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イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ #53

’10年、アメリカ、イギリス
原題:Exit Through the Giftshop
監督:バンクシー
ナレーション:リス・エヴァンス
音楽:ジェフ・バーロウ、ロニ・サイズ
キャスト:ティエリー・グエッタ aka Mister Brainwash、スペース・インベーダー、シェパード・フェアリー、バンクシー

 

 

「死後ようやくその価値が認められた、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。この教訓を二度と忘れないようにしようとした美術界は、バスキアを電光石火の速さで発見した。」という台詞から始まるのは、ジュリアン・シュナーベルの『バスキア』だった。(正確な引用ではありません。一度見ただけのうろ覚え)ジャン=ミシェル・バスキアはそんな風にしてグラフィティ・アート(ストリートの壁に描く落書き)からそのキャリアが始まっていた。だが実はグラフィティの作品はそれほど多くはなく、すぐにポップ・アート界の星に成り上がった。

このドキュメンタリーを監督したバンクシーは、バスキアと同様にグラフィティでその名を成していながら、この人と比べるともっと筋金入りのグラフィティ・アーティストと言える。「街中のイケてると思う壁に描けば、馬鹿馬鹿しいほど高い入場料に金を払うやつは居なくなる」と言うバンクシーは、彼の表現の手段としてわざわざグラフィティを選んでいる。グラフィティを選ぶことでむしろ、「アートの価値」という本質について投げかけてくる。誰もが見えるところで、否応なく。

これは人を喰ったような作品だった。グラフィティに関するドキュメンタリーで、かつ有名なバンクシーその人が監督していながら、むしろ主人公としてクローズ・アップするのは「自分よりもっと面白い人物が居る」と言う。彼は誰か?それはどういうことなのか?この監督のバンクシーは、フードを深くかぶり、完全に顔が見えなくなった状態で声色も変えたまま。とにかくいきなり心掴まれる始まりだ。

本気でグラフィティ・アーティストに関するドキュメンタリーを作ろうと思っているのか、ただのカメラオタなのかよく分からないティエリー・グエッタが、物語の後半ではいきなり変身する。長年グラフィティを追いかけ、LAの壁を熟知していたその人が、自分もいっぱしのアーティストの真似ごとをし、大成功を収めてしまうという、トンでもない展開になる。

誰か別のグラフィティ・アーティストが描いてくれた自分の似顔絵を、キンコースで拡大コピーし、それを貼っていただけの時は微笑ましく思っていた観客も、才能の片鱗も感じられない切り貼りアート(金に任せて人を大量に雇う)を並べた作品展の模様を見るうちに、さすがにウンザリしてくる。

バンクシーはそれを見て、「MBW(ミスター・ブレインウォッシュ、ティエリーのアート界での名前)はアンディ・ウォーホルの継承者だ」と言う。私はその言葉が、ただの皮肉めいたジョークとも思えないのだ。そもそもアンディ・ウォーホルがポップ・アイコンとしてアート表現そのものを破壊してみせたように、ただそれをなぞっただけのMBWは、まるで誇張表現のようにその馬鹿馬鹿しい色合いを添えてもいる。つまり事実上、MBWこそがある種バンクシーの「作品」のよう。

じゃあそうやって騙されやすい大衆と、作られたポップ・アイコンを愚弄するからといって、バンクシーがアートそのものを愚弄しているか?そう疑問を持つ人も居るだろう。私は違うと思う。この映画で見せたMBWという「作品」でもって、アートの本質をむしろ問いかけている。それこそがこの映画の表現になり得ている。

柳下毅一郎は、『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』というタイトルの意味を、「お代は見てのお帰り」という意味だと言っていた。(さすがはガース!)そもそも、金を払う行為とアートを楽しむという行為はイコールで結ばれるのか。「アートの価値」という曖昧この上ないものを探り続けるからこそ、こうした破壊表現で世間を楽しませ、見せる。バンクシーは本物だ。

 

イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ@ぴあ映画生活

 

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コメント(11件)

  1. とらねこさん、
    ティエリーは胡散臭くもあるけれど、なんだかんだいって才覚のある人物じゃないかなと思えましたー。あの映画もあれはあれで面白そうだったw
    運営経費がかかるのだから、美術館に入場料がかかるのは仕方ないけど、お土産コーナーでじゃんじゃんお金が使われてるのはなんだかなーと思うこと多しで。
    アートばかりでなく、音楽にしたって、映画にしたって、テキストにしたって、このシホンシュギシャカイでは、関係者はそこに価値をもたせようと懸命で、人々は単純にそれにのっかり消費したりしなかったり。
    MBWに飛びつく人たちはバッカでーいと思っちゃうけど、話題のバンクシー映画に飛びつく自分もたいしてかわらないんだろうし。
    すべてが興味深く、滑稽でもあり、実にいろんなことに気づかせてくれるバンクシーはとりあえず本物のかっこよい人ね。
    いやいや、面白かったですねー。

  2. かえるさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
    これ面白かったですね〜、私はかなり気に入ってしまいました。こういう面白い映画に出逢えるのは、映画好きで良かった!なんて感激の極みですー。

