rss twitter fb hatena gplus

*

22★マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

’11年、イギリス
監督: フィリダ・ロイド
脚本: アビ・モーガン
製作: ダミアン・ジョーンズ
撮影: エリオット・デイビス
キャスト: メリル・ストリープ、ハリー・ロイド、ジム・ブロードベント、アンソニー・ヘッド、リチャード・E・グラント、ロジャー・アラム、スーザン・ブラウン、オリビア・コールマン、ニック・ダニング、ジュリアン・ワダム、アレクサンドラ・ローチ、マイケル・ペニントン、デビッド・ウェストヘッド、リチャード・ディクソン、ヒュー・ロス



実在の人物を描く時はいつも「伝記」でなくてはいけないの?

J・エドガー』にしろ、この作品にしろ、政治家を個人として描いたことで同じように非難されているようだ。だが私は、それとは少し違う見方をして、心に残る作品となった。

私には、ある一人の老女が、晩年に旦那さんを失い、心のバランスを崩した物語。そんな風に見て取った。
この作品で描いているのは、決して「ありのままの現実」ではない。「彼女の意識」が流れるままに、物語は進行してゆく。
現実世界と彼女の意識は、もはや完全には噛み合っていない。心の傷が大きいせいもあるし、認知症を患っているせいもある。

実際に認知症を患っていたら、あんなふうに意識が流れるのだろうか。私の祖母も生前、やはりそうだったのだろうか。そんなことをぼんやり思いながら。
時間軸の流れと目の前の現実が一致せずに、苦心している。そんな彼女の意識を、内側から描いた作品。そんな風に思った。カメラもストーリーも、彼女の意識の内側から描いているので、時間軸もぼんやりとして、重なっていたり、飛び飛びになっていたり、走馬灯のように人生を思い出したり。

特に好きだったのは、死んだ後も旦那さんが、生き生きと陽気にくだらない冗談を言って、彼女を元気づけるところ。
あまりに生き生きとした姿なので、死後すぐの頃は、ついついそれに答えてしまう。物語が進むうちに、旦那さんはもう死んでしまったのだ…自分は理性を信じる人間であるはずだ。そう強く考えて、ギュッと目をつぶって、開けて見たりする。
しかし、気づくと声が聞こえたり、別の方向から来たりする。居ないのは寂しかったり、ふと現れて余計にまた自分の意識が混在してしまったり。

死んでしまった旦那さんの幻影に「お別れ」をするのは、相当つらいことだっただろうと思う。いつも一緒に居るのが当然のようになっていて、忙しい毎日の中では、彼の有り難さを本当の意味で分かっていなかったのかもしれない。
陽気で、風変わりで、自立心の強い彼女を、若いころからずっと、丸ごと愛してくれた旦那さん。

羨ましいなあと思った。理想の夫婦、と言ったらおかしいけれど、老後はこんな風になれたら最高に幸せだなあ。そう思って、涙が止まらなくなった。何十年という長い年月を、思いやりを持って、夫婦が添い遂げるのはすごく難しそうだ。ついつい刺のある言葉を相手の気持ちも考えずに放ってしまう方が、よっぽど簡単なことで…。いつもユーモアを忘れず、長い年月を二人で乗り越えて。あんな風に死後も思い出すような、そんな間柄になれたら素敵。

あの爆破事件では、彼に何事もなくて本当に良かった。「俺の靴がこんなにボロボロになっちゃったよ〜」との第一声に、涙の流れた顔をぐしゃぐしゃにして、ブブーっと鼻水を噴き出した。「ドリフじゃないんだから!」と思ってしまって。死にそうな目に遭った時にあんな面白い事言える旦那さん、最高だな。

彼女の政治について描こうとした話では、明らかにないのだ、と私は思う。

「the Iron Lady」という原題も、こう呼ばれた人の、全く「Iron」ではないその内面。弱さを彼女が感じたのは、「Iron」でなかった時は、旦那さんの死に側面した時だけだったのかもしれない。

メリル・ストリープの演技がとても素晴らしくて、私はそれだけで心を奪われてしまった。メリル・ストリープはいつも凄いなあ、と思えるけれど、彼女が演じているから、余計に愛され上手な首相に思えてしまう。

自分も老後にこの人で良かった、と思えるような関係を築けたらいいなあ。目指せチャーミーグリーン!

・・・早くも夫に先立たれた後のことまで考えて、悲しくなってしまった私でした(爆)

結婚まだだけど。。

P.S. そうそう、若い頃のデニス(旦那さん)を演じたハリー・ロイド。この人、チャールズ・ディケンズの曾曾曾曾孫らしいですね。へえ〜!今度の『ジェーン・エア』にも出てくるらしい。ちょっと楽しみだなあ。実は、監督さんのフィリダ・ロイドと同じ名字だったので、関係あるのかな、と思ってIMdbを初めいろいろ探してみたんだけれど、彼女の血筋とは関係ないのかしら。全然それらしき情報は出てきませんでした〜。

 

※ストーリー・・・
政治家を志すマーガレットは、初めての下院議員選挙で落選してしまう。そんな傷心の時期、彼女の前に事業家デニスが現れる。ふたりは時をまもなくして結婚。マーガレットは、幸せな家庭を築くと同時に、政治家として大成し、遂にはイギリスの首相となった・・・

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙@ぴあ映画生活

 

関連記事

『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究

去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む

『AMY エイミー』 今世紀一番ロックだったひと

エイミー・ワインハウスの名前は正直言って聞いたことがある程度で、特にフ...
記事を読む

『極私的エロス 恋歌1974』 40年前の日本女性の逞しさに惚れる

『ゆきゆきて、神軍』を撮った原一男監督作品。シネマヴェーラの「フィクシ...
記事を読む

20年来の愛を超えた告白 ツァイ・ミンリャン最新作 『あの日の午後』

何なんだろう、この愛は。最新作がこんな愛剥き出しの告白とは。驚き呆れ果...
記事を読む

ジャファール・パナヒ 『タクシー』 現実か否か?

東京フィルメックス映画祭にて鑑賞。 『チャドルと生きる』、『オフサイド...
記事を読む

924

コメント




管理人にのみ公開されます

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)


スパム対策をしています。コメント出来ない方は、こちらよりお知らせください。
Google
WWW を検索
このブログ内を検索
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ

結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...

【シリーズ秘湯】乳頭温泉郷 鶴の湯温泉に泊まってきた【混浴】

数ある名湯の中でも、特別エロい名前の温泉と言えばこれでしょう。 乳頭温...

2016年12月の評価別INDEX

年始に久しぶりに実家に帰ったんですが、やはり自分の家族は気を使わなくて...

とらねこのオレアカデミー賞 2016

10執念…ならぬ10周年を迎えて、さすがに息切れしてきました。 まあ今...

2016年11月の評価別INDEX & 【石巻ラプラスレポート】

仕事が忙しくなったためもあり、ブログを書く気力が若干減ってきたせいもあ...

→もっと見る

【あ行】【か行】【さ行】【た行】 【な行】
【は行】【ま行】【や行】 【ら行】【わ行】
【英数字】


  • ピエル(P)・パオロ(P)・パゾリーニ(P)ってどんだけPやねん

PAGE TOP ↑