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162●ブタがいた教室

ブタがいた教室「食の安全」について、最も問われた今年。
その最中に上映された今作。
だけど、この物語が問うていたのは、そもそも、食の安全以前の話だった。生き物を食べる、ということについてもう一度考える・・・。
かなり満足の行く、今年一番の邦画。



ストーリー・・・
「卒業までの1年間でブタを飼育し、最後にはみんなで食べたいと思います」─新任の星先生(妻夫木聡)の提案に6年2組は騒然となる。校庭の片隅に小屋を作り、掃除、エサやりなど生まれて初めての経験に戸惑いながらも、成長してゆくブタに愛着を抱いてゆく子どもたち。“Pちゃん”と名づけ、家畜ではなくペットとして慈しむようになるが、卒業の時は迫り、Pちゃんを「食べる」「食べない」で教室を二分する大論争が巻き起こる・・・

’08年、前田哲監督。

正直、もう少しベタベタな感じを予想してたのだけれど、その予想は見事に、良い方に裏切られました。納得のいく作品。
この作品が提示していたのは、問題提起であって、それに答えを出すことではなかった。

命がテーマになっている物語なので、もちろん、答えなんて出ない。
花ちゃんが出した、「命の長さは誰が決めるの?」という問題であるそこには、考えても考えても、誰も答えが出ない。
子供たちが自分たちで考えることを狙った星先生と同じように、この監督も、この作品でももちろん、答えとなるべき何かは描いてはない。しかし明確なビジョンで様々な問題提起がなされていて、あまりにクレバーな、上手な作品構成に、舌を巻いた。

私たちが日々口にする、食品。肉食である私たちは、普段、元は命あるものを食べているという事に、あまり疑問を持たずに過ごしている人の方が圧倒的に多い。
ベジタリアンの少ない、日本という国。

モンスターペアレントという、自身の家庭での一切の責任を、学校教育という場に押しつけて、
過保護であるが故に、担任の教師や学校に文句ばかりいう、困った親たち。

教育の在り方というものは、どんなに語られても言い尽くせるものではないのだけれど、
ここで描かれる新任の星先生の、思い切った授業計画。
しかしこれが事実を元に描かれた物語だったということには、少なからず驚きを感じてしまう。
こんな、『窓際のトットちゃん』みたいな素晴らしい学校があるのか・・・!と、感激してしまった。
学校教育の根本を問う、素晴らしい作品だ。

ちょっと話がズレるのだけれど、私は小学生の頃、宮沢賢治がベジタリアンだったという伝記を読んでも、あまりピンと来なかった。
「優しい人だとは思うのだけれど、栄養失調になっちゃダメじゃん。」なんていうしょうもない感想文を書いて、担任の先生をガッカリさせた(担任の先生は、私が本が好きなので、私に感想文を無理やり書かせたのでした)。

何より、物語のテンポが良くて、音楽が素晴らしい。こんなに素晴らしい映画音楽なんて、なかなかない。
それは、冒頭からいきなり、星先生の授業計画をまっすぐテーマの真ん中に据えることを可能にし、物語にダルい展開を一切排除するという役割を得てもいる。こんな映画音楽の見事な使い手は、邦画には珍しく、心地の良い驚きを感じる。この冒頭だけで、この作品を見に来て正解だった、と自分に思わしめたほどに。

そして、この音楽はまた、教室の日々の生活をライブに感じさせるものとしても、上手く役割を演じている。
子供たちの持つ、瑞々しい生命の動き、テンポ、星先生の懸命の働きに邪魔をするものがないかのように。

だから、そこで小うるさい親たちが出て来て、校長と星先生へ、直談判をするシーンは、かなりカチンと来た。
でも本当は、親からしてみれば、当然のことなのかもしれない。
だからこそ、その五月蝿い親たちを、一言で黙らせた校長(原田美枝子)の台詞に、私は泣けてしょうがなかった。
きっと、校長先生には、その時の星先生が見えていなかったことも、きっと見えていたんだろうなあ、と思う。

きっと、事実の物語では、もっと省略されていることがたくさんあるに違いない。
だけど、この作品では、この映画という短い時間の中に、そのエッセンスを凝縮することを、一番気遣われているのだ。だから、ありがちな邦画と違って、退屈な台詞のやり取りが少ない。

