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61.ゆれる

ゆれる

深くこころを揺さぶられる、出色の出来映え・・・
オダギリジョーは、カッコイイばかりでなく、演技も本当に心に残るものだった。



母親の一周忌のために、久しぶりの帰郷をする猛(オダギリジョー)。カメラマンになって東京で成功し、忙しいとは言え、母親の葬儀にも顔を出さなかったため、父親はそんな猛に対し、否定的だ。
だが、山梨の実家でガソリンスタンドを継いだ兄、稔(香川照之)とは、どこか深い兄弟愛で繋がっている。
ここのガソリンスタンドでは、稔、猛ともに幼なじみの智恵子(真木よう子)がバイトをしていた。稔はチエに片思いであるが言い出せない一方、女扱いの上手い猛はそんな兄の知らないところで、以前よりチエとは仲が良く、実家に帰ったその日に体の関係に・・・。

翌日、3人で渓谷に出かける。さっさと先に行く猛を追って、吊り橋を渡ろうとする知恵に、高所恐怖症の兄、稔は勇気を振り絞って、智恵子を追って行く。
もみ合いになった智恵子は、橋から転落死してしまう・・・。

初めは事故と証言したこの事件を、兄の稔が「自分で突き落とした」と自供してしまうことから、今まで仲の良かった二人の兄弟の、いろいろな側面が次第に明るみに出てくることになる・・・。

脆く壊れやすい吊り橋を、兄弟愛に喩え、橋を渡ることや、そこから落ちること・・・。
その向こうに至る別の風景、見えなかったそれまでの物事、人間関係、またその危うさ・・・。
これまでの彼らそれぞれの人生と、その後の人生、展望・・・。
そういったものの全てを、この吊り橋を境界線に表現していて、素晴らしく冴えた世界観を構築している。
この脚本を書き上げた、この女性監督、西川美和は、本当に見事という他はない。

インタビューやフィルモグラフィーを見ると、まだ若干31歳、とても綺麗な人です。早稲田大学在学中から是枝監督に見出され、フリーのスタッフ(要するに弟子入り?)になり、「蛇イチゴ」から、まだ2作目に当たる今作だという。
それでこの重厚な世界観は本当に凄いです。
「1作品終わると空っぽになる」というけど、これだけの才能を開花させているんだから、本当に頼もしい限り・・・。
兄弟間のコンプレックスや兄弟葛藤、「カインとアベル」を彷彿とさせるこの作品。本当に凄い人がいるもんです・・・。なんてことでしょう・・・。

オダギリジョーの熱演も、本当に素敵だった。こないだ、彼は、「別に多くの人に見てもらえなくったって・・・」なんて言ってたが、そんな気持ちで臨んだ作品らしい。
きっと本当に身を入れて取り組んだからこその、この言葉が出てくるんだろうなぁ、と感じてしまう。監督は、オダギリジョーの演技に絶大な信頼を置いていた、というだけあって・・・本当にカッコイイだけでなく、その演技にも、スクリーンに釘付けになってしまった。

香川照之も、一瞬一瞬の表情が、次にどんな表情を出してくるのかと、とても真剣に見入ってしまった。緊張感を漂わせる彼の演技も、本当に絶品。
なんだか、あの目が忘れられない・・・。

::::::::この先ネタバレ。鑑賞予定の人は、読まないで下さい::::::

オダジョー

 

 

 

 

なぜ彼がああいった行動に出たのかと、大きな疑問符が頭を駆け巡ってしまうんだけれど・・・
では、あの時、猛があの証言をしなかったら、と考えると。
右手首に傷のある稔、その傷の癒えない手首に、手錠が掛けられるシーンを、胸の痛みを持って思い出してしまう。

おそらく、本当に、智恵子の死は事故だったのか、そうでなかったかは別にして、裁判終わり間近には、稔にとっても、猛にとっても、それは最早“事故”ではなくなってしまっていたのではないか、と私には思える。

“心的現実”、という言葉がある。
客観的な現実のもっと下に位置する、深層レベルの現実。
ここで、事故を振り返ってみると、こころが大きく“揺れた”後の、それぞれ兄弟の中に、細い欄干の吊り橋を断ち切ってしまった、踏み外してしまった後の彼らには・・・。

