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見えないほどの遠くの空を #28

’11年、日本
監督・脚本・原作:榎本憲男
撮影:古屋幸一
編集:石川真吾
音楽:安田芙充央

森岡龍   : 高橋賢
岡本奈月  : 杉崎莉沙・洋子
渡辺大知  : 光浦丈司
佐藤貴広  : 井上
前野朋哉  : 森本
橋本一郎  : 佐久間

 

twitterはおよそ「おはよう。」とか「何食った」みたいなどうでもいい呟きばかり。その玉石混淆の中から価値ある情報に出会えることが本当に稀だったりする。twitterは300人フォローすればその内の100人位が運良くフォローしてくれるのだから、どんどんフォローすべき、なんて言われたりもするのだけれど、そんなの面倒すぎて無理。twitterを続けているのは、この人が居るから。そんな呟きの面白い人がほんの一握りだけ(友人の他に)居るんですね。この榎本憲男監督( @chimumu )はその数少ない一人。なんたって、彼をフォローし始めたのは、彼がちょうど仕事を辞めてこれからいよいよ、自主映画を撮るという、その準備期間から。映画に関する豊富な知識を呟いたり(映画学校で先生をしている)するばかりでなく、今まさに撮影に入った、その映画について自らが考えるところを、ダダ漏れ(って言い方悪いな)してくれている。そんなの、もう興味津々じゃないですか!

さらに興味深いことに、これまで脚本家やプロデューサーだった人が、初めてメガホンを撮ったという。初監督作品であり、しかも自主映画なのです。つまり、「本当に自分が撮りたいことを撮る!」という本気汁の詰まった作品なのですね。そういうのこそ、見たいじゃん!というタイプの私には願ってもない作品。たぶん、榎本監督自身、こういうtwitterの特性を良く分かっていて、それを戦略的に使っても居るのですね。『SRサイタマノラッパー』なんかは宇多丸のクチコミ無しに、あそこまで有名にならなかっただろうと思うけれど、こういう、今の時代に先駆けた宣伝のやり方もあるのだなあ、と。この辺りもまた興味深くて目が離せないのです。大体、呟きが本当に面白いんですよ!私、この映画の公開をずーっと待ってたのー!

と、言うわけで映画の感想です。

舞台は、大学の映画研究会のサークル。きっと監督にとって一番、嘘偽りのない本当の思いについて書ける、そんな舞台設定なのかもしれない。自分の原点に立ち戻って、一番純粋だった自分を思い描いているのかも。・・・などと勝手に考える。(それが戦略なら、ハマってますw)

物語始まって間もなく、ラストシーンについての疑問を遠慮無く投げかけるヒロイン・莉沙。これがとても鋭い。主人公の賢にとって、自分の脚本・監督作品について手厳しい言葉を浴びせられるのは、キツイに違いない。だが彼女は容赦ない。「途中までは面白いし、言いたいことは分かるのだけれど、ラストに納得が行かない。何か共感止まり。」「ここは、それ以上になれる可能性を秘めた場所なのに。もう少しこの問題について考えてみようよ。」

ここで思わずハッとしたのを覚えている。彼女の台詞は、表現の難しさ、本質を突く言葉だったと。何かについて表現する時に、人に共感を抱かせるような描き方はよくある手法かもしれない。だけど、それを覆すこと。「価値の転倒」、つまり「カタルシス」を生み出すことの難しさ。それをもし自分で、台詞でつけ加えるとしたら、では、自分ならどんな台詞が思い浮かぶか?思わず考えてみたくなった。人に思いを伝えるだけでなく、そこから伝播して広がっていくことの難しさ。

青春映画であり、ラブストーリーを中心に物語が進むのかと思っていたけれど、これが一番のテーマのようだ、ということに気づく。なるほど、この正解を主人公が見つけるまでの物語かー、なんて。観客の中にも、この時点で納得の行く答えを生み出すことの出来る人は、それほど多くは居ないだろう。初めにこうして議題を示し、それが展開していくのを見る。物語を好む私たちが、時々味わうことのできる、上質な愉しみの一つだ。

