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7★J・エドガー

’11年、アメリカ
原題:J.Edgar
監督: クリント・イーストウッド
脚本: ダスティン・ランス・ブラック
製作: クリント・イーストウッド、ブライアン・グレイザー、ロバート・ローレンツ
製作総指揮: ティム・ムーア、エリカ・ハギンズ
撮影: トム・スターン
キャスト: レオナルド・ディカプリオ、ナオミ・ワッツ、アーミー・ハマー、ジョシュ・ルーカス、ジュディ・デンチ、ジェフリー・ピアソン、ジェフリー・ドノバン

 



これはまたまた賛否両論になりそうな、思い切った作品だ。珍作とすら言えると思う。日本においてはともかく、アメリカにおいてはとてつもない拒否反応が出そうだ。「イーストウッドって、本当に怖いものが無いんだなあ」と胸のすく思いすら湧いてくる。見終わった後、目に涙を溜めながら階段を駆け降りて行ったのだけれど、どこか嬉しい気持ちでいっぱいだった。「これって、やはりアカデミーノミネートされなかったんですね。ディカプーはやっぱりアカデミーに嫌われているのか…」なんていうレベルでは全くないよねw。

FBIの礎を築いた、初代FBI長官、J.エドガー・フーバーの半生を描いた物語。FBIについてというより、人間・エドガー・フーバーに焦点を絞った、この思いきりの良さがすごい。 「これ、どこまでが本当なんだろう?」なんていう声が聞こえて来そうだ。しかし私にとっては、フーバーについて徹底的に調査に調査を重ねた、ドキュメンタリー本、アンソニー・サマーズの『大統領たちが恐れた男ーFBI長官フーヴァーの秘密の生涯(上・下)』、この本を以前に読んでいたので、この作品の選んだやり方は容易に想像できるし、正しいものだったと思う。(疑問に思う方は、是非読むといいですよ!本当に面白いし、ジャスティン・ランス・ブラックは絶対この本を読んでいるとしか思えない。今は絶版で、中古品しか手に入らないけれど、まだあります。急いで!)この映画は端的に事実を描きながら、決して誤魔化すことなく、強調しすぎることがなかったと思う。女装趣味やもっぱら噂だった同性愛疑惑、マザコンに関しても、とても簡素な描き方をしていた。それでいながら慈愛に満ちた、不思議な温かい視点を感じさせ、哀しさと寂しさで胸がいっぱいになるラスト。このラストが特に好きだ。

正直言えば、個人的には大嫌いだったこのフーバーという人物に対して、こんな気持ちになるとは思わなかった。その愚直さも頑固さ、人間的卑小さをそのままに描きながら、それを全て超越して人間の哀しさを感じさせ、彼の内なる悩みや秘めた思いを、とても近しいものに感じさせられた。彼を思って泣くなんて。表立っては次々と変わる大統領たちに恐れられ、その地位を半世紀ほどといった驚くべき長さで君臨した、権威と脅威の象徴だった男。アメリカの恐ろしい闇の部分すら、それ以上の濃い影でもって制圧した、恐るべき実力者。表立っては彼ほど象徴的とされた人も居ないかもしれない。

トルソンとの面接のあのハンカチを差し出す場面や、トルソンを自分の直属の部下にするシーンがとても好きだ。『ソーシャル・ネットワーク』のあの双子役が眩しかった、アーミー・ハマーの端麗な身のこなし!フーバーの片腕として汚い役もこなしながら、最後まで彼に仕えたトルソン。

正直、文句を言いたくなるところがあるとすれば、レオもアーミー・ハマーも老けメイクが全然似あっていないところ。少しだけコントっぽく映ってしまう。個人的には『眠れる美女』(’68年)の田村高廣にように思えてしまった。トルソンが殴りかかると見せかけてキスするシーンでは、思わず噴き出しそうになってしまったし、私以外の他の人も、何人かが一斉に爆笑していた(ごめんなさい)。いや、もちろん、その後すぐに哀しさが伝わるシーンではあるんだけどね。他人の喧嘩って真剣になればなるほど、なんだか可笑しくもなるじゃない?そういう人間の矛盾も、きちんと描いているところがすごいのだけれど。

老けメイクで素晴らしかったものと言えば、『ベンジャミン・バトン』を思い出すけれど、まさかそこまでお金をかけることも出来ないものね。レオもアーミー・ハマーもすごく頑張っていたと思う。全体的には、とても満足の行く、人間味溢れる物語だった。

