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ウッディ・アレンの極上の本気を見た! 『ブルー・ジャスミン』

163894_1私にとって今回のこの作品は、一番好きだったアレン作『ミッドナイト・イン・パリ』も、『アニ-・ホ-ル』も超えた傑作。私は、彼の最高傑作だと思う。や、これまでだってもちろんアレンのユ-モアのセンスはビタ-でシニカルで、そこが大好きだったけれど、今回のアレンはどこか違う。『映画と恋とウッディ・アレン』でウッディ自身が言うように、曰く「道化師の呪いがかけられている」。「笑いを通じてしか、自分は表現出来ないのではないかと思っている」、と。私もアレン作について、そのように理解していた。もちろんシリアスな作品もあったけれど、それでも今回は、彼の作品のトレ−ドマ−クである、「ユ−モアによって人生の苦味をまぶしていく」ような逃げの一切無い作品だった。

今回もまた“アレンが出演していないアレン作”。私は、アレンが出演している作品も十分に楽しめているから、「彼が出演していない作品の方が面白い」などと言う気はないんですよね。でもやはり、この作品の傑作ぶりは、『カイロの紫のバラ』同様に挙げられる作品になりそう。『カイロ〜』では現実の厳しさと幻想について描いたファンタジ−であったけれど、こちらはそんな逃げ道を用意することも無い。この先、ネタバレで語ります。***************

ラストに至るまでにヒロインの精神が少しづつ崩壊し、最後とうとう精神に異常をきたしてしまう。この辺りはまるで、テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』。この構造はどこかで見たな、と思いつつ、見終わって1時間後位に突如「あっ!あれは『欲望という名の電車』だったんだ!」なんて叫んでしまった。

セレブ人生から一気に転落し、心機一転を図ったジャスミン。妹と同居のシカゴ生活は、初めからどことなく居心地が悪く、何かと歯車が噛み合わない。それにしても、冒頭のシカゴにやって来たところで私は驚いた。いつも通りのアレン映画らしく、自分の境遇についてペラペラと喋るジャスミンとそれを聞いているオバサン。飛行場の荷物受け取りのベルトコンベアーのところで、ジャスミンが去った途端そのオバサン曰く、「今の人、聞いても居ないのにベラベラうるさいのよ」と一言。あれっ?いつものアレン映画では、知らない人もお喋り好きで、その場で何かと話に加わるのが普通。そうしたアレン映画の陽気さがまた好きだった。それなのにジャスミンに対し、こうした痛烈な一言を浴びせる台詞は、まるで「これは、いつものアレン映画とは違うんですよ」「いつもよりビタ-なテイストで行くんですよ」とまるで前提条件を提示しているかのように思えた。

ジャスミンの新・人生設計は、いかにもありそうではある。まるで今まで働いたことのない主婦の誰もが、思いつきそうな計画。“やりたい職業を目指したいところだが、それはお金がかかるので、まずオンライン講座を受けるためにパソコンを習う”だなんて。母親世代にはいかにもありそうで、その絶望的な遠回りに思わず苦笑してしまう。そして、その後もジャスミンやその周りの人間の繰り出す、歯車の合わない会話に思わず笑いが漏れてしまうけれど、笑っていられるのは途中までだった。だんだんその痛さ、そして人生のままならなさに、笑っていることが出来なくなる。痛さや辛さにギリギリと心が締め付けられていく。

ジャスミンは、こうした人生設計を胸にやり直しを図りながら、過去を少しづつ反芻するかのように、彼女の昔の姿が差し挟まれる。思い出しながらつい独り言が増える姿は、初めこそ笑ってしまったけれど、いやいやだんだん笑えなくなってくる。むしろ、自分も思い出しては後悔の言葉が、つい口について出てしまうことだってある。…。そして彼女は、まるで全てが見えていなかったかのように、少しづつ過去の古傷を反芻していく。そして見えてくるのが旦那を追い込んだ彼女自身の罪。まるで今さっきそのことを理解したかのような描写。これが心底恐ろしい。彼女の過去と現在の新たな傷がバ-ストするシ-クエンスが見事だ。もちろん、ケイト・ウィンスレットの演技も最高なら、今まで泣いていたような顔の化粧の落ちぶりも見事。マスカラの取れ方も、赤くなった目も。こういう完璧な演出が見たいんですよ。

