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蘇る近代の姿 『汚れなき祈り』

be8ccc4b23b17c3dedb291a8120fae6d4ヶ月、3週と2日』のクリスチャン・ムンジウ監督。この名前だけで、覚悟すべきものはあったのですが、これほどまでに歯ごたえのある作品とは。いやはや、天晴です。またもやってくれた。『4ヶ月、3週と2日』もルーマニアの歴史的背景を知らないと、分からないのではないか…とかなり不安に思いながら観たのを思い出す。でも最後には、なんと驚くべき物語が語られたものだろうと、ずっしりとしたその手応えにすっかり魅了された。この作品とちょうど同じように。またこの監督の作品が公開されたことを本気で喜びます。



今回はですね、さらに輪をかけて難しいとすら思う。テーマは「悪魔憑き」。
「魔女裁判」や「悪魔憑き」などについては、中世の教会でどんな風に行われていたのか、どんなに想像してもどうも正体が分からないのものだった。

見ている間はずっと、この作品の中でいったい何が描かれているとも分からず、ただただ語られていく物語に目を離せずにいるばかりで。「尼僧院の中ってこんな風になっているのか」などと興味深く見ていた。

信心深い尼僧たちが悪意からではなく「恐れ」から、不信心者を監禁していく。本当は居場所の無い、ただの傷ついた女性であるけれども、実際には彼女たちの目には、明らかに異端者であり、地獄を見た者に映る。彼女は実際に地獄を見たのだと思う。現代人の我々が住んでいるまさにその社会の底辺で、堕落していったのだから。

「悪魔憑き」のリアルな姿。

 

自分の信心深さに自信があればあるほど、近代医学から乖離していく。

現代には思いも寄らないような、「悪魔憑き」をどんな風に扱っていたのかをまざまざと描くこの作品は、まさに目の前で近代が再現されたかのよう。圧倒的なタッチで描いていて、驚いてしまいます。凄い。

 

冒頭にも書いたけれど、ヨーロッパ映画など、時に私達には難しく映ります。なぜなら、物語の背景を理解すべき知識を持たずには、そこに何が描かれているかというテーマをしっかりと把握することが難しく思われるから。

でも例えばこの作品のように、宗教を視点に置いた作品にアレルギーがあると、ほとんどの作品の理解を放棄しなければいけないはめになってしまうんですよね。自分の場合は、英米文学を理解するために、というそれだけの目的で、聖書を始め何冊もキリスト教関連の本を読んだけれども、結局聖書の世界は深すぎて到底理解に及ばない。だからと言ってこの分野を苦手扱いなどしたら、映画など見れなくなってしまうも同然なんですよ。

この作品は、普段入り込めない尼僧院の内側から描くという視点によって、「キリスト教信者達に対するレッテルや思い込み」に鋭く切り裂く作品となっています。あえて懐疑主義者である自分達がこれを見ることは、何とも言えず凄い体験になった。

『サラエボ、希望の街角』のように、イスラム教原理主義者に夫が傾倒していく姿を間近で見る妻の視点を描いた作品があったけれど、あの作品と同じように、「こうした作品こそ見て良かった」と言うイメージ。

神学を専攻した方や、自分を信心深いキリスト教であると自負する方には、是非見て欲しい、渾身の人間ドラマでした。

’2012年、ルーマニア、フランス、ベルギー
原題:DUPA DEALURI
監督・脚本・製作:クリスティアン・ムンジウ
原作:タティアナ・ニクレスク・ブラン
撮影:オレグ・ムトゥ
キャスト:コスミナ・ストラタン(ヴォイキツァ)、クリスティーナ・フルトゥル(アリーナ)、バレリウ・アンドリウツァ(牧師)、ダナ・タパラガ(尼僧長)

 

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