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現実と夢を超える魔の時間 『思い出のマーニー』

2014-07-24_2117なんだか良く分からない予告に、見た目ガールズムービーっぽいポスターチラシ。何の映画なのかサッパリ分からないけれど、これが意外にもチャレンジングな作品だった。宮崎駿抜きでどこまでジブリがやれるかを試すための試金石なのかもしれない。だから、この作品の興行成績は楽しみにしてるんだ。初週第三位ということでなかなかの出だしのようだけれど。さて、夏休み終わる頃にどう出るか。

まず風景が綺麗で目に優しい。夏休みにこそこんな絵がみたい、そう言える手ざわりがいいんだ。北海道のノンビリした風景が目に優しくて、家の中の内装なんかもとっても素敵。木で出来たお家の優しさ、窓から見える港にはボートが浮かんでてワクワク。羨ましい!まるでモナコの海岸線みたいに絵になる、キューっと曲がっている海辺。ベッドの近くに一本立ってる白樺の柱も好きだった。

「自分が嫌いだ」というこじらせがなかなかに頑強な、内気&シャイ娘・杏奈。いちいち細かい質問を知らない子にされた杏奈は、つい近所の女の子に向かって「太っちょブタ」発言をしてしまう。うーん、これは思い切った台詞だわ。きっと杏奈が「自分を嫌いだ」という理由がハッキリ読者にも分かるような、トコトン根性悪な台詞でなくてはならなかったところ。さすが、こういう思いきりの良さ、心地良さを目指したはずのヌルい邦画には出来ないところ。

この作品、全体的にもかなり思い切った構造と物語進行で進む。摩訶不思議な白日夢のような描写など、現実をふわりと超える筆致が軽やか。対岸にある豪華な屋敷の女の子に、それも夢の中で見ていた女の子にふと出会う。“霧の中”であったり、“満潮”という限定された空間と場所であったり、“ボートに乗って行かなければいけない”、などといった、二重にも三重にも現実を超えるような装置がある。思わずフランスのモンサンミッシェルを思い出すような、この世ならぬ美しさの風景。魔の時間。だから、観客にはそれが全て現実ではないのだと分かるようにはなっている。ただ、こうした描写がとても自覚的なものだから、他の幾つかの描写も勘ぐってしまうのだった。それは、マーニーと抱き合う瞬間であるとか、ボート(恋人たちが乗るもの)であるとか。杏奈は明らかに赤面しながら抱き合って、「大好き」という言葉を何度も使う。ボートの漕ぎ方を教えてもらったり…ここでは正直、見ている方が赤面するぐらいで、百合描写があまりに過ぎるのでは…。正直この辺りがつい背筋がゾワゾワしてしまった。でもこう思ってしまうのは、私が腐った大人だからなのかも…。この頃の女の子には、こういうところあるよね。中学生の頃、ずっと女の子と手をつないで連れションしてたし(笑)。

でも、ラスト間際で様々な伏線が見事に繋がっていく。これは見事だった。第一にマーニーの正体。杏奈が青い目であった理由、外国人であったマーニーとの血の繋がり。同じく一人ぼっちの、東京から来た女の子との友情。久子さんとの関わりあい。マーニーの正体が最後まで、“謎が謎のまま”牽引していくおかげで、ラストの展開がより見事に見える。ずっとひっかかっていた謎が解け、パズルのピースがようやく完成する気持ちよさ。ここが見事であったため、この作品の軽やかさと深さとが、しっくり来るようになっている。この味わいが素晴らしい。あの魔の時間は、自分の魂のためだけに存在した時間だったんだ。

この先、ネタバレ*************

ただ、彼女があの義子の義援金の証明書を出してきた理由を納得するのに、少し合点がいかない感じはあった。要はマーニーが杏奈に向かって言った言葉だけ(もらってくれた親にこそ感謝すべき…みたいな)で納得させているということらしい。ここ、つまりは“世界における自分”を受け入れることが出来たことで、彼女自身が自分で納得できた、そうした魂の成長があった故なのだろうな。

最後に告白すると、正直、最後の方までずっとマーニーの描写を読み違えていたんですよね。何故なら、杏奈の子供の頃の描写で、彼女はマーニーにソックリな人形を持っているんですよね。内気なもらいっ子であった彼女の唯一の友達の人形に似ている、ということは…。つまりマーニーの存在も全て彼女の想像の世界であったのではないか、と私は踏んでいた。そしたらそっちじゃなかったのね。マーニーを見た女性たちと思いを共有することで、世間との繋がりを感じることが出来た、というオチになっているのだけれど。あーそっちか、という。でもね、ハッキリ映る、金髪の水色の服を着た人形。これは、この物語中、謎を最後まで残すための“ミスディレクション”の装置だったようだ。