ラスト、廊下を映したカメラの辺りで鳥肌が立った。妹とチリがイチャコラしてる部屋のラブラブさと対照的に、カメラが廊下の突き当りの玄関まで来ると、そこから家を出るジャスミンの後ろ姿が映る。カメラがまるで二人の命運を分けるかのように、スプリットっぽく2つに分かれるようになってて、家から出るとベンチに座る、完全に異常な姿のジャスミンの姿。それであの顔演技ですからね。あの瞬間メチャ怖かった。

ウッディ・アレンに夢中だ!私は、映画監督や俳優がどんな性格であるかなんて気にしませんね。彼の女性関係、とりわけ養女に関することに対しても。谷崎文学の愛好者の私としては、「さもありなん。人間は所詮皆変態なんですよ…」なんて言いそうになるのですよ。ハハハw、まあそれは冗談だけれど。

これまでもアレン作で鬱を患っている人物はあった。『ハンナとその姉妹』のアレンがまさにその通り。自分に脳腫瘍があるのではないかと疑っていて、実は強迫神経症に陥っている。また、年老いた自分に向き合い、鬱症状に似た症状が少しづつ進んでゆく物語であるなら、『私の中のもうひとりの私』と比較せずにはいられない。ここでのジーナ・ローランズこそ、“もう一人のジャスミン”だ。一方、男達が次第に破滅していく物語であるなら、『カサンドラズ・ドリーム 夢と犯罪』(公開時のタイトル、『ウディ・アレンの夢と犯罪』がDVD化されるに当たり、タイトルを変えた様。)が挙げられる。精神的に少しづつ崩壊していく訳ではないけれども、明日への輝かしかった夢がまさに悪夢へと姿を変える瞬間が恐ろしい悲劇。こちらの会話劇でも、室内劇でもなく、屋外での撮影を行っている。『カサンドラズ・ドリーム 夢と犯罪』が男の破滅物語であるなら、『ブルー・ジャスミン』は女性の破滅物語として双璧を成す作品と言えるかもしれない。

『映画と恋とウッディ・アレン』は最後、ウッディの一言で締めくくっている。「やりたいことは全て叶った、幸せな人生だった。それなのに、人生の落伍者のような気分で居るのはどうしてなのだろう。」こんなウッディの人生観を鑑みさせるような、まさに彼の真骨頂のような作品だと思う。

’13年、アメリカ
原題:Blue Jasmin
監督・脚本:ウッディ・アレン
製作:レッティ・アロンソン、スティーブン・テネンバウム他
製作総指揮:リロイ・シェクター、アダム・B・スターン
撮影:ハビエル・アギーレサロベ
キャスト:ケイト・ブランシェット(ジャスミン)、サリー・ホーキンス(ジンジャー)、アレック・ボールドウィン(ハル
)、ピーター・サースガード(ドワイト)、ルイス・C・K(アル)、ボビー・カナベイル(チリ)、アンドリュー・ダイス・クレイ(オーギー)、マイケル・スタールバーグ(ドクター・フリッカー)他

 

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コメント(9件)

  1. とらねこさん☆
    うんうん、これはとにかく傑作でしたねー
    途中、てっきり出会った彼に騙されるのかと思っていたので、そこも絶妙なオチだったわ。
    その後・・・を考えるとなお、胃がキリキリしてしまうけど。
    人はどこに「幸せな気持ちになる」標準を持ってくるかによって、生き方から幸せ度まで違ってきちゃうのだなーとしみじみ思っちゃいました。

  2. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    おお、ノルさんもご覧になっていたんですね。
    出会った彼に対しては、彼女の魅力で十分通じていたはずであったのに、彼女が本当のことを伝えず、嘘の上塗りをしてしまうことで、真実から遠ざかってしまったと思います。
    彼女の嘘は別の視点から見れば、理解できないほどの嘘でないだけに、おそらくは潔癖主義者である彼の、理想家としての姿が透けて見えますね。だからこそ彼は結婚に行き遅れてきたという部分もあると思いますが、彼のような狭い了見で人を判断する人には、あり得ない嘘であると感じる気持ちも分かる気はします。

    彼女のその後…彼女は精神的にすでに終わっていると思います。肉体の死ではなくても、精神的に死を迎えていますよね。

  3. このタイミングでブルームーンがかかりますか「ブルージャスミン」


    『ブルージャスミン』(Blue Jasmine)

