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ヤコブへの手紙 #22

’09年、フィンランド
原題:Postia Pappi Jaakobille
監督・脚本:クラウス・ハロ
原案・ヤーナ・マコネン

カーリナ・ハザード    : レイラ
ヘイッキ・ノウシアイネン : ヤコブ牧師
ユッカ・ケイノネン     : 郵便配達員

とても静かに心を打つ佳作だった。登場人物は極端に少なく、映像の中に映し出されるのは、牧師の小さな家とその周辺だけ。限りなく小さな世界なのに、真実を映し出す力強さ。この一風景はずっと忘れられなくなりそう。

長期に渡り刑務所に服役していた殺人犯である中年女性が、恩赦により釈放され、牧師の館にやって来る。人助けを自分の使命とし、神に仕えてきた立派な牧師だが、今では目が見えず、人びとからの手紙を自分一人では読む事ができない。そこで元死刑囚だったレイラはいやいやながら、手紙を読む作業を手伝うことになる。

人の最晩年というこの一時期を、印象派の一枚の絵画のように鮮やかに描いた、文学作品のような味わい。この小さな物語の中にくっきりとテーマが描かれている。信仰について。牧師の人生の一番最後の時期を描いたこの物語は、そうであるからこそ、最も真摯にテーマに向かい合う。この真っ直ぐさに、思わずハッと胸を貫かれるほどだ。以降、ネタバレで語ります。

人びとのために長年、神に祈って来た牧師。それを自分の生業と思ってきたが、手紙が少なくなり、ついには届かなくなる。牧師を救っていたのは実は、手紙の方であったと悟る。そして深く沈み込んでいくヤコブ牧師。今では使われていない教会へ足を運び、自分を必要とする者の幻を探す。その時牧師の心には、おそらく彼が初めて抱いたであろう「疑念」が描かれる。自分を必要とする何者かを探すと同時に、それは神との対話を乞う一人の信仰者の姿であった。外は雨風が激しく嵐が吹き荒ぶが、牧師の人生の最後に危機が訪れたのは実はこの時。静かなこの物語の中で、この突然の嵐の描き方もまた見事だ。

元死刑囚のレイラはその時、自殺をしようと試みていた。一方、神への問の中で疲れ果て、牧師は教会の檀下でいつしか横たわっていた。このシーンの後、あの感動的なシーンが訪れる。レイラは牧師に偽の手紙を読むという行為を行い、その中で自分自身の話をする。牧師はそれに気づき、レイラに真実を告げることによって、結果的にレイラの魂を救うことになる。彼女にとって一番重要なタイミングで真実を告げることが出来たのだ。同時に、牧師は彼自身を必要とする者を見出し、彼自身の魂をも救われる。

レイラが許されたかったのは神にではなく、彼女の姉からの一言。それは牧師(ひと)が告げることによって可能となった。牧師自身も、彼の必要とする手紙を与えようとするレイラによって、最後の本当の仕事をすることになる。レイラを許すのも人なら、最晩年の牧師を救うのも人、元死刑囚であるレイラだ。許しも贖罪も、一見すれば人が人に行う行為であるかのように描いている。

だがちょっと待って欲しい。レイラが自殺を踏みとどまろうとしたこと、それから教会で横たわっていた牧師が目覚めて家に戻ったこと。この2つの出来事は、おそらくはほぼ同時に起こっていた。このことについて言葉にしてしまうのは、不遜にすら感じる。だが教会の中で、牧師を目覚めさせたのは、一滴の雨水だ。奇跡の瞬間が描かれている、と私は思った。美しく尊い一瞬。

※ストーリー・・・
恩赦で出所したレイラは、盲目のヤコブ牧師のもとで彼のために手紙を読み、返事を書く仕事をすることになった。だが、悩みを持った人々から牧師へ手紙を届 ける郵便配達人は、突然現れたレイラに不信感を抱く。そんなある日、牧師宛の手紙がぷつりと途絶え・・・

ヤコブへの手紙@ぴあ映画生活

 

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コメント(8件)