黒板

 

 

 

 

 

 

 

 

 

代わりに描かれているのは、子供たちのホームルームだ。
子供たちが自由に発言を交わすのを見守った星先生の姿と同様に、作品ではホームルームで議論される様子を、つぶさに映し出している。

“Pちゃん”とブタに名前をつけてしまったが故に、一介のブタはペットになってしまう。
肉がだんだん食べられなくなる子供たちもいれば、Pちゃん以外のブタは食べられる子もいる。
家がレストランの子供も居て、彼には彼の意見があって。子供たちそれぞれに意見があるのだ。

子供たちだけで交わされるホームルームの議論は、きっとここで描かれたように、多種多様な問題が出たとは自分には思えないし、
おそらく本当はもっとたくさん、無意味で感情的な会話が交わされたことだろうと、意地悪に思わなくもないけれど、
それでも、この作品が“映画の中で、様々な議論を呼び起こすもの”として考えれば、これだけのいろいろな意見が描かれていることに、心地よい納得感が得られる。

難を言えば、ないこともなく、ラストはちゃんと描いていない、と言う人もいるかな?確かに綺麗にまとめ過ぎていると言えなくもないけれど、
ま、これだけいろんなことを盛りだくさんに詰め込んだのだから、見事な手腕と言える。

考えるべきなのは、この作品の中だけではなく、
自分たち自身の普段の生活の上でのことなのだから。

ブタがいた教室@映画生活

 

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コメント(19件)

  1.  とらねこさん、おはようございます♪
     この映画、観るつもりであとまわしにしてたら、今週末で東京はロードーショー終了で。駆け込み鑑賞が間に合いそうにないので、とらねこさんのレビューを読んで、いつかDVDで観るときの予習にしました。
    >今年一番の邦画
     そうだったんですね。ベタに行くのではなく問題提起性を出した内容というあたりに、より興味をそそられます。
    >「優しい人だとは思うのだけれど、栄養失調になっちゃダメじゃん。」
     私が先生だったら、「その着眼点は一理ある」って褒めちゃうな(笑)。

  2. はじめまして。
    映画大陸さんのとこから来ました。
    鉄犬子と申します。
    ご存じだと思いますがこの映画はNHKで放送されたものが確か題材になってると思います(アンコール放送で何度か再放送された様ですね)。
    NHKの方は最後は確かきちんと終わってました。そりゃそうですよね。実話なのだから…
    とらねこさんが褒めてらっしゃるのでDVDで是非拝見したいと思います。参考になりました!!
    余談ですが。
    当方、ホラーが見たくても怖くて見れないので。
    映画大陸さんとレザボアCATsさんの感想でいつも満足していました。
    また読ませていただきますね!!

  3. 香ん乃さんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    そうですね、都下はともかく、都市部ではもう上映終了ですが、まだまだ全国ではこれから、というところもあるようですね。
    重いテーマを扱った作品だったのですが、とても爽やかに描かれていて、
    「中学生日記」ではなく、ちゃんと映画の作品になってたと思いますよ♪
    構成が上手いので、見ごたえアリです♪
    そうですね、ベタな感動モノじゃないところが良かったです^^
    アハハ、宮沢賢治の良さは、小学校低学年の頃の自分には、ちゃんと理解できてませんでした。
    『雨ニモマケズ』の精神とかも、実はちょっと苦手だったんですよ。
    「この人実は凄いかも」と思ったのは、中学生以降になって、『注文の多い料理店』を読んで以来です。
    結構ブラックな作品も書けるんだなあと、気に入りました♪