この“事実”に値する物事が、それまでの形でなくなってしまった、そんな心に、大きく変化してしまっている。

そんな気持ちのまま、兄・稔が、猛の助力でこちらの“現実”に戻って来れただろうか?
おそらく、生きていくことすら、ままならなくなっていたに違いないと思うのだ。
牢に入ることによって、彼は、その責務を務めることができた、
そしてまた、守られていたのでは・・・そんな気さえ、なる。

今までとすっかり様変わりしてしまった兄の姿に、やはりこころの“揺れる”猛。
彼にもまた、兄の見ていた“心的現実”へと、その現実そのものの形を変えてしまったような。

刑期を務めたあと、7年後に思い出す、子供の頃の繋がれていた手と、兄との絆。
当時、“手”が繋がれていた彼らは、本当は向こう側にも行けたのだ。
智恵子にもおそらく、その手は、必死な姿で、伸ばされていた・・・。

そう気づいた猛の心に、もう一度その心的現実が変わってゆく。
その表情を、オダギリの顔を歪めて慟哭する姿で、・・・私達は、離れてしまった手がもう一度繋がれるのを。見る気がする。
本当に見事な構成だった。

 

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コメント(134件)

  1. ゆれる

    出演 オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀 ほか 母の一周期で帰省する。 猛(オダ

  2. ゆれる

    散々観よう観ようと思いつつ後回しにしてしまった作品です。気が付いたら終わっていました。仕事休んでも横浜映画祭行こうかとも考えたのですが、やってくれて良かったです。
    もちろん、オダギリジョーなんかではなく、真木よう子がお目当てですからぁ。

  3. 奪うもの、奪われるもの。~「ゆれる」~

    いやもう、どんだけ待ち焦がれたかって。(笑) これだけはスクリーンで絶対見ようと思っててやっと行ってきました。 ゆれるオダギリジョー 西川美和 香川照之 バンダイビジュアル 2007-02-23売り上げランキング : 83Amazonで詳しく見るby G-Tools あのですね・・・….

  4. 「ゆれる」

    去年、評判になった映画である。公開当時は見逃していて、もう映画館でやらないかなと思っていたら、年明けにTOHOシネマズ六本木で1週間上映すると知って、観に行った。
    最近は小泉今日子さんの懐かしのメロディを聴いて 

  5. いまさらながら観ましたよ。
    ミステリ仕立てで興味を引っ張っていくのが、うまいと思いました。
    あんなときの記憶って、じつは、あいまいなものなのかもしれませんね。
    人間の危うさ。はかないものですねえ。

  6. ボーBJジングルズさんへ
    こんにちは☆コメント&TB,ありがとうございます〜♪
    アレ、ボーさん、こちらまだご覧になっていらっしゃらなかったんですね!
    そうなんですよね、ミステリっぽい感じも面白くて、次の展開が気になってしまうんですよね。
    さらに、香川照之の演技にはクギづけになりますし。
    記憶って頼りないものですよね。人間の心にゆだねられているものなんですよね。

  7. TAKE 42「ゆれる」

    第42回目は「ゆれる」です。
    この映画はずっと見たかった映画の一つです。
    DVD発売とともにすぐに観ました。
    あらすじはオフィシャルサイトからの引用です。
    <以下あらすじ>
    東京で写真家として成功した猛は母の一周忌で久しぶり…

  8. ゆれる

    揺れるよ揺れる,どこまでも・・・

  9. 「ゆれる」

    ワーナーマイカル(板橋)のアンコールシネマにて、見逃していた2006年話題の邦画「ゆれる」を観賞。監督は西川美和。出演はオダギリジョー、香川照之、真木よう子ほか。東京で活躍しているカメラマンの猛は、母の一周忌で帰省する。彼は実家のガソリンスタンドを継いだ兄の…

  10. 【ゆれる】

    ◆監 督   ・・・ 西川美和
    ◆脚 本   ・・・ 西川美和
    ◆音 楽   ・・・ カリフラワーズ
    ◆CAST   ・・・ オダギリジョー/香川照之/真木よう子/伊武雅刀/新井浩文/蟹江敬三/木村祐一/ピエール瀧/田口ト

