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奇跡 #42

’11年、日本
監督・脚本・編集:是枝裕和
撮影:山崎裕

前田航基    : 航一(兄)
前田旺志郎   : 龍之介(弟)
オダギリジョー : 木南健次(父)
大塚寧々    : 大迫のぞみ(母)
樹木希林    : おばあちゃん
橋爪功     : おじいちゃん
阿部寛     : 坂上先生
長澤まさみ   : 三村先生
原田芳雄    : 山本亘

 

奇跡は毎日の日常の中に。

両親の離婚によって、九州と大阪にバラバラになってしまった兄弟。彼らは自分たちなりの計画で、母親と父親とに別れて暮らし、いつか再びまた一緒に暮らすことを望んでいる。お兄ちゃんはそんなしっかり者で、その割には子供らしく、桜島が大噴火することを祈っていたりもする(そうなればここに住めなくなるから)。一方弟の方は、呑気な父親譲りで、どっかチャランポランな割に女の子に大人気だったりして、ちゃっかり大阪に馴染んでいたりする。

JRが協賛になっているのが、初めにドバーンと出てくるので、へえこんなのって珍しいな、などと思いきや。新しい九州新幹線の開通を祝って、こんな映画が作られたようだ。物語中にも、その奇跡を起こす原因となるのが、九州新幹線の開通の日に、博多から南下する新幹線“つばめ”と鹿児島から北上する“さくら”が交差する、その瞬間を見ると奇跡が起こる、という噂を耳にして、子供たちが冒険をする、といったストーリー。まるでスタンド・バイ・ミーのよう。

この作品は、いかにも「いい映画」な雰囲気に満ち満ちていた。真っ直ぐな子供たちの姿をさりげなく捉え、兄弟たちのそれぞれのプロットを交差させ、その親達の背景や、離婚してしまった原因もサラリとそつなく描く。子供ならではの真摯な思いというのが伝わってくるので、この作品を悪しざまに言えなくなってしまう。是枝監督は、とても器用にスマートで賢い人なんだろうな、といった感じ。

子供たちは冒頭辺り、大人の世界のズルさや、世知辛さもしっかり受け継いでいたりする。「事業仕分け」を子供たちが冗談で使っていたり、モンスターペアレントを助長させるかのような、教師に対する鋭い目線を持っていたり。不器用なだけで、子供たちのことを大事に考えている先生も、「プライベートに立ち入りすぎ、親に言って辞めさせてやる」などと言われてしまったりする。

そんな子供らしくない狡賢さが描かれた後に、今度は年相応な「奇跡」を信じ、冒険の計画を練る辺りで、ようやくホッとして気持ちが動き出す気がする。やはり子供だな、なんて。だけどなぜだろう?私には、子供たちの冒険が、まるで上手にパッケージングされた、「既製品」のように感じさせる。何故、心のどこかで納得出来ないのだろう?

心理学では、子供たちの遊び場は、大きくなるに従って少しづつ半径を広げていくそうだ。今まで行ったことがないところに行くことが「冒険」であり、家を拠点にして、その半径から行きつ戻りつしながら、少しづつその円を広げていく。でもこの物語はそうではなく、いともやすやすと子供たちだけで新幹線代を捻出し、大阪からはるばるやって来る子供たちも、北上して鹿児島から出向いていく子供たちも、恐ろしさや気後れを少しも見せずにその円を飛び越えてしまう。しかも、大人たちを上手に、計画的に欺いて。

思わずこの作品を見た後すぐに『スタンド・バイ・ミー』を見返してみた。子供の頃からずっと好きな、初めて大好きになった洋画のこの作品を見るのは、もう何十回目だろう。なるほどと思った。行ったことのない場所に行くために、ただ汽車の線路伝いに“自分たちの足で”歩いて行く。こちらの冒険の方が、私にはずっとリアリティがあるように思えた。もちろん、学校を上手にズル休みすることもなく、夏休みの馬鹿で無謀な計画だ。さらに、死体を見つけに行く、という思いつきも、良いものとは到底言えないものである。

対してこの作品は、あまりにも見事で器用な冒険だった。(人の良いおじいさんおばあさんを、まるで詐欺のように騙してしまったりもする!)ちょうど、『誰も知らない』で、大人の居ないところで見事に子供たちだけの世界を築いてみせたように。

「JRを協賛にし、豊富な資金を使ってはいるけど、でもサラリといい映画を撮ってみせますよ。」そんな是枝監督の自信のほどが伺える。監督のドヤ顔が目に浮かぶような、「いい作品」である。

 

奇跡@ぴあ映画生活

 

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