似性として、それに酔っているように思いました。
だけど、映画を見ていると、いたるところでチャップマンがホールデンとは違う点を発見するんですよ。彼は、ホールデンになりたかっただけなんでしょうね。ジョンを殺すことで、自己実現がしたかった、ホールデンになれるような気がしたんじゃないでしょうか。
それから、moviepadさんのおっしゃることも、共感しました。ジョンを殺すことで、世間に復讐することにもなった。・・・まさにそんなところだったと思います。
ジョンへの愛情は全くの偽物でしたね。狂ったファンの凶行と思われていたそれは、全く逆の代物だった。・・・
これはサリンジャーのファンとしても、考えたくなかったことで、さらにジョンの平和思想を考えれば考えるほど、辛いです。悔やんでも悔やみ切れませんね。
7. Posted by とらねこ@管理人    2007年12月18日 00:51
香ん乃さんへ

こんばんは★コメントありがとうございました!
おっしゃる通りだと思います。
ジョンのファンだったら、この男の目線で描かれる物語は、さぞかしキツイだろうなあ、と私は思いました。
サリンジャーのファンにとってもきっと結構な「Bullets in my head」だったと思います。
世の中の欺瞞がどうとか偉そうにホザくやつほど欺瞞まぎれなんですね。

ジャレッド・レトって、前はもっとカッコ良かったんですけどね。映画の選択が悪い気がします。
『レクイエム・フォー・ドリーム』なんかは映画も良かったんですけどね〜。
8. Posted by とらねこ@管理人    2007年12月18日 01:00
4 masalaさんへ

こんばんは★コメントありがとうございました。
masalaさんのところは、コメント書けないようになっているので、こちらのレスのみで失礼致しますね〜。
masalaさんはビートルズのファンでいらっしゃったのですね。この男の目線で描かれても、腹が立つばかりですよね。
サリンジャー小説へのこの男の傾倒ぶりは、見ていて腹が立ってくるばかりでした。
記事で言い忘れましたが、『ライ麦〜』の小説の終り方を、警備員に説明してますが、その内容が自分を示唆してるものに変えてるんですよ。自分の物語にしてるんですね。だけど、それが何?って感じでした。
9. Posted by swallow tail    2008年01月11日 21:49
とらねこさん、こんばんは。
一月ももう半ばに突入しましたね。
お屠蘇気分は抜けましたか?
スワロはお正月も仕事で完全に季節感が損なわれております。

さて、サリンジャーがお好きな方にとっては少々不快な作品だったようですね。
ことにとらねこさんはちょっとご立腹かしら・・・?

大好きな物語がこのような残虐な事件の「引き金」のように扱われたのは気分よくありませんね。
ジョンもサリンジャーもファンではないスワロは落ち着いて見られました。
チャップマンはあくまでも自立できていない人間なのだな、と。
自分自身を見出せず、ホールデンに依存した男のはなしだと解釈しました。
10. Posted by とらねこ@管理人    2008年01月12日 01:25
4 swallow tailさんへ

こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
お屠蘇気分・・うーん、抜けるのなかなか大変なんです(笑)
スワロさんはお正月もお仕事だったのですかー。忙しいのねん。

うん、スワロさん、自分にはちょっとこの作品はダメでした。こないだ、『PEACE BED〜』という、ジョンのとても素敵な音楽ドキュメンタリー映画を見たばっかりだから余計(泣)

>チャップマンはあくまでも自立できていない人間なのだな、と。
>自分自身を見出せず、ホールデンに依存した男のはなしだと解釈しました
おおっ!!素晴らしい!その通りだと思います!(パチパチ)
うぬー、やりますなっ^^w
うん、スワロさんがよく分かってらっしゃる通り、ホールデンに対する依存心が大きく、自分自身を見失ってしまい・・・。結果的に精神疾患にまで至ってしまったのですよね。ジョンのことを思うとやるせないです・・・。
11. Posted by CINECHAN    2008年01月19日 10:55
こんにちは〜
タイ旅行中ですね。今タイといって思い出すのは
「レベル・サーティーン」です(苦笑)
う〜ん、あれを食べるというのが・・・

この作品、チャップマンが何故ジョン・レノンを殺したのか? ということをもっと突っ込むのかと思ってましたが、個人的にはあまりそのへんはわかりませんでした。
「ライ麦〜」も読んだことあるんですけどねぇ・・
内容もよく覚えてないし。印象的な一人称であったのは覚えてるんですが。

まあジャレッド・レトが頑張ったんで、それで良しとします(?)。
12. Posted by とらねこ@管理人    2008年01月22日 02:17
CINECHANさんへ

こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
そして、ただいまです!

>タイといって思い出すのは「レベル・サーティーン」です(苦笑
実は私もです困った人達ですね、私達(爆)

CINECHANさんは、『ライ麦〜』、読まれたこともあるのですね。この本は、ハマる人とハマらない人で分かれるかもしれませんね。

ライ麦〜の内容に関する描写が凄く多いので、この作品を読んだ人には、言いたいことがあれだけで実はすごく通じてしまうんですよ。

ジャレッド・レトはすごく太っていて別人のようでしたね。
13. Posted by non    2008年07月07日 09:29
こんにちは♪ TB、コメントありがとうございました☆

『ライ麦畑・・』を知らないので何とも言えないんですが、とにかくジャレッド・レトの変貌振りに驚くばかりでした。
でも確かに表現としてはシャーリーズのあの演技の方が圧倒的でしたね(^^)
14. Posted by とらねこ@管理人    2008年07月08日 22:25
4 nonさんへ

こんばんは!こちらこそ、TBありがとうございました。
ジャレッド・レトの変貌ぶりは本当にすごかったですね。
せっかくのハンサム顔が、あんなにブサイク君になってしまうとは。。。

シャーリーズ・セロンの役者根性は、当時映画館で見て舌を巻きました。懐かしいですね!

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