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#70.悪い女 〜青い門〜

悪い女 〜青い門〜キム・ギドクスーパーマンダラにて鑑賞。ギドクLat.3作目の作品。’98年。
もともと『青い門』だったという、この作品を、『悪い男』と呼応させて、この作品が『悪い女』になってしまった作品だという。だけど、それも納得のタイトルだと思う。
いろいろと賛否両論があるのだけれど、私は、ギドク作品に、凝った日本語タイトルをつける事に対して、割といつも賛成派だったりする。




なぜなら、日本人のギドクに対する愛を、余計に感じるから。
たとえば、『うつせみ』という邦題が、韓国語原題では『空き家』だったり、
絶対の愛』という邦題が『時間』だったり・・・。
凝っていて、しかも人の気を引くような、余韻を持たせるような、素敵なタイトルであって、きちんと内容に即しているとも言える、タイトルだったりする。

きっと、キム・ギドクの映画が本当に好きな、センスもある人が、邦題を考えていて、
「自分こそ、素敵なタイトルをつけてやる!」
と言う気負いが感じられて、・・・私は好き。邦題の良しあしで、客の入りも違ってくるかもしれないとすれば、そうした邦題をつけたくなる気持ちも、十分分かるじゃない。


その対にされた『悪い男』との共通点と言えるべきところは、浜辺で座る映像が『悪い男』にも出て来たシーンを思い出させるし(と、言っても『悪い男』の方が後なのだけれど)、
そして、主人公のヘミが娼婦であり、大勢の人から賛辞を得られる職業ではないところも、共通しているかな。


悪い男』でも、主人公であるヤクザの男が、惚れた女をさらって来て娼婦に売り飛ばした事が決して許せる行為ではない、と考える人には同様に、
こちらの作品でも娼婦であるジナの起こす行動を、受け入れられない人には、ラストでもう一人の女、ヘナが起こす行動もまた、受け入れることが出来ないだろう。

とは言え、どちらもそうした一般の価値観に照らしてしまうと、仰天するような出来事を描いていていて。それなのに物語に惹きこまれ、ラストには驚くような幸せ感の漂うエンディングになっている・・・そんなところがまた、両作品の魅力だったりもするのだ。


ストーリー・・・
ソウルから海辺の街に辿り着いた娼婦ジナ(イ・ジウン)は、青い門が目印のひなびた娼館で客を取るようになる。
宿の娘ヘミ(イ・ヘウン)は、家業を嫌悪し、性に閉鎖的で、ジナを軽蔑するが、ジナはヘミのボーイフレンドや家族とまで関係を持つ・・・。


あのぅ・・・私は実は初め、このヒロインの女性の顔が何となく好きになれませんでした。顔の下半分にパーツが集まっているような顔で、どことなしに好きになれず・・・。
ギドク作品には魅力的な女性が出演することが多いのに、このヒロイン、ジナはなぜチワワ顔?・・・なんて正直思っていたのですね。


でも!この女性が持って来て宿屋の自分の部屋に飾る絵画、これがエゴン・シーレなんですね(・・・そう、『悪い男』でもエゴン・シーレだった!)。
そしてこの、ボンヤリと夢を見ているような顔と、抱きしめたら崩れてしまいそうな、儚げなボディとその輪郭の絵。・・・
これが、このヒロインにそっくりな顔をしていて、まるで、このエゴン・シーレの絵のために、この女優をキャスティングしたのじゃないか?・・・と思えるほどだったんです!


さらにさらに!このヒロインの名前に注目していただくと、娼婦ジナイ・ジウン
対照的な女子大生で、もう一人のヘミは、イ・ヘウン、という名前なんです。
なっ、何と、名前もソックリ

前者はジウンのジを取っているかのような、ジナ。
後者は、ヘウンのへを取っているかのような、ヘミなんです・・・。
なんていう狙ったキャスティングちょうどいい役者を選んだものだなあ。


で、この二人が、全く逆の価値観の持ち主であるストーリー冒頭から、対立する中で、だんだんと関わってゆく物語なのです。

自分の家が、物心ついた時から娼婦のいる宿屋を経営していたら、それを友達や、ましては恋人になんて知られたくない、と思うのは、当然だ。
そして、そのために、性に対して嫌悪感を抱く、という気持ちは良く分かる。
「自分と、この娼婦とは、全く違う世界の住人」と考えるだろうと思う。