マーニーの世界観の歪み

内側世界と外側世界という境界線を杏奈は心の中で敷いているが、自分が本来所属する世界から北海道へ追いやられた(と杏奈は思っている)ことで、いよいよ疎外感を強く感じていた。その理由は自分がもらいっ子であるという外的要因と自分が本来持つエゴの強さ(保育園のエピソード→子供にはよくある自分中心の世界観)という内的要因があって、もともと疎外された(と自分が考える)側に居ると考えているため。さらに杏奈は自分が本来所属する世界から北海道という地へやって来たことから(療養目的であるにせよ)、内的世界からさらに疎外された感覚があった。マーニーの世界設計はこんなところだと思う。

ここで信子という別の世界を代表する人間と徹底的に訣別することにより、いよいよ現実と幻想の世界が入り混じった世界へと追いやられるキッカケになった。

マーニーとの邂逅は自分ですら愛せない自分を肯定し愛してくれるという“他者”、自分ひとりではどうしても達することの出来ない“他者に愛される”という経験、もしくは“愛そのもの”に出逢うことだった。さらに彼女は杏奈が今ここに存在する理由である“出生”の謎を解く鍵そのものでもあった。この作品ではマーニーの存在をさらに別の女たち“他者”と共有することで、彼女が内的世界、嫌でたまらなかったけれど元々属していた義母のところへ戻ってくる後押しとなる。“社会(=世界)に受け入れてもらえた感覚”、それを強調する身体性。

ちなみに世界というのはセカイ系とか社会学としてではなく、人の心理にとってという意味合いである。小さな子がこれから世界にむけて船出しようという時に、ちっぽけな自我に対して世界=社会が果てしない大海であり、自我はポッカリと浮かんだ小っぽけな陸の孤島というような。マーニーの居る対岸に浮かぶ洋館は、小舟で近づかなければ見えず、入る事も不可能であったり時に錆びて見えたりしている。

杏奈にとって、“世界と共有出来た感覚”=“(好ましい)女たちとの絆”を描きながら、そこに“例外”=“自分の世界とは相容れない他者“=図々しく醜い女性 を描くのは、この物語に内在するテーマである、相容れない世界の他者との境界を瓦解しないまま放置させる醜さがあったと思う。そこで偶然出会ったからと謝罪をし、「友達になれるか?」との質問に、曖昧に分からないと答える杏奈。この描写は、正義を美醜で語ることでその歪みを露わにしているのに(「太っちょブタ」はさすがに酷すぎる台詞)、これを刈り取らずに物語を終えてしまう。“美しい嘆きの主人公” V.S. 図々しく話しかけ、土足で人の心に上がってくる、“醜く太った女子”の構図。(青い目であることを指摘されるのは、杏奈にとって嬉しい事では決してなく、“普通”に憧れる、心の奥の問題については尚更立ち入らないで欲しい領域。)それが真実だ、「可愛いは正義だ」などと言う人も居るかもしれないが、この描写や取ってつけたような謝罪が、どうしても心に引っかかる。そこに気づかないのは、「別の世界の人間を受け入れられない人間の限界(という境界線)を、自分で引いてしまうタイプの人」であるのかもしれない。


’14年、東宝
監督:米林宏昌
製作:鈴木敏夫
プロデューサー:西村義明
原作:ジョーン・G・ロビンソン
脚本:丹羽圭子、安藤雅司、米林宏昌
音楽:村松崇雄
主題歌:プリシラ・アーン
制作:星野康二、スタジオジブリ
キャスト(声の出演):高月彩良(杏奈)、有村架純(マーニー)、松嶋菜々子(頼子)、寺島進(大岩清正)、根岸季衣(大岩セツ)、森山良子(老婦人)、吉行和子(ばあや)、黒木瞳(久子)

 

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コメント(8件)

  1. これつくづく宣伝の方向性の大失敗が勿体無いです。
    謎が謎を呼ぶ構造なんだから、ストーリーの面白さを前面に出したらよかったのにねえ・・・。
    もっとも、事前にどんな映画化さっぱりわからなかった分、本編を観た時の驚きと感動は倍増しましたけどね。
    基本的にこういう過去が優しく現在に干渉する作品は大好きなので、忘れられない一本になりました。

