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宮崎駿の渾身のメッセージ 『風立ちぬ』

main_img_1圧倒されてしまった。宮崎駿監督、久しぶりの傑作来ましたね。『千と千尋の神隠し』以来の大傑作。
「やっぱりパヤオって大天才だったんだ!」とまざまざと実感してしまった。

『ハウル~』以降(私はハウル好き)、ジブリの他作品含め何かとdisられ続けてきた宮崎駿。でも今回こそは、誰もが認める途方も無い大傑作が来た!と思ったのに、開けてみるや意外にも賛否両論。よく、後世に大傑作とされる作品について、当時の人には酷評を受けたり賛否両論だったりすることがあるじゃない?「当時の人って、見る目がなかったのね」なんて思うけれど、それをリアルタイムでちょうど今、経験している気持ち。今酷評している人たち、きっと今から15年後位…もしくは駿が亡くなった後に、改めて考え直すに違いない。そしてその頃になって、この作品の凄さを言及するんだろうな。

自分と同時代に現在生きる、稀有な天才アニメ作家の遺言のような大傑作。

画が動くのが、それだけでもう素晴らしくて。冒頭の15分ぐらいですでに鳥肌が立ってしまった。夢と現実が自由に交錯しその境界線も無い。流れるように繋がる様がまさに映画的なのです。無駄なシーンもなく、風がずっと吹き続け画が動き続ける。それを見ているだけでいかに彼が素晴らしいアニメーション作家であるかが分かる。ストーリーうんぬんじゃなくて、もっと違うレベルで感激してた。画が動くっていう、これがいかに素晴らしく、それだけで心動かされるものであるということを、改めて感じさせられてしまって。映画で言えばカメラの動きみたいな部分は、アニメだから“画の繋ぎ方”になるんだけど、これが本当に凄かった。映画で言えば『ブリキの太鼓』みたいな、あのカメラの動き、書割のような途方もなさ。一つのシーンから対象物を動かしていき、次のシーンへと不思議なばかりに繋がって、物語が語られていく。この驚くべき書割にただ呆然と見入ってしまう。

何度も見た4分間の予告の、紙飛行機の動きで見せたサイレント映画的な美しさなんて、涙を誘うほど美しいの。風の吹く草原、泉での邂逅から、振り返ると虹が見えるところからのあの紙飛行機。それからただただ悲しい恋の、その純愛が実る様。ヒロインは『雪の女王』で宮崎駿を夢中にさせたような、一途で純粋な美しい肖像のような人。彼女に関しては、とことん理想像としてどこまでも美しく描かれている。今の私達日本人女性には到底見出だせないような、純粋無垢な古風の大和撫子。二次元の女性ってそれだけで理想化した姿なのだろうけれど、この究極の、そして永遠の美しさを留める彼女の何と尊いこと。

一番私が感銘を受けたのは、彼の作家としての覚悟の部分だったな。2年前の震災以降、“作家”として何を描き何を残していくか…。考え抜いた挙句の書下ろし作品という気がして胸を締め付けられる。未曾有の震災の後に、これまでと変わらないようなファンタジーは描きたくない、と本人が語ったように、そんな覚悟のぎっしり詰まったもの。日本人の心の奥底に響くようなものでありながら、自分の憧れを精一杯詰め込んだ贈り物みたいな作品。反戦のイデオロギーというよりはその時代の人たちが「ではどう生きるか」という問題。そんな話に思えたから私には決して右寄りとは思わなかったな。何より、震災を生き延び家族や友人を亡くなった人たちに、何としてでも「生きねば」というメッセージ。「美しくも呪われた夢である」と何度も繰り返すように、飛行機に憧れる青年の真っ直ぐな気持ちと、戦争に突き進んでしまった全ての日本人の責任と…。美しさの隣に死があるからこそ、より美が強調され濃厚に香っていく。最後に、「風が止まった」と二郎さんが言うシーンでハッとした。駆り立てられていたものから、ようやく開放された気持ち。好きな人が待っている場所…。

