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■44. ソフィアの夜明け

sofia’09年、ブルガリア
原題:Eastern Plays
監督・脚本:カメン・カレフ
製作:カメン・カレフ、ステファン・ピリョフ、フレデリク・ザンダー
撮影:ユリアン・アタナソフ
音楽:ジャン=ポール・ウォール
編集:カメン・カレフ、ステ
ファン・ピリョフ、ヨハネス・ピンター


フリスト・フリストフ  イツォ
サーデッド・ウシュル・アクソイ  ウシュル
オバネス・ドゥロシャン  ゲオルギ
ニコリナ・ヤンチェヴァ  ニキ
ハティジェ・アスラン  ウシュルの母


年間に約7本しか映画が制作されないというブルガリアから、すごい映画が届いた。去年のTIFFでサクラグランプリを取った作品だ。当時のタイトルは『イースタン・プレイ』。
監督は新人で、主演は友人のフリスト・フリストフ。この主演の彼の実人生を元に作られた物語だという。なのに、フリスト・フリストフはこの映画の完成間際に急逝した。

この”基本情報”を聞くだけで、とてつもない奇跡が起こったってことが分かる。遠く日本に住む私たちでも。
私は当時、残念ながらTIFFで見逃してしまったため、今年の公開がもっとも楽しみだった作品の一つだ。(随分前に公開が決まっていたから)。

開けてみれば、何ともホロ苦い青春の物語。だけど、忘れられない一つになった。

こうして馬鹿の一つ覚えみたいに映画を見てはいるけれど、
年に必ず「映画好きをやっていて良かった」と思える作品がある。
真実から目をそらさない作品のうち、見てすぐはその苦さが故に、あまり好きでない気がしてしまうものもある。でも、後から後から取り憑かれたかのように思い出すことも。
エンタメ映画しか好きでない人には絶対に勧められないし、合う人・合わない人もいそうだ。時々大切な友人にだけ、そっと教えたくなる、そんなパーソナルな映画の類(たぐい)だった。

主人公の持っていた怒りややるせなさは、自分の持っている感情に瓜二つのように感じる。
ただの劣情から付き合った恋人に対する投げやりな態度。人生に対する暗い情念や鬱屈したやりきれない気持ち。そうでありたい理想の自分から程遠い自己への嫌悪感・・・。

忘れられないシーンがいくつもある。線路を真横から捉えた夜明けのシーンとか、久しぶりに会った弟のゲオルギと事故の後で会って話すシーンとか。
二人の目線は初め、それそれが全く違う方向を見ている。兄が生まれ育った都市がいかに変わってしまったかを切り出すと、二人の目線が同じ方角を見る。

間違った道を歩んだ弟に対して、一言二言発する言葉で、二人がどれだけ深い結び付きや信頼感を、子供の頃から互いに持ち得ていたのかが分かる。兄が不在のうちに変わってしまった弟に対して、苦言めいた言い方を何一つすることなく、ソッと肩を一押しする。言葉にしない多くの部分は隠されたまま。だが、弟にとって正しく道を示すべき模範が、しばらくの間周りにいなかったこと、おそらく弟は道を修正するであろうことを、漠然と感じ取る美しいシーンだ。涙が止まらなくなる。

冒頭でぶつかり合った人間同士の争い事が、兄弟の再会へと繋がる。その偶然を通して触れ合う出会いもあり、変わっていく人間がいる。見えない糸で絡み合っていく物語だが、そこに偶然と必然を感じさせる。

カメラワークに詩情って宿るんだね。


紛れもなく今年見た映画の中で、最高の作品の一つ。

ストーリー・・・
ブルガリアの首都ソフィア。38歳のイツォはドラッグ中毒を克服すべくメタドン治療を続けている。仕事は木工 技師だ。恋人ニキの誕生日の晩、レストランに出かけるが、そっけない態度をとって喧嘩別れになってしまう。帰り道、観光客のトルコ人一家がネオナチの集団 に襲われている現場に遭遇し、スキンヘッドの弟ゲオルギの姿を見つける。助けに入って怪我をしたイツォは一家の美しい娘ウシュルと親しくなるのだった・・・
ソフィアの夜明け@ぴあ映画生活

 

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コメント(5件)

  1. とらねこさん、こんにちは。
    これ、気になります!
    ブルガリア映画って見た事ありませんが、とらねこさんのレビューを読む限り好きな類の作品かもしれません。
    ちょっと探してみます。

  2. あすかさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    これ良かったですよ。作家性の強い作品なので、好き嫌いはありそうです。
    あと女性から見ると、恋人に対する態度とか、気になるところかもしれませんけど・・・。
    アメリカではもうDVDで手に入るのでしょうか?
    公開とかしなそうですもんね。

  3. お久しぶりです。
    見たかったこの映画、今日見てきました!
    小さな映画館に平日なのに結構客が多かったです。
    余韻の残る映画ですね〜
    同じ人間なのに分かり合えない辛さや、愛することの難しさが痛いくらい伝わってきました。
    音楽がいいですね〜そしてカメラワークや映像も素晴らしい・・・年間6〜7本しか作らないブルガリア映画だからこその作品ですね。
    フリスト・フリストフ惜しい人を亡くしましたね。

  4. cinema_さんへ
    おはようございます〜♪コメントありがとうございました!
    イメフォ、結構人入ってますよね!この映画館、いい映画がかかるという定評があるんでしょうね。
    cinema_61さんもこちらご覧になられましたか!
    これ、女性より男性の方が気に入るタイプの作品かなーなんて思ったりもするんですが、いかがでしたでしょう。
    本当ブルガリア映画恐るべし!ですね。
    フリス・フリストフ、彼が生み出したのがこれだけかもしれないですが、ずっと彼の作ったものは残るんですよね。
    なんだか当たり前の若者の気持ちや、孤独な思いを描いていると思うのですが、痛いほど思いが伝わってきました。
    何だか才能のある人は表現力が違うな、と思ってしまいました。




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