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『サウルの息子』 収容所処刑室へ文字通り入り込んだ、カンヌグランプリ話題作!

saulタル・ベーラに師事したネメシュ・ラースローの長編デビュー作。これまたハンガリーから骨太な監督が現れた。

こちらは昨年のカンヌのグランプリだが、パルムドールはオディアールの『ディーパンの闘い』。私は偶然にもちょうど同じ日に、カンヌのパルムドールとグランプリとを見たことになる。だが大方の見方では「実質のパルムドールはこちらの『サウルの息子』」との噂が高いらしい。確かに衝撃度で言ったら、こちらの作品の方が上であったと認めざるを得ない。

ナチスを舞台にしたものは数多くあれど、収容所の隅々、さらには処刑室にまで斬り込んだ内容のものは、『ショア』以外にあっただろうか?主人公は“ゾンダーコマンド”と呼ばれるナチス親衛部隊のために働く部隊で、収容所内で一時的に働くユダヤ人達。主に死体処理の掃除や後片付けとして一時的に雇われるが、ほんの数ヶ月でその多くの死体と同じ運命を自分たちも迎えるという、文字通りの“使い捨て”軍団だ。

冒頭から『ショア』で見たそのままの風景が出てくる。いきなりキツイ。つい先程まで生きていた、ホヤホヤの“死にたての死体”が、薄らボンヤリとしたフォーカスの浅めの映像でそこに“在る”。だが、スタンダードサイズの映像に映るのは極めて狭い範囲のみ、主人公の周りだけだ。カメラが映し出すのは主人公の顔、背中、すぐ目の前に映る風景のみ。まるで、主人公の“主観”をそのまま描いたかのような狭苦しさ。この小さな枠に捉えられ、そこから逃げることも出来ない主人公の心情が伝わってきて、どうしようもなく狭く息苦しい。まるで自分もそこに生きて呼吸しているかのようだ。

とことんまで主観に拘った作風は、口数の少ないサウルの行動のみを映し出し、その姿を追う。半分過ぎてようやく分かる、主人公の息子の出自。さらなる疑問が出てくるのはラスト間際だ。それは本当にユダヤ教ラビであったのか?同時にその“息子”は本当に彼の息子だったのか?疑問が生まれるばかりだ。前者はおそらく否。後者はもはや神のみぞ知る。

自己に半ば強制的に課すかのような、彼の最後の望みである“贖罪の意識”は、ゾンダーコマンド達の必死の一斉蜂起すらその目に入っていない。もはや主観そのものが狂っている。凝視するには、あまりにも辛い世界だった。

 

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コメント(4件)

  1. こんにちは。
    勇気を出して観に行ったけど、やはり辛かったです。
    衝撃度はマックス!
    目を覆う場面が多く、感想も定かには・・・・・。
    去年訪れたハンガリーを想い、改めてホロコーストの惨状を学びました!

  2. cinema_61さんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    とても辛くなりますね。でも、この表現方法をとても力強い、と感じる人々が少なからず居ますね。
    私には正直このカメラはとてもキツかったのですが、それはそれで良かったのだろう…と思います。

    あ!cinema_61さんは、ハンガリーに行かれていたのでしたね。
    戦禍の記憶の残る遺跡等も訪れられたのでしょうか。

  3. おっしゃるとおり、少年はサウルの息子ではないだろうし、
    ラビも本物では無かった、と私は思います。
    ラビが途中でお祈りをやめ、穴を掘り出したのもまた
    彼の贖罪だったのかなぁ…と。
    あ、でもあんなところに居れば、
    祈りの言葉なんて無意味だと思うようになっていてもおかしくないし…
    ってことで、やはり神のみぞ知る、ですね。

  4. amiさんへ

    そうなんですよね。
    正直、ラビについては初めから懐疑的でした。
    で、途中で全く彼が気づいていないことに驚きを覚えるのですが、息子に対しても同様に「もしかして…?」という“疑い”を与えるキッカケ、それがラビだったように思います。

    正直、キツイ体験でしたね。
    でも、これを気に入った人には是非『ショアー』も見て欲しいなあ。
    ハッキリ言ってあっちはもっとキツイですよ(笑!




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