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『幻の湖』 迷作であるが超大作

jma0007s_l以前、新橋の立ち飲み屋で本を読んでたら、「何読んでるんですか?」と隣のサラリーマンに声を掛けられた。それはキングの本だったのだけれど、どうやらそのリーマンはスティーブン・キングを“感動大作の作家”だと誤解しているのです。そんな奴も居るのかと私は内心驚きながらも、映画化されたホラーのタイトルを挙げて、キングが本来は感動作を書くような人物で無いことを、一生懸命説明しなければならなかった。まあ、『ショーシャンクの空に』と『スタンド・バイ・ミー』位しか知らない人だったので仕方がないのだけれど。

そんなことから会話になって、だいぶ長いこと話していたのだけれど、その彼が忘れられない映画がある、と言うのです。それが『幻の湖』だった。私はタイトルだけは知っていて見る機会もあったけれど、まだ見たことが無かった。正直、してやられた…!と思いました。見るべき作品リストに入った作品だったからです。ある程度情報もあった。だけどあえて、「どんな映画なんですか?」などと本来人にはしない質問を ーと言うのも、人から情報を入れてしまうのが大嫌いな性分であるのに、ー 聞いてみた。何故なら私は、俗にいう“映画好き”ではない人が映画の話を振ってくるのが大好きなのです。もちろん、映画好きと映画の話をするのも好きですが…。

そこで彼が言うには、こんな変わった映画を自分は見たことは無いと。どんなカルト作もきっとこの作品には敵わないに違いない、と言うのです。私の小さなプライドは傷つきました。何故なら、大した誇りなど持っていない自分が唯一、心の底でちょっぴり誇れることが、「ハリウッド映画や最近の日本映画位しか見ていない普通の人が、決して見ない映画を見ている」ということだったからです。
キングすら知らない人物に、キングをハリウッド感動大作の巨匠と馬鹿にされた上に、カルト映画はこれだ云々と語られるのですから、溜まったものではありません。

その彼は内容についてはまるで語ることなく、「とにかく変わった映画で、あんな映画は見たことがない」と言うのでした。「面白そうですね」と相槌を打ったら、「いや、全くおもしろくないんです。」と。それなのに、決して忘れられない、自分は普段映画なんて見ないのだが、あの映画ならもう一度観たい、と言うのです。

さて、ようやく見てみました。これは確かに、内容を説明しろと言われても困るような、珍作中の珍作でした。見終わった今の気分としては、もう一度見るなんて絶対ごめんだわ。

琵琶湖の近くで時代劇風トルコがあり、そこで働くトルコ嬢の飼い犬が殺されてしまう。それをストーリーは追いかけ始めるのですが、物語がどうも理解の及ばない方向へと進んでいくのです。165分という長尺で、丁寧に物語が進み始めたはずだったのに、話運びが素っ頓狂な方向に向かう。台詞の応酬もおかしいのです。そして編集もきわめて強引。

ただし、琵琶湖のロケはとても美しいし、お金もめちゃくちゃかかっています。東宝の70周年記念に作ったというので、超大作映画と言ってもいいのではないでしょうか。撮影の腕はとても良くて、ロングショットも贅沢。素人から起用したという南條玲子の演技はイマイチな上に、スクリーン映えする人でもないのだけれど、走る姿はなかなか様になっている。マラソンの指導は相当やったのではないかと思います。走るシーンは思い切った尺を取っていて(と言っても全てが思い切ってるのだけれど)、琵琶湖の西側を丁寧に走るシーンも良かった。そして二度目、東京は外苑辺りから、246号線太子堂、駒沢公園とたっぷり映って眼福!ここがクライマックスにもなってます。
意味の分からない台詞と展開に、観客の笑い声がすごかった。私も笑ってしまいました。というかもう笑うしかない…!あまりの脱力っぷりに、思考能力を奪われるのですが。

黒澤明を始めに、数々の名立たる名作を誕生させた名脚本家ですが、この映画をキッカケに事実上の引退を余儀なくされてしまった、というのも分かる気がします。だって監督・脚本・原作と全部自分でやっていてこれなんだもの。でもこれがカルト作として語り継がれたり、人の心にバッチリと残って「あれが忘れられない」と言われるなんて、映画冥利に尽きるというやつなのかもしれませんね。

 

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コメント(2件)

  1. お早うございます。
    「とらねこ」さんがご覧になる映画は随分と幅が広く、なおかつ数も膨大で、とてもついていけません。例えば、昨年12月の「評価別INDEX」に掲げられている映画の内クマネズミが見たものは、わずかに『アンジェリカの微笑み』だけでした!
    それでも、本年1月3日のエントリの冒頭に掲げられている10本の映画については、4本も見ています!
    その内の『毛皮のヴィーナス』については拙ブログ(昨年1月27日)で取り上げたものの、残る3本は古い作品なのでまともに触れておりません。ただ、『幻の湖』に関しては、『偉大なる、しゅららぼん』を取り扱ったエントリ(一昨年4月2日)の「注2」で少々書いたことがあります。
    おっしゃるように、本作は、「珍作中の珍作」ながら、クマネズミの生まれ故郷の滋賀県を舞台にしている上に「琵琶湖のロケはとても美しい」ですし、またジョギングを愛好するクマネズミにも、南條玲子の「走る姿はなかなか様になっている」と思えましたから、なんのかんのと揶揄されるには惜しい作品のような気がしています。
    ところで、貴エントリに「観客の笑い声がすごかった」とありますが、最近本作がどこかの映画館で上映されたことがあるのでしょうか?

  2. クマネズミさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。

    はい、何故かたくさん映画ばかり見ております。映画を見ないと死ぬ病気に罹っているかのように。
    アンジェリカが被って嬉しかったです!アクトレスも。
    これをベストに入れられているのを見て、またまた嬉しかったですね。

    クマネズミさんは、滋賀県のご出身だったんですね!そしたら、この映画は感激してしまいますね!
    今は無き琵琶湖のタワーが映るショット、あれは空撮でしょうか?何度か映りますが、琵琶湖の風景を楽しめますし、旅映画としても心に残りますね。
    私も、いろいろと文句を言っておきながらナンですが、先日駒沢公園の辺りを散歩していて、「ああ、そう言えば幻の湖でもここ走っていたなあ…」などと思い出して、ニヤニヤしておりました。
    やっぱり人の心に強烈な印象を与える映画ということで、楽しんでサッサと忘れられてしまうものより、ずっと素晴らしいのではないか、と思います。
    私も「あけましておめでとう」映画の中に思わず入れてしまったぐらいですから!

    そうそう、こちらですが去年の年末にシネマヴェーラにて、「橋本忍特集」にて掛かったのですよ。




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