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千羽鶴 (’69) ▲21

千羽鶴’69年、増村保造監督作品
原作、川端康成の同タイトル作。ノーベル文学賞受賞記念作品
脚本: 新藤兼人
出演:若尾文子、平幹二郎、京マチ子、梓英子、南美川洋子




ストーリー・・・
鎌倉の円覚寺の茶会の席で、亡き父親(船越英二)と関係のあった栗本夫人(京マチ子)から縁談の席を設けられた菊治(平幹二郎)。だがそこにはまた別の父親の愛人であった、太田夫人(若尾文子)が居た。父は死ぬまで菊治の母ではなく、太田夫人を愛したという。菊治にとっては、太田夫人はずっと幼少の頃より嫌いな相手だった。だが茶席の帰り、亡き父親の面影を求めて菊治にすがるように現れた太田夫人を抱いてしまう。・・・


若尾文子と増村保造の最後のタッグ作品だという今作。川端康成の原作は未読。
だが、川端康成の原作のあらすじを読む限り、この作品には増村保造ならではの(あるいは脚本の新藤兼人の)脚色があり、少し原作とは違った色合の物語になっているようだ。


菊治をめぐる4人の女たちの関係は、彼の父親から受け継いだ部分が多分にある。
元愛人であった栗本夫人(京マチ子)を捨て、太田夫人(若尾文子)を愛するようになった亡き父親。そしてその太田夫人の娘である文子(梓英子)。
これに対して、一番父親と縁遠く関係がないのは見合いの席で出会った稲村ゆき子(南美川洋子)。だが彼女は、栗本夫人の茶席の弟子でもある。


「父親の女を征服してやろう」という気持ちで抱いたはずの太田夫人だったが、彼女の美しさや純粋さに惹かれてしまう菊治。
しかし太田夫人は、父親と菊治の違いすらついていない。ただ孤独から、誰かにすがっていたい、という気持ちから菊治に抱かれることを望む。


一方の栗本夫人は、そんな太田夫人を恨み、父親亡き後も、太田夫人を憎むことを生き甲斐にしているかのよう。栗本夫人の胸に大きくついた痣は、黒々と醜く、“このために男に嫌われる”と言う。子どもの頃の菊治にはこの痣は怖ろしく見え、まるで呪いのようにすら思える。
この痣は、まるで彼女の憎しみを表現しているかのように、怖ろしく描かれる。栗本夫人が太田夫人を忌み嫌い、彼女を死に追いやって平然としている姿は、女の情念の底意地の悪い、醜い部分を表している。


この栗本夫人のために、菊治は、太田夫人の美しさを余計に感じ、「人間でない女、人類最後の女」とすら感じるのだった。
この世のものから全て解脱したような太田夫人の姿は、儚く美しい。だが、そこに死の匂いが感じられる。


太田夫人の形見の品、薄口紅のついた志野の茶碗を、まるで太田夫人その人であるかのように愛でる菊治。
志野の茶碗を触りながら、肌を思い出す姿に、川端文学の耽美な表現が感じられる。


しかし、太田夫人の娘、文子によって、志野の茶碗と、父親の形見、唐津の茶碗を粉々に砕かれる。これにより、亡き父と太田夫人との呪縛が解かれる。
ここには、長く続いた茶の湯の道としての廃れつつある家元主義から解放され、近代の個人主義をまさに作らんとする表現が現れているようだ。


自分には、茶の世界はまるで分からない。が、分からないなりに推測するのみだ。
『千羽鶴』というタイトルを使用し、千羽鶴が出てくるのは、実際には冒頭のみである。
茶席に現れた、見合い相手の稲村ゆき子が持っている風呂敷包みに、千羽鶴の模様が描かれているのだ。
長く続く伝統芸である千羽鶴の姿に、日本の伝統文化、茶の世界の乱れと、家元主義を批判しているのだろう。
埃だらけでかび臭いという茶室、その茶室にて行われる父の愛人を抱くという行為。この茶室という世界に対して痛烈な批判がなされている。


しかし、にも関わらず、映像として圧倒的に美しさを感じるのは、日本家屋の美しさだ。茶室という閉鎖的な空間、伝統文芸に、衰退していく美を感じることが出来る。


 

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