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■54. 悪人


’10年、日本
監督:李相日
原作:吉田修一
脚本:吉田修一、李相日
撮影:笠松則道
美術:種田陽平
音楽:久石譲

妻夫木聡  祐一
深津絵里  光代
岡田将生  増尾
満島ひかり  佳乃
樹木希林  房枝(祐一母)
柄本明  石橋佳男(光代父)

見た後に思わず、誰彼となく話したくなる作品だった。ネタバレで。
どちらかと言えば、本当には一人で心にしまって置きたいような物語で、誰かに向かって話したいタイプの内容ではないのに。
もしかすると、この物語が、孤独な人間たちが描かれた話だったから。
孤独で惨めな境遇の人間が、それでも誰かと繋がろうとする物語だったから、・・・それが理由なのかな。

舞台となっている、長崎や佐賀の、地方の寂れて乾いた風景が心に強く残像として焼き付いている。いかにもどこにでもありそうな風景なのに、見ているだけで心の奥が疼いてくるような気がするのは何故だろう。
それははじめ、人口の少ない地方に住む人間たちの心情を表しているかのように思った。しかし、それだけではないのかも。むしろ、自分の住むところが都会であろうとどこであろうと、私たちの心象風景に似て感じられた。そこは、私たちの心の果て。

この物語はとても意欲的で野心的だった。あらゆる登場人物に焦点を当て、その心理を照らし、影を色濃く映し出す。
キツイ言い方をすれば、全てを描ききれているとは思えない、はみ出た部分がたくさん目立つようにも思えた。
「そのエピソードを入れると主題からはボヤけてしまうのではないか」、とか、「その部分を描くのであれば、もっとこれも描かないと原作の意図からは遠くなるのでは」、などと欲が出てしまいそうなほど。

でもそのようなはみ出た部分は、見た者それぞれで想像したり、心の中で補ったりなどして、私たちが見ることを可能にする。はじめは登場人物の誰にも共感できないのに、全体の絵が大きく広がるにつれ、そのミッシングリンクがむしろ自分たちの心に直接リンクしている。

ネタバレで語ると:::::::::















罪を犯した祐一が、その重さにようやく気づくには、光代の温もり、人間の温度が必要だった。
彼女のためを思って初めて、彼の本来の優しさを取り戻し、自分を愛する気持ちから彼女を解放するために、もう一度悪人へと堕ちてみせる。

この、ラスト近くで祐一が起こした行動の真意と、その結果が功を奏したことによる、光代の気持ちの変わり様とその無表情。
そこで祐一の表情がもう一度出てくるラスト、これはもう完璧だった。

私はあの瞬間の妻夫木の表情を予告で見たおかげで、この作品を見たくなった。だから映画の間中ずっと、あの妻夫木の表情はいつだろう、いつだろうと探してしまった。まさか、本当にラストだったとは!ラストの直前に、ああこれラストだわ!ちくしょー!などと心の中で叫びながら見てしまった。
ラストのシーンを予告に使うなんてそりゃないぜ!と、終わった瞬間に、愚痴ってしまったが・・・。

あの表情が素晴らしすぎるせいで、ラストの余韻がより深くなり、さらに寂しいものとなって心に響いてくる。

ただ、宣伝にある「本当の悪人は誰か」という言葉と、柄本明に長々と言わせた台詞。これを受けて、「本当に一番悪人なのは増尾だ、云々~」などと思わず言いたくなるが、それはちょっとズレている。
どんな理由があるにしろ、社会がどうであるにしろ、怒りの理由で人を殺してしまうというのはあってはならないことで、贖罪しなければならないものだ。
しかし物語は違う彼岸へと観客を誘導してゆく。まるで、『ベニスの商人』において、シャイロックの気持ちに添わせた物語のように。
この作品を真に面白くしているのは、そうした人々の価値観を揺るがすような物語展開だった。

この作品にある欠点をさて置いても、変わらずに愛してしまいたくなるのは、そうした難解さに正面切って取り組んでいるからだ。
世間一般の価値観から遠くまで来た彼岸。目指すものが大きすぎて、思わずこの作品を抱きしめたくなる。

ストーリー・・・
保険外交員の女性の遺体が発見される。当初、捜査線上に浮かび上がったのは地元の大学生だったが、やがて容疑の焦点は土木作業員の清水へ。清水は警察の目を逃れ、光代という女を連れて逃避行に及ぶ。なぜ事件は起き、なぜ清水はその女と逃げるのか・・・
悪人@ぴあ映画生活

 

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