途中から物語は変調し、その質を少し変えながらも、基本部分は変わらずに進む。何故なら、主人公の気持ちがみじんも動かないからだ。その理由は、彼がとても真っ直ぐな人間であるから。オチに関して途中で気づいてしまう人は多く居るかもしれないけれど、その時点では、まだ最初の議題の答えが出ていない。おかげで最後まで楽しむことが出来るようになっている。そんな仕掛け。

そして、ところどころ、あ、ここのカメラワークは面白いなあとか、役者の演技がみんな上手いなあ、などと思いながら見ていた。照明の使い方が好きだなあ、とか。
何にしろ、豊富な映画の知識を持っている監督の作品なのだ。知識が単なる知識でなく、随所に息づいているのを見ることが出来る。何より、心から自分の思いを晒しているところが、清々しくて格好いいなと思う。風のそよぎを顔に感じることが出来るようなシーンも美しい。最後に、自分が後悔せずにどう生きるか、そうしたことを全力で問いかけてもいる。とても魂のこもった作品だった。

INTRO 榎本憲男監督インタビュー

 

見えないほどの遠くの空を@ぴあ映画生活

 

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コメント(4件)

  1. こんばんは。
    こちらでは、ご無沙汰してます。
    この映画、だいぶ前に観たのですが、
    なかなか書くきっかけがみつからなくて…。
    実は、ツィッタ―で拝見した、
    とらねこさんのレビューが背中を押したという感じです。
    もちろん、自分のところでも触れてますように、
    大好きな映画であることには変わりはないのですが…。

    ところで、ツィッタ―と言えば、
    先日、とらねこさんがつぶやかれていた
    「新しい映画雑誌作ろうよ」にピクッと反応。
    というのも、ここ数年、
    仲間と、その方向性を模索しているからです。
    時代は電子書籍に移り、
    出版にとっては厳しい環境にありますが、
    まだ、夢はあきらめられません。
    ではでは。

  2. えいさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
    おや、私のツイートが・・・そうですか。
    確かにこの作品て、細部に渡っていろいろな事を考えてしまいますよね。
    個人的にはもう少し台詞を削って欲しかった、と思ってる部分もあります。

    新しい映画雑誌。そこに反応されましたか。
    電子書籍が普及されるに従って、出版業界は斜陽産業になってしまうのは、時代の流れと分かってはいても、どこか寂しい気がしてしまいます。
    日垣隆じゃないですが(笑)、私も電子書籍より紙の本が好きですw(本は読んでませんが)
    電子書籍が紙に負ける5つのポイント
    http://wiredvision.jp/news/201106/2011060622.html

    そんな話も含め、またえいさんと飲みたいですね。

  3. とらねこさんの記事で思い出しましたけど、私もある映画の舞台挨拶で本木雅弘さんが全く関係ない映画の企画が動き出すという話を熱く語ってくださったのが今でも印象に強く残っているのですが、それがあの「おくりびと」だったんですよね。そういうのって余計に感情移入しちゃうとこありますよね。

    観終えたときに振り返ると賢と莉沙のやりとりがジワジワと心に響いてくる感じがしました。どうしてもオチの面白さに目を奪われがちになりますけど、賢が導きだす自身の答えによって物語全体が一つのカタルシスを浮かび上がらせるような、そんな印象深い作品でした。

  4. かのんさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。

    なるほど、舞台挨拶で本木雅弘さんがおくりびとの話をしていたんですね。
    自分にとって記憶に残るのは大きいですよね。
    私もこの作品の場合は、twitterで毎日発言を読んでいたので、もうすっかり自分のことのように公開を楽しみにしていたのでしたw

    うん、そうですね、オチのことが結構大きく気にかかってしまう感じはありますね。
    でも、それらを超えて、言いたいことがストレートに伝わるところがあるんですよね、この作品は。その辺がとても印象深かったです。




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