    ティエリーの才覚というと、その表裏のない性格で、あのコミュニティに入り込んだ、ってところでしょうか。
    ティエリーは前半と後半で映画が逆転しますけど、前半ではただカメラで記録するのが好きな人ですよね。
    バンクシーも「ティエリーには癒されたから信用した」と言っていたり、シェパード・フェアリーも出逢った当初「カメラオタクなのか、それともカメラオタクで変人なのかは分からないが」と言っていましたけど、「どっかしら頭のおかしい感じが面白い奴」として映るタイプの人だったんでしょうね。でも、完全に表裏はなかった。だから信用されたんでしょうね。

    「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」の意味は、バンクシーは美術館のそれにまつわるお土産、アートの商品化やその経済のみを言っているのではなく、入場料のことも含めているのだと思いますよ。だから街中に、みんなの見えるところに描くことにこだわる。

    かえるさんはあらゆるタイプの映画に飛びついているように思えますw。この映画だけ「スルーする」わけないじゃないですかー。
    お金も暇も全く頓着せず、映画に愛だけ注ぎ込んでいるように見えますな。
    「生活が全てそれを中心に回る」というほどの情熱をかけるものがある人を、この映画は否定しているとは思いませんね。

  3. こんばんは♪

    >アートの本質をむしろ問いかけている
    冗談みたいなMBWの作品群見ながらベンヤミンのアウラの消失とかボードリヤールのシミュラークルとかぼんやり考えてたんですが一番しっくりくる言葉は「はったり」(笑)

    それにしても本作、構成力が凄い!
    メタ的に視点がズレてって最後トンでもないオチに至る訳ですが、前フリとかインタビューの差込み所が的確でとっちらかった印象ないんですよね…
    最初にコンテ切ってる訳じゃなく素材はあのティエリーのテープなんでしょうからそっからこれ紡ぎ出すってのは…やっぱバンクシーは才人だなと

    うん、でもまぁ夢と魔法の王国にグアンタナモ収容者人形吊るしたら叱られるよね
    画ヅラとしてオレンジが映えるんだ、これがまた(笑)

  4. とらねこさん、ハロー☆

    >>つまり事実上、MBWこそがある種バンクシーの「作品」のよう。
    先日、この作品の話をしてて、実はMBWという人物はバンクシーが作り上げた最大のジョークで、この作品もドキュメンタリーに見せかけて観客を騙してる!という説があるらしいと聞きました。まぁ、もしそう始まったプロジェクトとしてもMBWは今や有名人ですけどね。真実がなんであろうと、バンクシーのMBWの写し方からアートに対する色んな気持ちをとらえられるし、観てる側のなかでも芽生えますよね。

    バンクシーは日本では悪さしないんでしょうか??笑

  5. みさま

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。

    アウラの消失とかシミュラークル・・うーんなるほど。これって、意外とバンクシーがこだわっている事象かもしれませんね。MBWにはちと勿体無い。
    私には「オリジナルなき模倣」と言われ手も、攻殻機動隊のことしか思いつきませんでした・・。ハズイ・・。私も読書習慣を復活させたいなあ・・最近全然本読んでません。

    この映画に関するバンクシーの映画監督としての手腕、私も全く同じように感じました。
    あの部屋いっぱいのテープ・・・全部で何年分なのか、編集技術も何も全くなく、本人が見返すことなく溜めるだけ溜められたテープ。
    これを見返すだけでも途方もない作業だったでしょうね。
    バンクシーは初めから言いたいことは決まっていて、それをいかに映画的に見せるか、ということに心血を注いだ感じがしますよね!
    本当この構成力、すごかったなー。

    >夢の国にグアンタナモ

    ははーア。ディズニーランドこそ、「シミュラークルとシミュレーション」の例として扱われる場所なんですモンね。そのシミュラークルを正面突破で破壊する現実要素が、グアンタナモ人形・・なるほど、さすがだなあ、バンクシーは。
    いやー、それにしてもあのオレンジのヤバさ、半端ないですね!
    本当、オレンジのポップなカラーが、楽しそうな雰囲気に一見マッチしてるようにすら思えちゃうのが不思議ですよね!
    あのコラボ、意外と忘れられないです・・。

  6. アヤさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!

    >実はMBWという人物はバンクシーが作り上げた最大のジョークで、この作品もドキュメンタリーに見せかけて観客を騙してる!という説

    あっ、やっぱりそんな説あるんですね!
    なんか、そう思った人が、実際にMBWが居るかどうかを調べてみたら本当に居て、「これは事実だった」と思ったらしいのですが、「それ、証明にはなってなくね?」なんて思っちゃいました。
    つまり、MBWとバンクシーが共謀関係にあるのか、それともバンクシーのみなのか・・ってことだと思うんですが、「MBWが実在する人物だった」では、証明にはなってないんですよね^^;
    個人的にはやっぱり、MBWが自分から暴走してった、というのは事実なんじゃないかと思ってます。
    でも、そういう噂がまことしやかに流れても、おかしくはないですよね〜。

    バンクシー、日本に来て欲しいですー。来たりしないのかな?
    日本がいかにグラフィティ・アートに乏しいかって、見たら絶対何かしらやりたくなると思うんですよね・・。
    渋谷とか原宿なんていいと思いますし。あと、福島第一なんかも、いろんな意味でホットスポットに・・・いや、それは無理かw

  7. イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ #53 http://t.co/LxZCkGd9




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