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172●ラースと、その彼女

ラースと、その彼女人々の温かさが、しんみりと心に沁み込んで、
いかにも泣かせようとするシーンは一切ないのに、泣けてしまって仕方がなかった。
ハートフルな人間模様に打たれてしまった、そんな小さな良作。



ストーリー・・・
アメリカ中西部の小さな町に暮らすラース(ライアン・ゴスリング)は、優しくて純粋な青年で町の人気者だが、ずっと彼女がいないために兄のガス(ポール・シュナイダー)、義姉カリン(エミリー・モーティマー)らは心配していた。そんなある日、ラースが「彼女を紹介する」と兄夫婦のもとにやってくる。しかしラースが連れてきたのは、ビアンカと名づけられた等身大のリアルドールだった。兄夫婦を始め、街の人たちは驚きながらも、ラースを傷つけないようにビアンカを受け入れようとするが・・・

’07年、アメリカ。
グレイグ・ギレスビー監督作品。

ラースが彼女を紹介すると言って、連れて来たのは、等身大のリアルドール・・・言いずらいことをそのものズバリ言うなら、ダッチワイフ。
その人形、ビアンカに話しかける姿は、傍目から見れば、滑稽と言うより、不気味にしか見えない姿。

だけど、ラースの心の病が一体どこにあるのか、丁寧に描かれていくうちに、なんだか胸がキュンキュンと、痛くなってしまった。
田舎の町で起きた、奇妙な出来事。
後ろ指を差されたり、からかったりする代わりに、町の人々は、
ラースの話に合わせて、その人形ビアンカを受け入れていく。

彼らの優しさがとても温かくて、ラースの孤独が痛くて、寂しくて、
すごくすごく感動してしまった・・・。そんな、不思議な物語。

兄夫婦の反応というものが、主人公ラースと同様の割合で描かれていて、
心を病んでしまった張本人であるラースより、彼ら兄夫婦の気持ちに即して観客が見ることが出来たことも、またポイントが高かったことかもしれない。

兄嫁であるカリン(エミリー・モーティマー)は、すごくまっすぐな優しさで、ラースを心配したりして、彼女の優しさもとても嬉しかった。
ラースにとっての彼女は、優しくて、だけど少しお節介で、自分の魅力が自分で分かってない人だったから、ちょっと困るのよね。

冒頭の描き方がとても心に残るのよね。
ラースが住んでいる殺風景な部屋、これが、ラースとその外界を遮断するものとして象徴的に描かれる。
彼の住む一人の空間、ラースの部屋の窓越しに、彼女は入り込んで来ようとする。
彼が今や閉ざさんとする心の窓であるその扉を、ラースは開けることが、だんだん億劫になり始めていたのね。

心配し始めたカリンは、ラースも一緒に住むことを提案するのだけれど、
実はそのカリンの妊娠しているという状態が、ラースの心の健康にとって、一番不安にさせる要素だったのが、後で分かる。

「妊娠は危険だから、すごく危険なことだから、自分は心配でたまらないんだ・・・」
というラースの言葉に、私は悲しくなってしまった。
自分の出産のために母を亡くしてしまったラースにとって、カリンは、母性そのものの存在だったのだ。
カリンに対する憧れは、女性が苦手なラースにとって、一女性としての憧れではなくて、母性そのものに対する憧れが混じっていたのだ、ということが分かる。

町のいろいろな人に、彼女を作るよう、しょっちゅうせかされていたことに対しても、彼の心因の要素の一つだったと言える。
よく考えてみれば、本当にそういう点で、「人ってお節介だなあ」、と思うよね。
インターネットにも、雑誌の広告にも、目にするあちこちに性欲を掻き立てる様々な写真や、文言に溢れていて、
まるで、性欲過多であることを、社会全体で促進しているかのよう。

こういう絶え間ない性欲増進への様々な事柄、余計なお世話が、女性の苦手な彼にとって、いつしか心労の原因のひとつになってしまうのもとても自分には、納得がいくことだった。
結果、ラースにとって「彼女を連れてくれば皆が受け入れてくれるに違いない」という答えになってしまっても仕方がないのかも・・。

ラースは、実際、ビアンカ人形と二人だけになる環境を選ぶのではなく、
彼女を、兄夫婦の居る“ピンクの部屋”に住まわせようとすることでも、それと分かる。
つまり、ラースが兄夫婦の家に一緒に同居する要因を作るのは、ビアンカ人形だった、と言えるのだ。

このような状態を、町の人々が受け入れていく様子は、なぜか自分に、ティム・バートンの『シザーハンズ』を思い出させた。
一つの宇宙を形成するかのような、箱庭的田舎町、それは『シザーハンズ』とは違っていて、
人々の優しさ・温かさ、思いやりで溢れた、童話のような空間なのだった(と言っても、『シザーハンズ』を貶している訳では決してないのでご注意を。あちらも自分の大好きな作品です)。

ラースが、とうとう「誰も自分のことなんて愛してくれない」、と“本音”を吐くことが“出来た”瞬間がある。それは、パーマン医師(パトリシア・クラークソン)がラースの診療を、日々きちんと見てくれたこともあるのだけれど、
その“瞬間”に、カリンがそれを「違う!」とまっすぐに素直な意見をぶつけてくれたこと。これも、ラースがいい方向へ向かうことを可能にした要因だ。
ラースは、このカリンの一言で自分の葛藤と戦うことになる。人形と“口論を交わす”ことになるのも、そのためだ。

ラースの孤独が、すごくすごく伝わって来て、終始涙が流れてしまった。
だけど、辛くて涙が出てくるのではなくて、人々の温かさが感じられたから。

普段から、思いやりに溢れる優しい人というのは、自分もそうなりたいと憧れるけれど、
一方でどこか自分は冷たくて、心が冷えていて、到底出来ないことだと思っている私には、
少しでも今よりマシな人間になろう、なんてマジで思ってしまったのでした。

ラースと、その彼女@映画生活

 

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コメント(63件)

  1. ラースと、その彼女

    彼が恋に落ちたのは…等身大のリアルドール!