  1. お久しぶりです。
    大好きな作品…なのでお邪魔しました。
    東京で牧師をしている従兄弟が「ぜひ観て」と紹介してきた映画です。
    残念ながら地元では上映されずDVD待ちでした。
    ほんとうに静謐で無駄がなく,それでいて不思議な感動の作品でした。
    たった3人の登場人物・・・75分という短いストーリー・・・
    私もクリスチャンなので,人による救済ももちろんですが
    そこには神の介在を強く感じた作品です。
    従兄弟の話では,牧師のような聖職者も「必要とされない」孤独を感じることは
    自分にも起こり得ることだろうと,強く共感したそうです。
    誰かの役に立つことで自分も救われ、生かされているのだろうなと。
    50の声を聞いた従兄弟ならではの本音なのかもと思いました。

  2. ななさんへ

    こんばんは〜♪おおー!ななさん、お久しぶりです!コメントありがとうございました。
    あ、こちらの方こそスミマセン。新しいコメントシステムを導入したのですが、分かりづらかったかも・・。

    こちらの作品、ななさんのお気に入り作品だったのですね!うん、そう言えば以前にもななさんは、宗教的な物語の時にとても深い理解を示されていらっしゃって、へえ、なんて思ったことがありました。
    私もこの作品はとても好きでしたので、嬉しいです。こういう、マイナーな良作について話すことが出来るのって、ブログをやる楽しみです!ありがとうございます、ななさん。

    神の介在については、他に気づいた方はいたのでしょうか、あまり感想で書かれているのを目にしませんでした。ほんの一瞬なのですが、それを見逃さないところがさすがななさん!と思います。
    従兄弟の方がオススメした作品だったのですね。ななさんにとっては特別の作品なのだなあ!「50の声を聞く」というのはどういう意味なのでしょう、50歳を過ぎたということでしょうか。
    私も、牧師さんは人を救うことで自分を救うことが出来たのだと思っています。宗教ということの本質を突いた、鋭い作品だと思いませんか?素晴らしかったです。

  3. とらねこさん こんばんは ななです。

    そうそう,私は親戚も両親もクリスチャンなので自分もクリスチャンです。毎週日曜は礼拝に行ってオルガンの奉仕もしています。
    神を信じるという考え方はもう不動の価値観として根付いてしまっています。
    西洋の映画は根底にキリスト教の精神が垣間見られるものも多く
    そんなときは理解がしやすい面もありますね。
    >「50の声を聞く」というのはどういう意味なのでしょう、50歳を過ぎたということでしょうか。
    そうですね,従兄弟はこの間50歳になりました。
    2月にこの映画が東京(銀座テアトルだったっけ?)で上映されたとき
    従兄弟は上映前のトークショーで「牧師として」作品を紹介する役を頼まれたそうです。
    人生の秋にさしかかって自分自身も孤独や衰えを感じ始めた従兄弟ですので
    ヤコブ牧師の寂しさなども他人事と思えなかったそうです。

  4. ななさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    ななさんは、毎週日曜に礼拝に行かれているのですか!偉いなあ。しかもオルガンを弾くだなんて、なんだか映画や小説の中みたいで、ちょっと憧れますね。アメリカの映画やドラマだと、教会の中でノリノリになって歌ったり踊ったりするのが好きですー。

    やっぱり、ななさんはキリスト教徒が出てくる話は、理解がすんなり行きますよねえ。私は英文科だったので、下地として聖書などに親しんでいないといけない、ということで、大学の頃に教養として読みました。でも、宗教の観点から、きちんと深い理解をしているとは言いがたいです。

    なんと、ななさんの従兄弟の方は、牧師としてこの映画のトークショーに呼ばれたんですね!素敵。
    どんな話をされたのでしょう。ああ、そうです、銀座テアトルで見ましたよ。ななさんももし前に知っていたら、私に教えて欲しいぐらいでした!w
    ヤコブ牧師は、とても牧師として仕事熱心だったからこそ、晩年にそのような思いを抱いたのでしょうね。こんなに優しい、信心深い人が、そんな思いを抱えるだなんて、なんだか胸が痛みました。

  5. ごめんなさい、さきほどのRsc04493のコメントの発信人は虎猫の気まぐれシネマ日記の「なな」です。




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