  2. とらねこさん☆
    予告ではとんと興味を持てずに居て、試写で観た友達が「それほどでもなかった」と言っていたので、ちょっと二の足を踏んで意いるところです。
    でもラストが見事に繋がっていく~~など、これは案外いいのかも??
    ネタバレから先は観てからまた読みますね☆

  3. ノラネコさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    そうそう、予告がなんだか良く分からないんですよね〜。あれで二の足を踏んでしまう気持ちは分かる気もしないでもないです。
    その上、あの思い切ったポスターでしょう…。
    この映画の売り方って難しいですよね〜。結果、あの良く分からない感じが逆にジブリには今まで無く、新鮮な気が私はします。

    ノラさんは、こういう小さな世界を描いた作品て、実写だとそれほどお好きではないのに、アニメだと評価なさるんだなーと思ったり。

  4. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    これって、ちょっぴりお勧めが難しいんですよ。私は好きだったんですけれども、ちょっぴり変わった部分があって。

    「ネタバレします」って、時々面倒なので書かなくてもいいかな?なんて思ってしまう事もあるんですが、こういうコメントいただくと、あっやっぱり書いておいてよかった!なんて思ったりしますw

  5. こんばんは。
    タイトルやポスターなどから、ガーリーの甘ったるいストーリーを想像し、期待せずに(暑さをのがれるための映画鑑賞)観ましたが、心にジーンとくる作品でした~

    内向的な思春期の少女は空想癖があり、しばしば幻視を見るといわれるので、杏奈が見たマーニーもそうなのでしょうか?それとも幼い時期の記憶が時々夢に出てくるので、その繋がりでマーニーが登場するのでしょうか?
    ラストで事実がわかりスッキリするのですが、粗筋より、「愛」について深く考えさせられました。でも前半は少し退屈でしたが・・・・・・。

    架空の街ということでしたが、幼児期を北海道で過ごした私は「あれは釧路湿原では?」と思ったりして・・・・
    あの辺は別荘(洋館)が多く、夏は賑わっていたっけ!

    先日観た「パガニーニ」もストーリー的にはそれ程でもないけど主演の「デビット・ギャレット」のヴァイオリン演奏に感動しました。映画って観てみないとわからないものですね。

  6. cinema_61さんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました!
    今銀座に居るのですが、ゲリラ豪雨に襲われて、暇つぶしにカレーを食べています笑。

    おお、cinema_61さんもご覧になったんですね!本当、期待していたよりずっと素敵な作品でしたよね。
    これ、少女時代に内気な女の子として過ごした私には(全然そう見えないなんて言われちゃうのですが笑)、とっても心に残る作品になりました。女性同士の関わりって、意外と難しいものですよね。「愛について考えさせられた」ってお言葉、とても納得します。おっしゃる通り、人に愛されるという経験で、世界に対する見方が変わる。そんな作品だったと思っています。

    cinema_61さんは、北海道で幼児期を過ごされた事がお有りだったのですね!羨ましいです。思わず北海道出身の友人に、「この作品の風景がすごく綺麗だったよ」なんてメールしました。
    そうか、釧路湿原に似ているのですね!「湿っ地屋敷」ですもんね。確か、「釧路や室蘭でロケハンした」って書いてありましたよ!さすが、当たりですね。
    「パガニーニ」はまあまあなんですね。今見るべき作品が多すぎて、目まぐるしいので、感想教えていただけると助かります笑。

  7. まいりました。まさか彼女の正体が…
    もう涙腺決壊。
    私も、想像の産物か、またはマーニーという他人の霊かな~と思っていました。
    関係ないけど、とらねこさんとノラネコさん、似た名前同士のやりとり、なんだか、ほほえましいです。
    くろねこさん、三毛猫さんとか他に出てくると面白いかも!

    http://bojingles.blog3.fc2.com/blog-entry-2756.html

  8. ボーさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    意外なラストでしたよね!
    そうそう、正体は幽霊かもしれない…というのは計算されたミスディレクションでしたよねー。

    猫同士。確かにw。ノラネコさんと私は猫ハンドルつながりですもんね。
    一緒に飲む時なんかは、「ダブルねこちゃん」なんて呼ばれてたりw。

    くろねこさんや三毛猫さんとはやり取りがありませんね〜。




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