それに、・・・そうでなくても、思春期の女性には、妙に性を毛嫌いして、そうした話題に触れるのも嫌い、という潔癖な気持ちになる時期も、あったりする。
そうした思春期の問題もあれば、さらに女性には、2種類あるかのように、私は思う。
性行為自体があまり好きでない人もいるし、その逆もいたりして。


ただ、この娼婦が後者かと言うと・・・、ジナの場合には、またもう少し複雑な事情があるようだ。
おそらく、男のことで身を落とし、逃げるようにソウルを離れ、自分を粗雑に扱うかのような、この仕事に就いた経緯がある様子。
そんな過去のある女性であり、その表情はどこか飄々としていて、痛みを抱えている。


この真逆な二人の間に、自然と友情が生まれる様子は、見ていてとても心が和んでしまった。
娼婦ジナにとって、一番欲しかったのは、自分とその体だけを受け入れる、必ずしも男性ではなくて、心を通わせる相手が欲しかったのだと思う。
もしくは、男性は体で簡単に繋がるために、心の繋がりをなかなか見出せなくなっていたのだろうか。
そして、自分を堂々とケナしてくる、まっすぐで純粋で、自分と全く異なる価値観を持つヘミは、なんだか気になってしまう存在だったのだろう。


同級生でも、何となく気になるからこそ、友情を結べず、
お互いを良く知らないままに嫌い合ったりする、女の子同士のよう。
この二人は、年も同じくらいだったから、そんな理由も、お互いを気になる要因になっていただろう。

そして、そんな物事というのは、あるいは、どうしても変えようがないように考えられる価値観、というものですら。実は絶対というものはなくて、・・・
自分の持っていた価値観が、ある日誰かの影響で、ひっくり返ることもありうるのだ。若いからというのもあるかもしれないが。


そして、友達に近づこうとするからこそ、同じ行動を取ってみたくなる気持ち・・・。これは、後に『サマリア』で描いた世界と呼応している。

女の子同士が近づく手段というものは、相手と同じような行動を取ることだったりするのだ。なぜそんなことを、ギドクは知っているんだろう。
そして今回もまた、ラストにおいて、不思議なまでの幸せ感に包まれた私だ。

悪い女@映画生活

 

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コメント(12件)

  1. わぁー
    なんだかキムギドク監督作品いっぱいで嬉しくなっちゃいました(^^)
    TBで何度かお邪魔しておりましたが、コメントはお初です。
    今後ともよろしくお願いします♪
    この悪い女も(私も最近観ました)とらねこさんの記事を読んでまた新たになるほどな!と思うこと多々でした。
    何の表現でも、いつも押し付け無しにさりげなく、でも深くて巧みな監督。
    女性どうしのこの関係も、どちら側にも頷いてしまう自分がいて、
    これを男性の監督が描いているのだと思うとこわいぐらいです。

  2. sum-vaさんへ
    こんばんは〜☆こちらでは初めまして♪コメントありがとうございます!嬉しいです*^^*
    (あ、以前あちらでメールありがとうございました☆)
    あ、sum-vaさんも、最近この映画を観られたのですね☆それは、記事を是非とも拝見させていただきたいです〜♪
    そうなんですよね、この作品、なんて言ったらいいか・・・
    いつもそうなんですが、物語が始まった頃と、その中盤と、終わり頃で、全く気持ちが違っている自分がいるのに、ビックリしてしまいますよネ。
    キム・ギドクは、物語の語り方のレベルが全く他の人と違うんですよね。
    ここがたまらないんですね〜♪
    またよろしくお願いします〜☆

  3. とらねこさん、こんにちは〜
    >このヒロイン、ジナはなぜチワワ顔
    ごめんなさい、すごく言えてて、爆笑しちゃいましたw
    エゴンシーレ、ギドク監督お好きそうですね。
    サマリアや、女子同士の部分とか、とらねこさんのレビューは、いつも深いですなぁー!なるほど、そうだよな〜って思いながら拝見させて頂きました☆

