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※12・13.『蚊トンボ白髭の冒険(上・下)』

蚊トンボ白髭の冒険作者/藤原伊織


『テロリストのパラソル』で江戸川乱歩賞を受賞の、藤原伊織著作。
裏経済&社会を絡めた、ハードボイルドタッチのミステリ・ファンタジー小説。
文句なく楽しく読める佳作!




この小説を持ち歩いていた時に、友達に会ったのですが、私は友達にこう説明しました。
「これね、めっちゃ面白い小説なの!
なんたって、“ミギー”プラス“スタンド”なの
スタンドがミギーで、ミギーがスタンドっつーかね。

っていうか、


ミギー、 in! my! Brainnn!!
なんだよ
面白そうでしょ?????」


すると友達T君は、さすがに私の友達だけあって、話が早い。
「“スタンド”って、スティーブン・キングの『ザ・スタンド』ですか、ジョジョの“スタンド”ですか」


とら「おおお!!!ゴメンゴメン、ジョジョのスタンドの方ね。」
  (私としたことがS.キングでツッコまれてしまったわ)


T君「あ、これ、『テロリストのパラソル』の藤村伊織ですね。
   僕江戸川乱歩賞は全クリ、ほぼ家に揃ってます。
   それ、今度読んでみようかな」

・・・この人のように、これだけで分かってもらえれば話は早い。
「以上!!
ってな訳で、読んでくれ〜!!」

と、終わらせられるなら、私には大変ありがたいことなのですが、念のため、意味が分からない方もいるかと思いますので、この素晴らしいエンタメ小説について、もう少しお話させてください。
あ、ちなみに、“ミギー”とは『寄生獣』に、“スタンド”は『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくるものです。


この話では、ある日、主人公、達夫の頭の中に奇妙な生物が寄生します。
この奇妙な生物は、特殊能力として、運動能力を脳内変換で瞬間的に最大限に高めることが出来るため、筋力の部位を操作して通常の人間の及ばない力を発揮することができるようになるのです。(瞬間的な持続力しか持たずに、カルシウムイオンの栽培を行う時間をその後必要としますが)

その他、ズバ抜けて高い知能を持っていて、人間の文化や心理・この世の理について、短期間に学んでゆきます。だが、心の中まではこの生物の方から読み取ることまでは出来ないので、達夫が話をする時は、口に出して、頭の中のこの奇妙な生物、“自称・シラヒゲ”と話をしなければならない。(ネーミングの由来は“白髭橋”の上で達夫に寄生したので。以降、シラヒゲと呼びます)


達夫は、その能力を用いて、隣のアパートに住む謎の男、黒木が、道端で絡まれているのを思わず助けてしまうことから、とある事件に図らずも巻き込まれてゆきます。
黒木は、いつもきちっと背広を着ていて、一見してエリートだが、その実、21歳の達夫に向かっても、キチンと敬語を使ってしゃべる38歳のオヤジ。なんだか謎の多い男なのですが、後で、株取引のトレーダーとして、アメリカ留学経験を持ち、大成功を治めのしあがった、たたき上げの人物。
自分の腕と才覚だけで、その頭角を現したのですが、ヤクザに6憶の大損をさせた、とのことで、この事件の背後には、闇経済であったり、ヤクザの裏社会が絡んでいます。


そんなことで、一介の水道職人である達夫にとっては、係わり合いにならない方が身のためなのですが、達夫は、なかなかどうして、気の強い性格をしていて、以前夢を諦めたこともあるため、とっても冷めた目でこの世をみつめる、いわば“イマ風の若者”。
エリートだろうが、ヤクザだろうが、自分の価値基準で判断しよう、とする、ホントの賢さを持っている、なかなか男らしいヤツです。


関わらないようにしようとしていたのに、達夫にしつこくつきまとってくる年上の真紀が誘拐されてしまい・・・


こんな感じの書き出し。
一番面白いのは、『寄生獣』を読んだ人には通じやすい、と思うんですが、この頭の中の寄生生物、シラヒゲとのクールな共存関係。
シラヒゲってば、とことん賢い、素敵なヤツで、余計なことも言うけれども、いつの間にかシラヒゲのせいで、達夫も成長してしまう。
16歳という年で、スプリンターの夢を諦めた達夫の冷めた生き方が、シラヒゲに出会うことによって、いつの間にか、しがないノーマルな人生だったはずなのに、一転して“冒険”へと踏み出さざるを得なくなる。

“寄生”されているのでありながら、それが、一人バディームービーみたいなね、カッコ良さがあって、楽しいわけです。シラヒゲの達夫への助言は的を得ているし、ボケ&ツッコミみたいな面もあって。
戦うべきものが見えた時って、冷めた男の子だって、本気にならざるを得なくなるし、そんな時、頼るべき頭ン中の蚊トンボのおかげで、超能力の使い手になっていたとしたら?
いい感じの2人3脚ぶりに、次第になってゆくのが、読んでるこっちは嬉しい!


