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『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』 本物の死体が出てくるドキュメンタリー

mainこう言ってしまうのは身も蓋もないが、ドキュメンタリー映画の面白さとは、エグい内容であればあるほど、現実から離れたものであればあるほど、もの凄いと感心してしまうものだったりする。

我々の住む“現実”から、いかに距離があるか。

「現実を描いている」と分かっているからこそ、現実から遠いことに凄みを感じてしまう。

アクト・オブ・キリング』でジョエル・オッペンハイマーが、“ある種歪んだ”形で現実を描いたのも、その“凄すぎる内容”をどう扱うかということでひねり出してきた、苦肉の策だったように思う。“現実性”に語るべき”物語性”を与えるための手段として。
この作品に関しても『アクト・オブ・キリング』同様に…いやそれ以上に、一体どこが光なのかと思わず絶句するほど救いのない話だ。

その語り口として使ったのが、メキシコ麻薬戦争を背景に流行る音楽。“ナルココリード”と呼ばれるメキシコのギャングスタミュージックだ。どちらかと言うと音楽的には、メキシコの古い伝統音楽のように聴こえる。メキシコの北部の「ノルテーニョ」と呼ばれる音楽が元になっていて、これにメキシコの麻薬カルテルのギャングについて、格好良く歌い上げる歌詞をつけたものだ。アメリカであればギャングスタ・ラップになるものを、ラップの代わりにフォーク音楽で歌ったような。

現在ではナルココリードは、ラジオやTVなどの公共の場所でかけることを禁止されている。その暴力的な歌詞が危険だと判断されてのことだ。しかし市民には絶大な人気があり、アメリカでもその人気が広がっているという。映画中でも、“箔をつけるために”ロサンゼルスでライブをやる、という台詞がある。

この歌詞がなかなかに酷い。「片手にはAK47、肩にはロケットランチャー…」などと、凄まじく恐ろしいものなのに、これが観客はみんなで大合唱するほど人気だ。麻薬カルテルのギャング達もナルココリードの歌手に、自分達について歌ってくれるよう依頼をしたりする。歌手にとっては、ちょっとした小金稼ぎにもなる。
とまあこんな感じで、麻薬カルテルについての真面目なドキュメンタリーではない。あくまでも“ナルココリード”というメキシコのギャングスタミュージックを切り口に、それを取り巻く絶望的な社会を素描したものだった。

だが、ここに描かれる絶望の濃度は凄まじい。まるで『シティ・オブ・ゴッド』さながら。黒焦げの死体や血だらけの死体までそのままに出てくる。無実の市民達が切り刻まれた死体。泣き叫ぶ母親。見て見ぬ振りをする警察。警察はマフィアと裏で初めから繋がっているので、やりたい放題なのだ。
それがシウダー・フアレス、麻薬戦争に巻き込まれた地域の実態。こうしたものが浮かび上がってくるメキシコの“今”。

麻薬戦争の最中、人工肛門を付けざるを得なくなったメキシコシティの女市長のことを思い出した。私は彼女を応援していたのだけれど、とことん戦うわ、と言っていた彼女も、結局は殺されてしまったな…。

 

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