  11. 映画レビュー#41「ゆれる」

    基本情報 「ゆれる」(2006、日本) 監督:西川美和(蛇イチゴ) 脚本:西川美和 制作:熊谷喜一 企画:是枝裕和 出演:オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、真木よう子、新井浩文、蟹江敬三、木村祐一、田口トモロヲ 2006カンヌ国際映画祭監督週間正式出品作品 公式サイ…

  12. ゆれる [Movie]

     映画(DVD)「ゆれる」(西川美和:監督)
     
     かなり高評価なのを耳にしていた本作品。
     昨夏公開時に見逃し、
     さらに今年2月の「アサヒベストテン映画祭」でも
     当日体調を崩して観れず。
     DVDにてようやく観ることができました。
     「あの橋を渡るまでは、兄…

  13.  こんばんは♪
     TBどうもありがとうございました◎
     「心的現実」ですかー、なるほど。。
     その変化の流れ(構成)も、
     演じる兄弟も、見事でした。
     とくに香川さん、素晴らしかったですね。

  14. miyukichiさんへ
    こんばんは〜☆TB,コメントありがとうございました。
    お久しぶりです!お元気でしたか?
    この作品、今リバイバル上映やってるみたいですね。
    いやはや、凄い人気だなと思います。
    そうですね、香川照之、特にすごかったですよね。もう、目が離せませんでした。

  15. ゆれる 

    ★★★★☆  兄弟の存在とは難しいものである。子供の頃は、弟は兄を慕い尊敬し、兄はそんな弟が愛しくて可愛がるものだ。 ところが大人になると、立場が逆転することがある。自由な弟のほうが処世術が優れ、ポジティブで人に好かれる。一方兄のほうは、堅実で人柄は良くと

  16. こんにちは、ちょっと古い映画になりましたが、TBさせてください
    西川美和監督、若い女性なのによく兄弟の心情まで掘り下げられたものだと感心しています。きっとスタッフが素晴らしいのでしょうね。
    「蛇イチゴ」も良かったけれど、まだ青っぽい部分がありました。この「ゆれる」でかなり進化しています。これからどうなって行くのか、注視して行きたい監督ですね。

  17. ケントさんへ
    こんばんは〜☆コメントTBありがとうございました!
    そうですね、これ、兄弟の葛藤を、上手に描いたものでしたよね。
    まるで、カインとアベルでしたね。
    ま、聖書の話とは逆になるわけですが・・・
    『蛇イチゴ』はなかなか人気で、全然手に入らないんですが、これも見てみたい作品だったりします。

  18. か細い橋は朽ちていなかった●ゆれる

    「兄を取り戻す」
    取り戻したのは、兄が弟を取り戻していた。
    主人公のカメラマンである、弟の早川 猛(たけし)役には、
    『激辛カレーを食べて、あなたは「辛い!」と怒ります?●SHINOBI』や、
    『ラストま??
    

  19. か細い橋は朽ちていなかった●ゆれる

    「兄を取り戻す」
    取り戻したのは、兄が弟を取り戻していた。
    主人公のカメラマンである、弟の早川 猛(たけし)役には、
    『激辛カレーを食べて、あなたは「辛い!」と怒ります?●SHINOBI』や、
    『ラストま??
    ??
    @

  20. ゆれる

    さて、日曜は、コブクロの蕾を聴きに八戸フォーラムへ「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」を観に行って、

    投稿日時:
    2007.04.21 @ 6:45 PM
    投稿者:
    欧風
  21. お久しぶりです。TB失礼します。
    本作、凄くよかったのですが、映像や構成の巧さに、内容が追いついていない気がしてしまいました。おそらく私が周りの評判を聞きすぎて期待しすぎたからだと思います。本作には邦画の良さが出てる気がします。