イーストウッドは、本当に大きいなあ。脚本のジャスティン・ランス・ブラックも、本当に核心を突く素晴らしい物語を、効果的に描いていて見事。最近のイーストウッド作品は、驚きに満ちていて、何が出るか分からない楽しみでいっぱいだ。いよいよもって面白い。

 

※ストーリー・・・

弱冠29歳で捜査局長官となったフーバーは、組織内を改革し、連邦捜査局を米国内における最高の諜報機関へと成長させる。やがて、フーバーは自らの権力と組織の諜報能力を利用し大統領や政治家らを裏から操るようになるが、彼は生涯が苦悩に満ちていき・・・

J・エドガー@ぴあ映画生活

 

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コメント(16件)

  1. こんばんわ
    >>この映画は端的に事実を描きながら、決して誤魔化すことなく、強調しすぎることがなかったと思う。
    ボクもそのように感じました。物語は淡々と進んでいくのに退屈にならないというか
    ふ~ん・・・って見れました
    ボクはドキュメンタリー本も知らないし、正直この人の事をまったく知りませんでした
    だから「FBIを創った男、大統領が恐れる男」なんて聞くと、もっと陰謀渦巻く
    謀略、策略、権力、ごった煮のフーパーがのし上がっていく話なのかと思ってましたが
    もっと個人寄りのパーソナルなものでしたね

    エドガーとトルソンの関係もさることながら、何故ミス・ガンディはミスのままだったのか?
    あの忠誠心はどこからきてるのか?が非常に気になります
    映画では触れられてないので・・・とらねこサンは何か知ってますか?

    老けメイクはねぇ・・・もうちょい抑えればいいのに。やりすぎでしょwww

  2. サイ5150さんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    ですよね、時間軸は若いころのフーヴァーと年を取ってからの姿が描かれるおかげで、端的にこの2つの時間軸を比べながら見ることが出来ました。私も全く退屈は感じなかったなー。

    >フーパーがのし上がっていく話なのかと思ってましたが、もっと個人寄りのパーソナルなものでしたね
    ですね!『グッド・シェパード』のような作品も好きなんですが、こちらは本当に個人の裏の感情に焦点を当てていたなあ、と思います。

    ミス・ガンディについてはなんだか気になってしまいますよね。私も分かります。初めに「私はずっと働きたいの」という台詞があって、彼女に関しての記述は初めの方だけでしたね。私は正直、この人に関しては良く分からないのです。昔の時代でこうして仕事一筋でずっと働いた人は珍しいんでしょうね。彼女もまたトルソン同様に、エドガー・フーヴァーの絶大な信用を得ていた人でしたね。ある意味、フーヴァーは周りに恵まれていたのかなあ。本当、なんでずっとミスのままだったんだろう。

  3. へー、そうなのか。酷評ばかり目についてたのでレオ様モノははずさない私(
    笑)もスルーしようかと思ってたけど問題作という意味では面白いかも。
    というか、とらねこさんが「涙をためて階段を下りた」という所でやっぱ観てみようと思いました。変わり者役といえば「アビエイター」でのレオも大熱演だったなあ。そういえば今年まだ映画館行ってない…

  4. シリキさんへ

    こんにちは~♪コメントありがとうございました。
    わーい!シリキさんだあ♪へえ、シリキさんはレオ好きだったんですね!私も何を隠そう、レオ好きなんです^^* この作品は変わりレオ作品として、是非とも見ておいて欲しいシロモノでしたよ!
    シリキさんの感想聞きたいです~♪
     アビエイターのレオもなかなか良かったですよね。私は結構ブラッド・ダイアモンドとか、キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン、ワールド・オブ・ライズなんかも好きだったんですよ~^^

  5. これは問題作でしたね。『グラントリノ』以降、ぜんぶ問題作ですけど。語り口とかうまいからまたしても、引き込まれちゃったんですけど、またしてもラストがいまいちだった気がする。『グラントリノ』以降の課題じゃないでしょうか。

    でも珍品だよなぁ。老齢の男同士の純愛映画なんて、はじめて見た。もうちょっと映像が耽美的だったら。あと『サイコ』もはいってたし。

    あの『ぜんぜん似あってない老けメイク』ってのはハリウッドの伝統かと。ハスミセンセイがスピルバーグの『プライベートライアン』で怒ってた。あの冒頭で回想してる別の役者は誰なんだって。むかしは本人がゴテゴテのメイクで老人に変身したのに、って。イーストウッドはそこらへんがきちんとわかって、あえてあんな感じでやったのでは?