  4. キム・ギドク監督作品まとめ 「うつせみ」「悪い女」他

    キム・ギドク監督 今までのフィルモグラフィー(★は私が見た映画)
    現在、「鰐」から「TIME 絶対の愛」まで、全部見ています。
    real fictionを見終わったので、以前書いた記事を整理しなおしました。m(_ _)m
    ★ y.yahф

  5. こんばんはー。
    「悪い女」はそんなに期待しないで観たので、
    かなりおもしろかったですー。
    悪い女なんだから、男をたぶらかすのは当然ですが、
    まさか女子の気持ちまで掴んでしまうとはー。
    家族ぐるみで虜にしちゃうっていうのは意外でおもしろかったですー。
    「鰐」と「ワイルド・アニマル」はテンポがよすぎる劇的さにちょいと辟易・・・。
    でも、水づかいはどれもお見事でした。

  6. latifaさんへ
    こんばんは☆コメントありがとうございます!
    やっぱりイ・ジウンはチワワ顔でしたよね♪
    エゴン・シーレの描く絵にそっくりだったので満足しちゃいました。
    女子同士の不思議な連帯感、同感していただけます?よく女の子同士って、トイレに一緒に行く人が、一番仲のいい友達だったりするんですよねぇ。
    「深い」、なんてことは全然なくて、思いつきで書いてるだけなんです。お褒めいただき恐縮ですー☆

  7. 悪い女 青い門:金魚を海に逃がすと死んじゃうよ ユーロスペース

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  8. かえるさんへ
    こんばんは〜☆コメントTBありがとうございます!
    かえるさんもご覧になりましたかー♪
    私はこの作品は、中盤までは「あまり好きになれそうもないかも・・」と思って見ていたのですが、途中から面白くなってしまいました。
    これまた、不思議な魅力のある作品でしたよね^^
    家族ぐるみはちょっとビックリしましたねw
    かえるさんは、『ワイルド・アニマル』『鰐』はダメでしたかー。
    確かに今よりずっと下手だったかもしれませんね・・ただ私は他の人の作品より、最早、よほど好きになれてしまうのです^^

  9. 悪い女 青い門:本当に醜いのは誰だ?

    ★原題:青い大門(〓〓 〓〓) ★監督:キム・ギドク(1998年 韓国作品) レンタルDVDにて鑑賞…

  10. こんばんは、コメント・TBありがとうございました。
    ちょうど1年前に見たこともあり、やや記憶が薄れているのですが、
    今まで見たギドク作品の中では、一番穏やかな雰囲気だったと思います。
    海からの湿気を含んでカビ臭そうな(?)売春宿のたたずまいや、
    ラスト近くの不思議な「一家団欒ムード」などが印象的でした。
    男の私が言うのも何だかへんな感じですが・・・
    ギドクは女性心理をできるだけ丁寧にくみ取ろうとしている気がします。
    ヒロインを、決して「男の目線」だけでは追っていないというか。
    そのあたりが、女性観客にも受け入れやすい要素なのでは・・・
    などと思っています。

  11. 椀さま
    こんばんは☆コメントありがとうございました。
    そういえば、私が椀さまとコメントTBさせていただくようになったのは、椀さまが“朱雀門さん”の時。
    それ以来、椀さまの絵文字指定は、赤い門をイメージした、赤い旗で椀さまの名前を囲っているのです

    この映画は、青い門だったので、ついつい余計な話をしてしまいましたw
    >海からの湿気を含んでカビ臭そうな(?)売春宿のたたずまいや
    あー!本当にそうですね☆いかにも海の匂いがしてきそうな感じでした。
    少しだけ『受取人不明』の家と似ていましたが。
    この作品は、珍しく、女性同士の友情の話でしたね。予想だにしなかったので、とてもビックリしましたよ。
    そうですね、頑張って女性心理を描こうとしているのかもしれないなあ*^^*

  12. DVD 「悪い女  〜青い門〜」

    「青い門」を観た。
    好きな作家キム・ギドク監督の旧作を今になってレンタルで。
    保守的な人々にとって受け入れられないようなインモラルを描きながら、やはり揺さぶられてしまったな、この作品にも。機軸がちゃんとあるので意外に分かりやすいしストレートな作品だと思…




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