  22. ゆれる

    人気があったので見てみました。「ゆれる」です。 東京で写真家として成功し、久しぶりに帰郷した猛は、実家に残って家業を継

  23. もももさんへ。o ○
    こんばんは〜☆お久しぶりです!コメントTBありがとうございます。
    確かに、作為的な物語進行を、私も感じないではいられませんでしたヨ。
    ただ、あまりにも構成が素晴らしかったですからね。ある程度“頭で考えた”ようなところがあっても仕方が無かったかなと、私は目をつぶってしまいました。
    他の邦画で、いくらでもくだらないのがありますし・・・。このように野心的なまでに芸術的な作品があっても、悪かないだろうと

  24. 『ゆれる』’06・日

    あらすじ東京でカメラマンとして成功している猛(オダギリジョー)は母の一周忌で帰省する。彼は実家のガソリンスタンドを継いだ独身の兄の稔(香川照之)や、そこで働く幼なじみの智恵子(真木よう子)と再会し、3人で近くの渓谷に行く。猛が単独行動している間に、稔と…

  25. ゆれる

    地味な映画ながら
    オダギリジョーさんと香川照之さんの好演で話題になりましたね。
    DVDで鑑賞。
    ?
    東京で写真家として成功した猛は、母の一周忌のために帰省する。
    実家のガソリンスタンドでは父と兄の稔、
    そして幼馴染の智恵子が働いていた。
    法事の翌日、猛と稔と…

  26. ≪ゆれる≫(DVDレンタル@2008/01/01)

    元旦の昼は<バーミヤン>
    で食事した後にすぐ隣にあるレンタル店へ
    今年一本目の映画に何を観ようかと悩んだ結果…
    ゆれる
    まぁ、暗めで正月っぽくはないんだけど、昨年末に発表された
    “オダギリジョー”結婚記念って事で彼が主演のこの作品

  27. ゆれる

     『あの橋を渡るまでは、兄弟でした。』
     コチラの「ゆれる」は、7/8公開になったオダギリジョー主演の家族ドラマの要素が強いミステリー映画です。オダジョーに香川照之と新井浩文といった実力派のキャストで、見応えもありました。またオダジョーの演技の幅が、広がっ…

  28. このシナリオを書くのは大変だったと思います。
    でも、がちっと書き上げて、”ゆるぎのない”姿勢で撮影に臨んでいる感じがします。演技がいちいちていねいですよね。ちょっとした表情や仕草が。
    トラバがうまくできなかったので、読みにきてくれるとうれしいです。

  29. denkihanabiさんへ
    こんばんは。コメントありがとうございました。
    そうですね、この映画はすごかったですね。
    こんなに人と話したくなる映画も他にないですよね。
    >トラバがうまくできなかったので、読みにきてくれるとうれしいです
    出来れば、そういう場合、コメントのURL欄に入れていただくか、あるいはコメント欄の中でも、リンクするようカスタマイズしてありますので、そちらに載せていただくか、していただけるとありがたいです。

  30. ゆれる(感想101作目)&相棒

    ゆれるはNHK衛星第2でして鑑賞したけど
    前から鑑賞したくて放送を待ってた作品だったが
    結論は揺れてたの吊り橋と兄弟2人の心だ
    内容は1周忌に東京から帰省して来た弟が
    兄の働くガソリンスタンドで幼馴染と再会し
    兄と3人で吊り橋に行くも幼馴染が橋から転落…

  31. 「ゆれる」 「檻」の囚われ人

    「ディア・ドクター」の記事を書いたとき、同じ西川美和監督の「ゆれる」を未見と書い

  32. 映画「ゆれる」

    監督:西川美和(ググったら カワイイ人で驚いたですよ賞 受賞)
    出演:オダギリジョー(◎)香川照之(絶品!) 真木よう子 
    出演:木村祐一(とてもいいエッセンス)伊武雅刀 
     
    東京で写真家として活躍する弟。田舎に残った兄。ある時、
    弟の昔の恋人で現在は兄…

  33. ゆれる

    あの橋を渡るまでは、兄弟でした。

  34. ゆれる(2006)

    西川美和監督、オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、真木よう子、新井浩文、木村祐一、田口トモロヲ、蟹江敬三、ピエール瀧。「マイ・ブラザー」は兄がアフガン戦争から帰還したのをきっかけに兄弟の心が別人のようにゆれる話だったが、これは兄弟が吊り橋を渡ったのをきっ….




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