rss twitter fb hatena gplus

*

虐殺された人々を埋めた土で土人形を作り、語られる物語 『消えた画 クメール・ルージュの真実』

poster2第一に、何としてでもこの地獄を伝えようという気迫を感じる。様々な手段でクメール・ルージュの残した痕跡を、真正面から捉えようとするリティ・パニュ監督。本作、日本で劇場初公開の最新作でした。

今回は、深く心に刻まれた思い出を再現しよう、という試み。普通に考えれば、役者を使って実録物ドキュドラマ形式でやりそうなもの。ところが彼の場合は、そう一筋縄ではいかない。当時のクメール・ルージュによって虐殺された人々を埋めた土から作った、土人形。これらを使って表現しようという。リアルにその地獄を体感させようというのではない。むしろ表情の無い土人形にも関わらず、我々の想像力を刺激した。静止画のままのポーズ、カメラは全体を追う平行移動が多いのに。土人形によって、時代も国も超えた気がした。
 私はとても気に入った。描かれていることは途方もない生き地獄であるけれど、人間が突然こうした罪を犯すことが可能なのだろうか?と戦慄せざるを得ない。そんな映像になっていた。

ただ、「与えられたものを受け取って楽しもう」とする鑑賞姿勢では難しいかも。情報ベースのドキュメンタリーではなく、ポエジーによって語られる記憶の再構築ジオラマであるから。観客にも読解力が必要とされる。監督の『S21 クメール・ルージュの真実』を見ている人には、より入り込みやすいかもしれない。何がどのように行われたかを、すでに良く知っているから。むしろこの作品は、当時ありのままの姿というより、何年経っても一向に消えてゆこうとしない、監督自身の思い出に向かっていく。消えてはまた蘇る亡霊のような、幾度も幾度も悪夢の中で立ち上ってくる姿。土人形のおかげでよりそうしたものに似通って思えた。

資本主義の価値観を全て否定し、人々に再教育を与えるという目的の元に、独裁的共産主義的国家を作ろうとしたクメール・ルージュ。「人間は文明などあるから不幸なのだ。」「むしろ、原始時代に戻るべきだ。」などと考えたことがある人なら、こうした思想犯の成れの果てをより恐ろしく思えるはず。貨幣を全て捨て去り、民衆の所有も否定され、民衆は集められ同じ場所で寝泊まりする共同体国家。ろくな食べ物もなく、ひたすら労働を課され痩せ細っていく。結局200万人もの人々が無意味に虐殺され、その他の者は病気に倒れていった。監督の父親のように、国に起こりつつある革命を早くに否定して、一個人の意志で餓死した者は珍しいと言えるのかもしれない。誰も居なくなったプノンペンの姿はショックだ。『動物農場』そのまま、いや、より悲惨な結末を迎えた一国家。

そういえば子供の頃、カンボジアの子供たちというと、飢饉のため食べるものがなく、お腹ばかりが出ている姿というのを見たことがある。それらは全てこうしたクメール・ルージュの爪痕、彼らが破壊しつくした後だったのだ。彼らの国家が、当然なるべくして貧しかった訳ではない。自らの国家を転覆させた者達による傷跡のおかげで、国が一気に貧しくなってしまったのだ。日本もそうならないようにしなければ…と、空恐ろしい思いがした。



’13年、カンボジア、フランス
原題:L’image manquante
監督・脚本:リティー・パニュ
製作:カトリーヌ・デュサール
撮影:プリュム・メザ
音楽:マルク・マーデル
ナレーション:ランダル・ドゥー
人形制作:サリス・マン

 

関連記事

『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究

去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む

『AMY エイミー』 今世紀一番ロックだったひと

エイミー・ワインハウスの名前は正直言って聞いたことがある程度で、特にフ...
記事を読む

『極私的エロス 恋歌1974』 40年前の日本女性の逞しさに惚れる

『ゆきゆきて、神軍』を撮った原一男監督作品。シネマヴェーラの「フィクシ...
記事を読む

20年来の愛を超えた告白 ツァイ・ミンリャン最新作 『あの日の午後』

何なんだろう、この愛は。最新作がこんな愛剥き出しの告白とは。驚き呆れ果...
記事を読む

ジャファール・パナヒ 『タクシー』 現実か否か?

東京フィルメックス映画祭にて鑑賞。 『チャドルと生きる』、『オフサイド...
記事を読む

1,090

コメント(1件)

  1. 『消えた画』をユーロスペース2で観て、全くアジア人って奴はふじき★★

    五つ星評価で【★★こんなやり方があったのか、でも、やり方が活かされてる訳ではない】  
    カンボジアの虐殺を監督自らの記憶によるナレーションと、その虐殺の土地の土を原材 …




管理人にのみ公開されます

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)


スパム対策をしています。コメント出来ない方は、こちらよりお知らせください。
Google
WWW を検索
このブログ内を検索
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ

結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...

【シリーズ秘湯】乳頭温泉郷 鶴の湯温泉に泊まってきた【混浴】

数ある名湯の中でも、特別エロい名前の温泉と言えばこれでしょう。 乳頭温...

2016年12月の評価別INDEX

年始に久しぶりに実家に帰ったんですが、やはり自分の家族は気を使わなくて...

とらねこのオレアカデミー賞 2016

10執念…ならぬ10周年を迎えて、さすがに息切れしてきました。 まあ今...

2016年11月の評価別INDEX & 【石巻ラプラスレポート】

仕事が忙しくなったためもあり、ブログを書く気力が若干減ってきたせいもあ...

→もっと見る

【あ行】【か行】【さ行】【た行】 【な行】
【は行】【ま行】【や行】 【ら行】【わ行】
【英数字】


  • ピエル(P)・パオロ(P)・パゾリーニ(P)ってどんだけPやねん

PAGE TOP ↑