  4. 鉄犬子さんへ
    はじめまして!こんばんは。
    コメントありがとうございました。
    「映画大陸から来た」なんて、嬉しいですね!
    私もちょうど、蔵六さん、今頃何しているのかなあ?なんて思ってたところでした。
    あのブログは、映画感想にかこつけて、自分の話(蔵六さんなら“与太話”と言いそうですが)が書いてあるところが好きでしたよ♪鉄犬子さんはいかがでしたか?
    鉄犬子さんのように、ブログをやられていない方からコメントをいただくのは、とってもありがたいですし、実際、ブログをやられている方の何倍も嬉しかったりします。
    どうぞ、今後もよろしくお願いします!
    そうですね、この物語、90年に大阪で実際にあった出来事が元になっているのですが、
    おっしゃるとおり、ドキュメンタリーは、’93年に制作されていて、これがいくつか賞を取ったり、
    当時かなりの論争を巻き起こしたそうで、このドキュメンタリーを見た監督が、この物語の構想を練ったらしいですね。
    私自身は、一度も見たことはないのですが・・。
    これ、なかなか上手に作られていて、映画としても、素晴らしい出来映えだったと思います。
    そうですね、DVDでもし見たら、是非とも感想を聞かせてください!

  5. 僕も見たいと思っていた映画なんですが、とらねこさんのブログを読んだら息子と一緒に見たくなりました。
    息子が6年生になったら一緒に見ようと思います。

  6. ヒツジさんへ★
    おはよーございます!二度目まして♪コメントありがとうございます!
    そうですね!これ、お子さんと見るのに、すごくいい作品かもしれませんね!
    私が見に行った時は、小学6年生より下と思われる小さい子を連れて来てるお母さんもいましたが、おっしゃる通り、小6まで待った方が良いのかもか!
    ヒツジさん、見たら是非感想聞かせて下さいね!

  7. ●ブタがいた教室

    コブタとしてはコレは外せないジャンルブタ作品!『ブタがいた教室』!
    撮影するという話が浮かんだときから楽しみにまっていました。
    魚…

  8. コメントありがとうございました〜
    コレは観る前まもっと、ベタでクサい内容なんじゃないかと不安だったのですが、観て引き込まれてしまいあした!
    生徒や星先生と一緒に喜び悩んでそんな時間でした。
    食べるということが、他者の命を奪ったうえでの行為というのを改めて思いしらされて考えさせられますよね。
    コチラの授業、実際は2年半でラストは結果は同じではあるものの、この授業はキチンと2年半で終わらせる事という校長との約束が大きかったと、先生がおっしゃってました。
    この映画の元になった授業、ドキュメントで放送されたとき、批判的な意見が大半だったというのに私が意外でした。
    たしかに、実際行うには問題の多い授業ですが、その意義は凄いと思うんですよね〜。
    実際授業を受けた生徒は大変だっただろな〜と思う反面 羨ましいと思ってしまいました!

  9. コブタさんへ
    こちらにもコメントありがとうございます♪
    そうですよね、私も、ベタな内容で、いかにも感動作!といったテイストでないところが、すごく気に入りました!
    そうですね、食べるという行為について、一度疑問を持って、そのありがたみを知る・・
    それだけでも、星先生の授業は、評価されるべきだたと思います。
    私も、ここに出て来た生徒たちが、すごく羨ましくなりました。
    校長先生の台詞にもありましたけど♪
    そうですか、実際の話では、最初から6年生の話ではなかったのですね。
    それは長い期間に及ぶ、子供たちにとってはもっと苦悩しただろうなあ、なんて思ってしまいます。
    そうですね、私も、この実際の授業に関して、たくさん批判が寄せられた事には、とても意外に感じます。
    でも、多くの人は、常識に捉われ過ぎていて、大事なことから目をそらす、それが根本にありますね。
    日本人の意識や、教育の在り方そのものに大きな波紋を投げかける、事件だったからなのでしょうね。
    だからこそ、自分は星先生の授業は多くの意味があった、
    そして、この映画にも意味があるものだった、という気持ちがいよいよ強くなるばかりです。

  10. ブタがいた教室・・・・・評価額1500円

    究極の食育映画。
    人間は、他の命を取り込んで生きている。
    それは生命の必然であり、ある意味原罪なのだと思うが、嘗ては当たり前のように??.