  2. 「ラースと、その彼女」

    人間の温かさが良く出てた映画だったなぁ。笑って、そしてホロリ

  3. 初めまして kiyoです。公開時に見れなかったのでdvd発売待ってました
    最初は[人形を彼女なんて……]笑ってたんですが段々とラースの苦しみを見るのが辛く笑えませんでした。
    それにしもライアンゴスリングの繊細な演技には圧倒されました…同じライアン主演の[きみに読む物語]も大好きな映画です。
    ラースを支える会社の同僚 兄夫婦 女性医師 教会の仲間全てが暖かく…ビアンカ人形に理解するエピソードにはまた涙…ラストの葬式での場面で会社の同僚の彼女にラースが言う[少し歩こうか?]セリフに …また涙しました。ほんと良作です。

  4. kiyoさんへ
    こんばんは、初めまして!コメントありがとうございました。
    この作品、私すっかり惚れ込んでしまって、去年のベスト10にも入れたほど大好きだったんですよ。
    この作品で来てくださるなんて、なんだかとっても嬉しいです。
    ライアン・ゴスリングの演技も本当に良かったですよね!
    私も『きみ読む』当時に見てますよ、でもこの頃はこんなに上手いとは思ってなかったので驚きました☆
    今後がまた楽しみな俳優さんになりましたよねえー♪
    ラストのシーンで涙が出てきちゃったんですね、あれは「一皮剥けたラースの姿」だったと思います。
    私もじわっとしたシーンです。

  5. ラースと、その彼女

    劇場公開を見逃してしまった本作、やっとDVDで鑑賞しました。
    「独身の男性が等身大の女性の人形を恋人といって連れ歩く」
    これだけ聞くと、何だか怪しげな危ない映画?と誤解を生みそうなストーリー。
    実は、心に傷を負った男性が、その傷を乗り越えて新たな一歩を踏み…

  6. ラースと、その彼女

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    これだけ聞くと、何だか怪しげな危ない映画?と誤解を生みそうなストーリー。
    実は、心に傷を負った男性が、その傷を乗り越えて新たな一歩を踏み…

  7. ラースと、その彼女

    ビアンキなら僕もほしいんだけど…。
     
    ラースと、その彼女 (特別編) [DVD]posted with amazlet at 09.09.1720世紀フォックス・ホーム・エンターテイ??.

  8. ラースと、その彼女

    レンタルで鑑賞―【story】人付き合いが苦手なラース(ライアン・ゴズリング)が、ガールフレンドを連れて兄夫婦(エミリー・モーティマー、ポール・シュナイダー)と食事をすることに。しかし、ラースが連れて行ったガールフレンドとは、インターネットで注文した等身大のリ…

  9. やさしさ

    ●「ラースと、その彼女」クレイグ・クレスピー監督(2009) (1)この映画のコメントで一番近い感想は↓これ。どうしてあの人形からこんなに優しくてきゅーっとくる純粋なお話が作れるんだろう大勢の人の たくさんの愛とたくさんの優しさ感じる好きなセリフは『人が喜ぶ言葉は…

  10. mini review 09422「ラースと、その彼女」★★★★★★★☆☆☆

    アカデミー賞脚本賞にノミネートされた、ハートウォーミングな人間ドラマ。インターネットで注文した等身大のリアルドールとの恋愛関係に没頭する青年と、彼を取り巻く町の人々の人間模様が展開する。リアルドールに恋をする主人公ラースを演じるのは『きみに読む物語』のラ…

  11. とらねこさん、はじめまして(*^_^*)
    いい映画でしたあ。
    ちょっとずれてたり変てこだったり、“痛い人たち”って私のツボなんです。シンパシーを感じるせいかしら〜。
    人形に話しかけたり一緒に出かけたりする成人男性なんて、かなり異常だし危険人物ですよねえ。
    でも正常と異常の境界線って、すごくビミョウ。
    彼を異端視せず受け入れる周りの人たちの温かさが、彼をきちんと目覚めさせちゃんとこちら側に戻させてくれた。そこがスゴイ。
    人の孤独な心は、人の思いやりや優しさでしか癒せないんだなあ。
    これは理想の世界です。でも、私も優しい気持ちで温かなまなざしで生きてゆきたいと思いました。

  12. わかめさんへ
    初めまして!こんにちは。
    コメントありがとうございました!
    私の好きなこの作品で、いらしていただけたのがとっても嬉しいです!
    おっしゃるコメントもとても共感いたしました。
    ああ、私と同じように感じられた方なのだなあ、・・・そんな風に思いましたよ。
    そうなんです、何が正常で、どこからが異常なのか、って・・・。
    それを疑うことなく過ごしている人もきっといるだろう、と思いますが。
    この作品は、おっしゃる通り、人の優しさを箱庭的に描いたファンタジーのような世界ですよね。
    でも、そういう理想があったっていいじゃないか、そう思えることが出来ました。
    彼を受け入れる周りの姿が本当に嬉しくて、心を打ちました。

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