その一方で、謎のエリートなオヤジ、黒木も、なかなか味わい深い人物で、達夫と対称的ではあるが、この人の物の見方が面白い。
日本の経済構造そのものに対して、疑問を感じる、東大出身で作家になった著者の、価値観を感じさせる人物でした。


・・・ところで、私は、電車の中や、外の待ち合わせなどの時に、持ち歩いて小説を読むのが好きなのですが。
偶然にも、駅のホームで私の前を歩いている、若そうな男の子のジーンズのポケットに、私と同じこの小説が、入っていました。


背もそんなに高い方ではない男が、ジーンズを腰骨までずり下げて履いて、足がもっと短く、スタイルはもっと悪く見えるんだけど、本人は気づいてないのでしょう。
せめてもっとめちゃ太いカーゴパンツとかだったら、それなりにカッコつけて見えんのに、中途半端な太さのジーンズをズリ下げて履くんじゃ、ただ短足に見えるだけで、ちっともカッコ良くない。


ま、そりゃ余計なお世話なんだけど、おそらく、そこまで格好ばかりに気を取られるヤツではない、ということの証かもしれない。
とにかく、この男のポケットに、この小説が無造作に突っ込まれてました。
その重みで余計ジーンズがずり下がっていましたけど。

それを見て、なんとなく、嬉しくなった。そうか、やはり、現代の若者にターゲットを絞って、描かれた小説なのかな、と。
言わば、夢を持たない人生、冒険のない人生を送る人への、この作者からのエールのような気がしたから。

この小説で何度も出てくる“邯鄲の夢”という中国の故事。
自分の憧れた成功というものが、実際にそれほどまでに価値のあるものなのかどうか、と問う“邯鄲の夢”。

男にとって、それぞれの人生にとって、何が大切なのか、と問いかけているようでもあり。
気軽に読めて、エンターテイメント性豊かな、裏経済ファンタジーでありながら、訴えかけてくるものもある、読み応えのある小説でした。


    This entry is dedicated to 白髭3


 

2006/10/31 |

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コメント(4件)

  1. 焼肉イチバーン!
    読みましたか!読まれましたか!
    もうね、達夫のローテンションぶりにも胸キュンvなんですが、
    何といってもシ・ラ・ヒ・ゲ☆
    素敵ったらありゃしない!蚊トンボって!ってか蚊トンボか?(笑)
    白髭もアンチ腰パン派なんですが、ポッケにシラヒゲ文庫を入れられた日にゃ
    ズルパンのチームB(ブサイク、デブ等に加入した者を指す)ボーイも
    「おさがりか?」と気持ち多めにみてやりたくなりますよね!
    伊織最新作のデイトレに特化したおセンチ作品「シリウスの道」も
    これまた、オススメです。機会があればぜひっ!

  2. 白髭さんへ
    読んだよぉぉぉぉ!読みましたよー!
    ずっと前に買ってあったんだけど、映画の原作ばかり優先して、ついつい遅くなっておりましたぁ!
    カッコイイ蚊トンボだったよ・・・やられた。
    思わず「私の頭にも是非一匹!」と言いたくなりますよねー
    パチンコの玉がヤクザの拳銃に当たるって発想が良かった〜♪
    ポッケにシラヒゲ文庫は、マサカ、と目を疑ってしまいましたね。なんだろうこのシンクロニシティは、って。
    最後、切ない終わり方だったね・・・達夫はどうなったんだろ、て言ったらいけないのかな。
    きちんと描かれていないから、一応、希望を持たせた終わり方、と曖昧に受け止めるべきですよね?

  3. むむ、“ミギー”プラス“スタンド”ですか!!
    そんな素敵なご説明には食指が動きますね〜!
    実は当方、映画の方は嗜む程度でどちらかというと漫画モノ故…
    さっそく本屋へgoします〜
    『テロパラ』は読了済でしたがこちらは寡聞にして知らずでしたわ…ご紹介さんくすです♪
    それにしても…
    T君の切り返しは素晴らしいですね
    >「“スタンド”って、スティーブン・キングの『ザ・スタンド』ですか、ジョジョの“スタンド”ですか」
    ウハハ!「お前はどこの”スタンド”じゃ」(笑)
    あたかも高段者同士の立会いを見るが如しですよ

  4. みさま
    こんばんは♪
    コメントありがとうございます!
    そうですか、みさまも漫画好きだったのですね!
    T君の切り替えしは素晴らしいでしょ?嬉しくなりました。でも、ミギー+スタンドで分かってくれる、テロパラ読んでるみさまもT君と同じレベルだなんて!
    こっちこそ嬉しくなります〜♪反応してくれてありがとうございます♪書いた甲斐がありました〜★




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