  11. ドラマというか半ドキュメンタリーというか。
    こういうアプローチで作られた作品というのはあまり記憶にありません。
    小学生たちの議論の中に、自分も放り込まれたような不思議な感覚でした。
    非常に深いテーマを持った素晴らしい教育映画だと思います。

  12. ノラネコさんへ
    こちらにもコメントありがとうございました〜♪
    そうですね、このアプローチ、なかなか良かったですね。
    確かに、小学生の議論は、自分だったらどうするか、と思いながら見てしまいました。
    “教育映画”というととても退屈そうに感じますが、実際は、モンスターペアレントや、教育現場に携わる人にも見て欲しいなあ、なんて思います。

  13. この映画は別にドキュメンタリー作品でもいいのではないか?という声もあるそうですが、私はそんなことはないと思います。
    きっとドキュメンタリーになれば見るほうも「他人の話」として見ていたでしょう。
    でもこういう小学生のナマの討論も入れた作品にすることで、見ている方も真剣にこの命の問題について考えることができたと思いました。

  14. 『ブタがいた教室』

    自分たちで飼育したブタを食べるか、食べないか。私はこの映画を見る前から「食べる」派でしたし、映画を見終わってもその意見がブレることは一切ありませんでした。なぜならかつて犬を飼っていた私には犬であろうとブタであろうと、一緒に楽しい時間を過ごしてきた家族を他….

  15. にゃむばななさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    そうですね、事実を元に映画にするべきか、ドキュメンタリーにすべきか。
    この辺りって、意外に実は難しいんじゃないか?なんて最近思います。
    小学生の生の討論、と言うことですが、自分は正直言うと、それら全部鵜呑みにしている訳じゃなかったりするんですよね。

  16. こんばんは♪
    『ブタがいた教室』って田畑智子のことかー!?
    て位にバタ子がパンパンになってたことに驚愕しました
    そのデニーロアプローチに何の意味が!
    そっちに気を取られてしまいましたヨ(笑)
    元ネタの話もNHKドキュも知らずに観て、星べーが「最後にみんなで食べようと思います」言うもんだから、屠畜からさばいて給食でおいしく召し上がるとこまでやったのかと…
    小学生相手にいくらなんでもそりゃトラウマ必至だろーと心配してたら無難なオチで安心しました
    子供達の議論、二つに割れたってのが意外
    「食べる」オチは星ベーが決めたゲームのルールであって当のゲームマスタがプレイヤーに意見委ねた時点で縛られなくても良い訳だから普通に感情論に振れるかなぁと
    ま、名前付けちゃうのはダメですね…
    どーしても名付けたかったら「肩ロース」とか「ホイコーロー」とかにすべし(笑)

  17. みさま
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    田畑智子、やっぱり少し体重増えてましたよね。
    自分はこれまで彼女の体重がどうとか考えたことなかったんですけど、『アフタースクール』の時より格段に増えてるような・・・?
    ラスト、ちゃんと映してくれるかと期待してたのに、ヒヨってましたよね〜
    「給食の中にしょうが焼き」ぐらいは必須項目!のラストだと思ったのに。。。
    残念です、『ファーストフードネーション』状態にしろとは言いませんが(笑)
    そうですね、子どもたちの議論が分かれたのは正直意外でしたよね。ガッカリしてしまいましたよ。
    演技指導の代わりに、考え方の指導という時間はきっと多く割かれたのではないかと思います。
    この映画に出た子どもたちにとっては、きっとこの学校の生徒たちと同じように、たくさんこの問題について考えたことでしょうね。
    >普通に感情論に揺れるだろうと
    私もそう思いましたね。てゆーか、自分がその立場だったら、食べられない派になっちゃいますね、きっと。
    >肩ロースとかホイコーロー
    うわああ!!上手い、上手すぎる・・
    オチが鮮やかッスーきゃはー♪

  18. ブタがいた教室

    2008年:日本
    監督:前田哲
    出演:妻夫木聡、原田美枝子、田畑智子、大杉漣、池田成志、ピエール瀧
    1990年に大阪の小学校で実際に行われ賛否両論を巻き起こした授業を映画化。6年2組の担任となった新米教師の星先生は、子ども達に生き物を食べるということに真剣に向….

  19. 「ブタがいた教室」 本物の涙

    ずっと家にあったのに見ていなかった映画。
    わーっっ!りょうたが6年生のうちに、一緒に見なくては!!
    今週末に卒業式を控えたりょうた。
    ブタを飼育した6年生の一年間を追った話は、今こそ見るべきだわ☆




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