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『家族の灯り』 心のブラックボックスに出来る影

posterこれ、名古屋のシネマテークで見たのだけれど、岩波ホールでなく、ここで見れて本当にラッキーだった!何ともこの映画の雰囲気にバッチリ合ってるんですね。シネマテークのスクリーン、実は少し昔風のスクリーンで、最前列に座ったら画素のつぶつぶが見えるぐらい。でも、105歳のマノエル・ド・オリヴェイラ監督の、頑固に全ショットをフィックスで撮ったこの作品を見るには、ぴったり!と言えた。(シネマテークに関しては詳しくはコチラに書きました。)

冒頭、家に灯りを燈すシ-ンがあるのだけれど、蝋燭の灯りが何とも仄暗くて、温かいんですね。このデジタルフィルムの全盛期に、まさかこんな新作を見ることが出来るなんて!ともう、大感激。物語にももちろん釘付けになったのだけれど、あのフィックスのバッチリ決まった画を見ているだけで、「くぅ~っ、イキそう~!」という気分になったもの。クラウディア・カルディナ−レの老けっプリには少し驚いたけれど…。

人の心のブラックボックスに、ぼんやりと灯りを燈すと、自然とどこかに影が出来るように、灯りの点った分だけ、人生の闇の部分が濃さを増してくる。安全で平穏な人生こそ全てと、真面目一筋に生きてきた父親と家族、対するは囚人となって暫くの間家に帰ることが出来なかった長男。

まるで『罪と罰』のラスコーリニコフと、金持ち婆さんの関係のようだった。しかし、ラスコーリニコフに焦点が当たるのではなく、逆の立場の人間たち、何の後ろ暗いこともなく、冒険も無く真面目一筋に生きる盲目の我々の物語。

ラスト、安全で平穏な部屋の灯りから、一歩外へ出る覚悟をした父親。扉の開け放たれた昼間の明るさは尋常ではなく、眩しさに目が潰れる思いがする。

冒険を忘れた、退屈であるが平穏な人生を生き、諦めを抱いて生きていく人間と、ある瞬間には犯罪者になるかもしれない、反社会的な人間。この2つって、もしかしたら誰もが心の中で2つに揺れ動きながら、生きていると言えるかもしれない。自分が真面目に生きていることで、実はものすごく損をしているのかもしれない、と思う瞬間もある。「もし自分がもっと上手く世渡りを渡っていくことが出来たら、もっと安楽で気儘な人生が送れたかもしれない。」そんな想像をしてみない人間が居るだろうか。時には反社会的な妄想、夜の灯りにぼうっと照らされた影に、驚くこともある。二分化された人間を描くことで、心の中にそうした背反性が存在することに気付かされた。そんな人間の複雑な心の揺らぎを表現することに成功している。極めて見事な、知的な作品だった。感激!

‘12年、ポルトガル、フランス
原題:O Gebo e a Sombra
監督:マノエル・デ・オリベイラ
原作:ラウル・ブランダン
キャスト:クラウディア・カルディナーレ、ジャンヌ・モロー、マイケル・ロンズデール、リカルド・トレパ、レオノール・シルベイラ、ルイス・ミゲル・シントラ

 

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コメント(2件)

  1. とらねこさん☆
    名古屋でいい映画に沢山出会いましたねー
    旅先で見る映画ほど、貴重な時間を費やすのだから、そんないい映画を観たいですね。

    「家族の灯り」今度探してみます。

  2. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    映画の日だったので名古屋で2つ映画見たんですが、名古屋は本当に日本でも東京に次いでたくさんの映画が見れる街だと思います!
    関西も大阪・京都を自由に行き来すれば、ミニシアター系のものも見れますが、結構遠かったりしますからね。
    関西より、実際名古屋の方が早いぐらいですよ!

    『家族の灯り』は、割とシネフィル寄りの映画かな〜と思います。
    何しろ、ずっと固定カメラですし、文学的・哲学的な台詞なんですよ。私はシネフィル好みの作品をいつも好む訳じゃないですが、これは良かったですね〜。




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