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■8. 倫敦から来た男

倫敦から来た男’07年、ハンガリー・ドイツ・フランス

原題:The Man from London
監督:タル・べーラ
原作:ジョルジュ・シムノン
脚本:クラスナホルカイ・ラースロー、タル・べーラ
共同監督・編集:アニエス・フラニツキ
撮影:フレッド・ケレメン
美術:ライク・ラースロー
音楽:ビーグ・ミハーイ


ミロスラブ・クロボット  マロワン
ティルダ・スウィントン  マダム・マロワン
ボーク・エリカ  アンリエット
デルジ・ヤノーシュ  ブラウン
レーナールト・イシュトバーン  刑事


予告を見て、思わず「これは行かなくては!」と拳をグッと握りしめた作品。だって、絶対好みに違いない!というオーラがビシバシ。
『ヴェルクマイスター・ハーモニー』を当時、見ようかどうしようか迷って、結局諦めたことがあったけれど、今の自分だからこそ、こういう長回しにウットリ出来るのかも。あ、ちなみにその『ヴェルクマイスター・ハーモニー』は、ただいま渋谷のシアターイメージフォーラムにて上映中。最近のイメージフォーラムは、「マストなリスト」が多すぎて困るー!

ピンと張り詰めた空気なのに、何か不穏なものが隠れていそうな。そんな静寂の表現が、何とも素晴らしい。
曇りガラスの向こう側から、行われる犯罪をじっと見つめる主人公のマロワン。
この傍観者の視点【ガラスのコチラ側】と、犯罪に関わった“事件の内側”を知る者との視点【ガラスの向こう側】が微妙にずれ、このズレが緊張感を生んでいる。主人公・マロワンがそこに関わっていたのか、そうであればどの程度のことなのか、見ている者は思わず固唾をのんで見守ってしまうのだ。

なぜなら、そのまま素通りしていれば、彼はただの傍観者であったはずだったのだ。この二つの線が交差するのか、だとすればいつ・どのように・・・?

面白いのは、事件に関わり合ったその場所【ガラスの向こう側】のすぐ隣に、地元民【ガラスのコチラ側】の狭い世間が展開されるところだ。
真相を追う刑事が聞き込みをしている姿、そのカメラをすぐ横に動かせば、カメラの延長線上には、いつもそこに地元民の姿がある。珈琲を啜る者、飲みながら女性に話しかける者、様々な時にそこに彼らがいる。時にはシュールに踊ったり、不思議な音楽を奏でたりする。その映し方がまた何か意味深だ。

さらに、彼らの面子は気づけばいつも同じ顔だったりする。そこに思わずハッとしてしまう。傍観者である地元民、彼らはいつもここにいたのだ。何気ない顔をして。本当はもしかしたら、彼ら全員が全てを知っているかのような、あるいはいつも他の何かの事件を待ってすらいるような、そんな気すらしてくる。
ガラスの向こうで息をひそめて事件を眺めていた、主人公マロワン、彼の立場に、彼らの内の誰かが陥る可能性がなかった、とは言えない。そして、それを眺めている私たちも同じなのかも。

この先、ネタバレです::::::::::














圧巻なのは、実際に事件が起こった時のその映し方だった。事件が今まさに起こっている、その時間が映されながらも、その「扉」は完全に遮断されるのだ!閉め切りの扉そのものだけが何分間も映し出される。
おかげで私たちは、想像するしかなくなる。結局、マロワンが何を行ったか、ただ遮断された扉と、音とだけで。その時どう私たちは思ったか?私はこれについて思いを巡らせると、思わず身震いがしてしまう。何と素晴らしく冴えた映像作家なのだろうと、感激のあまり!

私は思わず、マロワンに不信感を抱いてしまった。その扉の向こう側で起こったありのままが映し出されないからこそ、マロワンに不信感を抱いてしまった。その線と線とが結ばれ、彼がその事件の【向こう側】にドップリ浸かってしまったのだ、と思った。

だが、さらにラストでそれを裏切ってくる。これがまた素晴らしかった。
彼が施そうとしたのは真に善意からであったとして、正当防衛が認められる。彼は有罪、黒であると、思い込んだそのすぐ後に、それがアッサリ覆る。まるで、オセロのゲームのように。

私はここでハッとした。扉の向こうであれば、このように私たちは簡単に判断を誤ってみたりするのだ。なんと恐ろしいことだろう。

そして、もう一度最後に思い返してみた。曇りガラスの向こうをずっと眺めていた、主人公のことを。

ガラス窓一枚を隔てた向こう側とコチラ側を、何と見事に描いた作品だったのだろう。その本質が描かれた作品だった。

ストーリー・・・
海辺の町で静かに暮らす鉄道員マロワン。ある日、ロンドンから来た男ブラウンによる殺人の現場を目撃した彼は、被害者が持っていた大金入りのトランクを海中から発見。それを手にしたことで、マロワンの人生は狂い始める。やがて彼の周囲にブラウンの影が・・・

倫敦〈ロンドン〉から来た男@ぴあ映画生活

 

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コメント(2件)

  1. とらねこ様
    スタジオゆんふぁのしんです。
    00年代映画ベストテン まとめ終わりました
    どうぞ、10年間の映画を振り返っていってください
    ご報告まで

  2. しんさんへ
    おはようございます〜♪コメントありがとうございました!
    おお、まとめも終わりましたか!
    今ちょっと引越し作業中で、しばらくの間、自由にネットを使える環境でなくなってしまうかと思うのですが、携帯から・もしくは落ち着いたらになっちゃうかと思うのですが、改めて遊びに行かせていただきますね♪




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