    『ディパーテッド』も『シャッターアイランド』も『インセプション』もデカプーぜんぶ同じ顔(眉間にしわ)してたから、今回もてっきりそうかと思ったら、まったく見たことのないデカプリオがそこに、、、ボクはこれでやっとデカプーが好きになれましたよ。役者として一皮むけたよね(頭皮が)。

  6. 裏山ちんさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    あ、自分で裏山ちんて言ってるww

    え、ラストイマイチでしたか??あれ、私的にはラストが感動しましたよ。だって、あんな卑小な人間に対しても、思いやりの目の温かな、「人間としての幸福」を考えてあげてるじゃないですか。これ、アメリカ社会そのものを見る人も居るけど、自分はFBIやアメリカそのものを彼が象徴している、そんな描き方がされていたとは思えない。それよりむしろ思い切った個人主義、だからこそヒューマニズムを感じれるような、人間個人の物語に昇華しているところが良いと思うんですよね。だって、彼なりの母親から躾けられたおかげでゲイとしてカミングアウトも出来ないで、愛情を表現するのにそれが上手に出来ない。そしてそのまま、歪んだ形でその一生を生きた生、って…。自分が高名であるが故というせいもあるんですよ。それに対する精一杯の愛情が表現されていたと私は思うんだけどな。ラストが一番感動しましたよ。

    あー、なるほど逆に若い本人がやる老けメイクの方が味があると。ウン、上手い人はそれでいいと思うけど。例えば、デ・ニーロ演じた有名な演技法にもなった、体重増加エイジングや、ジュード・ロウが臨んだ髪の毛抜け系ハゲエイジング(あの頃はフサフサだった…)を初めとして、自分で演るからこそ、演技者のやる面白みというものはあると思う。ただ、だったら発声法も変えることが出来るはずで、そこがレオは一緒だったのよねー。で、ナオミ・ワッツは、年取っても若々しいとか言われてるけど、老けメイクの顔のシワが無いだけじゃん、と私は思ってたりして。
     ハハハ、確かに頭が一皮剥けたね。誰が上手いこと言えとww

  7. 実はこの映画を鑑賞したとき、タイタニック3Dの予告をやっていました。あとから考えたらけっこう皮肉が利いてるなあとw そういえばこの二本・レオ主演 ・一昔前が舞台 ・純愛もの ・思い出話 と何かと共通点が多いような(我ながら強引だなあ)

    ゲイカップルって年老いたらどうなるんだろうって時々思ってたけど、この映画の二人みたいになれたら理想的なんだろうね。とらねこさんは交友範囲が広そうなのでこんなカップルのお友達もいそうな気がするんだけどどうでしょう

  8. SGA屋伍一さんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    タイタニックの予告は、最近何の映画を見てもついて来ますよね〜、シネコンだったら。あれ、シネコンじゃなくてもあったかな。
     この二人のようなゲイカップルになれたら素敵ですよね。でもこの場合だと純愛で、お互いの気持ちを確認したりはしてませんが。逆に、そういう関係だからこそ、ずっと長い間一緒に居れたのかなあ。ゲイであることを周りに隠しながら生きるカップルなんて大変そうですね。カミングアウトもしなければ、こちらもそうであると気付かないのだし・・さすがに、そういう友達なんてそう簡単には見つからないでしょうね。

  9. 日本では、かつて『吉田学校』なんて映画もあったけど、
    いまでも、題材には困らない気がします。
    我欲の強い政治家、強弁の政治家…。
    日本にもイーストウッドみたいな骨のある監督が出てこないかなあ。

  10. えいさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
    吉田学校・・へえ、そんな映画があったんですね。これですね?『小説吉田学校』
    へえ、森繁久彌がハマり役、森谷司郎監督の最後の作品。随分評価が高いですね!面白そう。http://www.amazon.co.jp/%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E5%90%89%E7%94%B0%E5%AD%A6%E6%A0%A1-DVD-%E6%A3%AE%E8%B0%B7%E5%8F%B8%E9%83%8E/dp/B000FO4IDG




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