    監督 ・脚本
    ウディ・アレン

    出演
    ケイト・ブランシェット(Cate Blanchett, 1969年5月14日 – )
    サリー・ホーキンス(Sally Hawkins, 1976年4月27日 – )



    PRを…

  4. ウッディ・アレンもんはハズレが少ないですね
    今回もハズレではなかったです
    とゆーか こーゆー感じの不幸話を
    あの年齢で作れるのは凄まじいことだなと思います
    いくつになっても 幸福の居心地の悪さにモソモソしてる感じとノイローゼの居心地の良さとかがですね

    この映画のサウンドトラック欲しいところです

  5. よしはらさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    ですよね。外れが少ないです!いつもそれなりに面白いんですが、今回は皮肉がものすごく効いていて痛い作品で。最高でした。

    ですよね。あの年齢で作ったということは、自己批判やら、自分自身の恐怖に置き換えた作品だったのだと思います。
    サントラ欲しくなっちゃいますよね。ひとまずブル−ム−ンが欲しいです。

  6. ウデイ・アレン大好き!ケイト・ブランシエット大好き!な私にとって最高の映画でした~
    それもイタリア旅行の飛行機往復の飛行機の中で2回も観ることができるなんて!

    そうそう「欲望という名の電車」を思い出しました。(虚飾やプライドに囚われ、精神に異常をきたすストーリー)
    でもこの監督の手にかかると別物ですね。軽快でシニカルで最後はジーンとくる・・・・。
    ブランシエットの演技も秀逸!どんなに落ちぶれてもシャネルを着てエルメスのバッグを持つジャスミン!
    レベルは違うけど女性特有の精神構造に納得!もろ感情移入しちゃいました~

    蛇足ですが、イタリア旅行も最高!青の洞窟も見学でき、
    ブランドショッピングも・・・・・・。
    もしフィレンツェに行かれることがあったら、日本人女性がオーナーのバッグショップ(ウイッツイ美術館そば)紹介しますよ~ブランドバッグ格安にしてくれます。

  7. cinema_61さんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    cinema_61さん、なんと往復の飛行機の中、2度もご覧になられたのですか!すごい!

    やはり『欲望という名の電車』ですよね!でも、
    >でもこの監督の手にかかると別物ですね。軽快でシニカルで最後はジーンとくる・・・・
    これ、本当に同感です。私も、あのシニカルさが深く深く刺さりました。
    ブランシェットの演技、本当に素晴らしかったですよね!CG無しで顔の筋肉を動かすだけで、これだけの顔の違いを表現できるなんて。

    イタリア旅行、私も実は13年ほど前に行ったことありますよ〜!お天気にも恵まれましたか?
    青の洞窟、見学出来たなんて本当にラッキーでしたね!私も行ったことありますが、ちゃんと見れることはなかなか無いと聞きました。なのでわざわざ、ちゃんと見れるのが何月なのか調べてから行ったのですが…結果、バッチリ見れました!「3度行って駄目で、今回4度目だ」なんて言ってた人が居ましたよ。
    ウフィッツィ美術館も行きましたよ〜。ただ、ブランドバッグは興味無いんです。ごめんなさい。でも、ありがとうございます!
    何にせよ、イタリア旅行楽しまれたみたいで。素晴らしいですね!

  8. 相変わらず自虐的ですよね。素晴らしき自虐。
    この映画を上から目線と感じる人は、たぶん自分の中にあるジャスミン的な部分を無意識に感じ取って、拒絶してるんでしょう。
    アレン翁の鋭い批評眼は自分にも、観客にも向けられていますから。
    誰もがちょこっと心が痛い映画だと思います。

  9. ノラネコさんへ

    私も自虐だと思いましたよ。あと、中には“女性に対する蔑視”という意見を口にする人もいましたね。
    私は、むしろアレンて女性の心理を描写するのに優れている人だと思うんですが。
    女性目線は長年描いてきましたしね。

    >この映画を上から目線と感じる人は、たぶん自分の中にあるジャスミン的な部分を無意識に感じ取って、拒絶してるんでしょう。
    ああ、そういうのもあるかもしれませんね。

    私はむしろ、痛い思いをさせられる映画こそが一番好みだったりしますが^^; 珍しいのかな〜。




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