ちなみに庵野さんの声について。「だーれが風を見たでしょう」という、ヘッタクソな朗読。棒読みもこれ以上無いぐらいの棒読みを聞いて、思わず予告でクラクラしてしまった。実際、主人公の二郎さんの声が、少年時代から突然変わった時に、「ゲッ」と思ってしまったけれど。でも、こんな声の持ち主を、アニメに起用しようだなんて、目の付け所が変わってる!最後まであの声は好きではなくて、抱きしめる際に息を抜いて「好きだよ」なんて言う時は、思わず気持ち悪さにゾゾゾとなった。時々変に気持ち悪い声を出すのよね。でも、これがもしイケメンボイスだったら、と考えると。それでは普通のアニメに思えてしまっていたかも。イケメンで頭も良くて、さらに声もカッコ良い二郎さんだったら、そんなモテモテな人がこんなに飛行機にばかり打ち込んでるなんて、説得力なかったかもしれない。庵野さんの非モテな声がちょうど良いのかも!

“後世に残すべき大傑作”を作ってもなお、今後の宮崎駿はまだまだやってくれそう。また巨匠のこれからの作品が、楽しみでたまらなくなった。

’13年、日本
監督・原作・脚本:宮崎駿
プロデューサー:鈴木敏夫
製作担当:奥田誠治、福山亮一他
作画監督:高坂希太郎
音楽:久石譲、主題歌:荒井由実
キャスト:庵野秀明(堀越二郎)、瀧本美織(里見菜穂子)、西島秀俊(本庄)、西村雅彦(黒川)、スティーブン・アルパート(カストルプ)、風間杜夫(里見)、竹下景子(二郎の母)、志田未来(堀越加代)、國村隼(服部)、大竹しのぶ(黒川夫人)、野村萬斎(カプローニ)

 

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コメント(7件)

  1. まだまだご活躍いただきたいんですよね。宮崎監督には。
    だからこれで終わってほしくはないです。
    何だかんだ言っても、夢の提供者として、彼を超える人物は当分現れないように思いますから。

    90年前、あの当時、何もかもが絶望にしか行かなかった時代、誰が今日のように豊かな日本を想像したでしょう。多くの人間が無残にも夢を断たれ失意の下に死んでいった先の大戦。当時の若者が今の日本を見たら、何と贅沢なと言うに違いないでしょう。
    結核は制覇されて経済的にも豊かになり、何の障害もなく夢が叶う時代にあっても、生きる指針を見い出せない日本人。豊かだから故に夢を叶えようと思わないのは、何とも皮肉な話です。

  2. 宮崎氏の半世紀のキャリアの中で、これほど本人と作品が一体になった物を観た事はありません。
    二郎と作者が何度も重なって観えました。
    これは飛行機という呪われた美に魅せられた二郎を通して、宮崎氏自身がなぜアニメを作り続けるのかを描いた作品でもあるでしょう。
    この時代にあって、彼の風はなんだか強くなっている気がします。

  3. rose_chocolatさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    本当、駿監督はまだまだやれるパワーがあると思うんですよね。
    “ファンタジーを捨てる”という新たな手法を得たおかげで、かえってまた、クリエイターとして一段違う境地に立つことが出来たように思えます。

    >豊かであるが故に夢を叶えようと思わない
    恵まれすぎていて、憧れとして手を出すべき何かを見失ってる私達、ということでしょうか…
    一方、駿監督自身の強い憧れが反映された作品でしたね。

  4. ノラネコさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    宮崎駿監督自身の強い憧れ、何をどのように好きなのか、たくさんの愛を持って描いていましたよね!ええ、ええ、宮崎駿監督自身の姿を彷彿とさせられます。

    >これは飛行機という呪われた美に魅せられた二郎を通して、宮崎氏自身がなぜアニメを作り続けるのかを描いた作品でもある

    作家として、美しいものだけがイマジネーションの内にある訳ではないでしょうね。
    彼の風が強くなっていること、私も感じます。
    その風の先に何があるか、まだまだ見せてくれそうですよね。




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