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58★これは映画ではない

’11年、イラン
原題:In Film Nist
監督・撮影:ジャファール・パナヒ、モジタバ・ミルタマスブ
キャスト:ジャファール・パナヒ

 

前代未聞のタイトル「これは映画ではない」。予告を見ている内につい、見たくなってしまったこちらの作品。”映画”と”映画でないもの”を考える上でも、なんだか面白そうな気がして。



2010年に「懲役6年、映画製作20年禁止」を言い渡されてしまったイランの監督、ジャファール・パナヒ。反抗精神が満載なものを期待して見たけれど、なんだか珍妙な物を見たなあという。

確かにこれは映画ではなかった。でも脚本を読むだけで浮かび上がってくるものは間違いなく「映画」的代物。ホン読みを監督が途中で虚しくなりやめてしまった理由も、分かる気がする。よく考えてみれば、50歳で「今後20年間映画撮影禁止、海外逃亡も禁止‥etc」等の宣告を受けてしまうことは、映画製作を生業とする人にとって、事実上死刑宣告を受けたも同然なんですよね。本来ならば、怒りや焦燥感を感じないはずはない。

去年、アスガー・ファルハディ監督の『別離』がアカデミー賞外国語作品賞を受賞し、アッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』が日本で公開している現在。そしてつい先日は、イラン政府が、反イスラム映画を製作したことでアメリカを非難し、アカデミー賞不参加を表明したばかり。なんだか、いろいろイラン映画近辺が騒がしくなって来ている。そんな中、現在もずっと自宅軟禁を余儀なくされている監督の気持ちは一体どんなものなのだろう。

2006年の『オフサイド・ガールズ』。これは、映画を作れない葛藤を描いた『これは映画ではない』に、思いの他ソックリで驚いた。ワールドカップ出場をかけたイランバーレーン戦。サッカー観戦を禁じられた女性たちを描いた、一度もサッカーシーンが出てこないサッカー映画と、映画が作りたくても作れないジャファール・パナヒによる「映画でない映画」が重なって見えた。

監督自身による自撮り映画というと今年、キム・ギドクの『アリラン』を見た。キム・ギドクは自分の精神状態から映画を撮れなくなり、自身と対話することで作品中で自分を追い込んでゆくけれど、こちらのパナヒ監督は、「映画が撮れない」という状態で、事実上、手足を縛られている。『アリラン』では脱却の糸口がどこかを探ることができたけれど、こちらでは自身ではどうにもならないイラン映画界の政治的実情が絡んでいる。

この作品はドキュメンタリーであるのだけれど、極めてシンプルにナレーションを排し、監督の現在の姿を、現実時間と同じ刻を刻んで進んでゆく思い切ったアプローチ。ヒッチコックの『ロープ』のように、まるで、観客すら同様に共犯関係に陥るかのような効果を上げている・・かもしれない。「映画製作は禁止、映画脚本を執筆することも禁止、メディアとのインタビューも禁止・・つまり、脚本を読むのは違反ではない」とする。朋友のミルタマスブ監督がメガホンを撮り、パナヒ監督を撮影する。彼の「カメラをずっと回し続けることが大事だ」との確信に熱いものを感じた。

ゴミ収集の管理人の弟さんが来て、いよいよカメラを手に、彼を撮影し出すところは、不思議とワクワクしてしまう。iエレベーターでゴミと一緒に「旅をする」瞬間。悪臭を道連れに(笑)。それなのに、とうとうカメラを手にした、そんなワクワク感の方が大きくて、不思議と「自由な精神」を感じてしまう。

この後、実はカメラを回してくれたミルタマスブ監督が捕まってしまう。HPに詳細が(→ コチラ)。彼もまた刑務所に入れられ、釈放になり現在は自宅軟禁。パナヒ監督の減刑は一切認められず、今も自宅軟禁が続いているという。なんだかますます、イラン映画を見たくなるという不思議な気持ちになってしまった。

 

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